10年前の俺へ

【夫のターン】


「ねえ、修ちゃん修ちゃん」


「なんだよ?」


「これ! これ、凛と私と修ちゃんで応募しようよ」


 そういって妻が持ってきたのはテレビ番組の読者参加型企画だった。


 企画内容

『10年前のあなたへ』という題目で手紙を書いてみませんか? 採用された方には5万5千円。今後のあなたにご縁がありますよーに……なんて、ダジャレた文句で締めくくられていた。


「手紙かぁ……俺、あんまり書いたことないんだよなぁ」


「なにをおっしゃる! あんな情熱的なラブレター、書いてたくせに」


 おい、貴様。


「ふぅ……まあ、いいけど見るなよ」


「わかった!」


 ……嘘くさい。


                  *


 『10年前の俺へ』


 おーい! 頑張ってるかー? 10年後の俺です。大学2年で色々進路に悩んでるかー? 彼女ができないで悩んでるかー?


 お前はもう少ししたら、合コンでイカれた女に出会う。


 そいつが、未来の、妻だ。


 ハッキリ言って、メチャメチャ可愛い。今まで出会った中でダントツだ。


 お前は緊張して、ビール飲めないのに頑張ってまずそうにビール飲む。


 でも、そんなにガチガチになる必要ないぞー。


 そいつ、お前のことを影で『トレンディ』って呼んでるから。全然恋愛対象に入ってない。全然な。


 で、お前は帰り道、勇気振り絞ってメルアド聞く。で、なんと教えてもらえるんだこれが。


 ……で、ドキドキしながら送ったメールは4日返って来ない。


 そいつ、そーゆーやつだから、いちいち落ち込むなー。


 でも、お前は頑張る。どれだけ、返信が遅くても。どれだけ、返事がそっけなくても。勇気振り絞って振り絞って振り絞って、ついにデートに誘う。


 俺はお前の頑張りを今でも誇りに思ってるよ。


 ……まあ、フラれるんだけどな。


 理由は、ワーキングホリデーに行くから。


 ……それ嘘だぞー。


 で、お前はアホだからバイトを始める。ワーキングホリデーに一緒に行くために。


 嘘なのに、お前は3ヶ月間で必死に100万稼ぐ。嘘なのに。


 そして、もう一回お前は告白する。


 成功はしない……成功はしないけど、まんざらじゃなさそうな感じになる。


 結果、ワーキングホリデーにはお前1人で行くことになる。


 意味がわからないだろう? 安心しろ、俺も意味がわからない。


 その後も、お前は大変だ。その女のせいで、恐らく常人の100倍以上大変だ。


 ……でも、幸せでもある。倍くらいは、幸せだ。100倍以上大変で、倍くらい幸せ。全然元は取れてないけど……10年前のお前に戻っても、またそのイカれた女と結婚したいぐらいには……まあ、幸せだ。


 だから、頑張れ。お前は、ただただ頑張れ。


             *


「どんな感じ?」


「うわっ! バカ見るなよ!」


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