ママ友

【妻のターン】


 近所のママ友との喫茶店での束の間の雑談。夫の身体を張った動画(にゃんにゃん動画)のおかげで、今日も私はヒーローだ。


「――ああ、やっぱり里佳っちのとこは楽しそうでいいわねぇ。私の夫なんて本当につまんないんだから。こんな面白動画撮らせてくれないよ普通」


 いえ、私の夫も似たようなもんですけど。


「でもさぁ……そんな慌ただしい家庭って浮気するんじゃない?」


 うわっ、ちょっと暗い澤田さん。何をおっしゃるんですか。


「大丈夫ですって、夫は私にぞっこんラブですもん」


 なぜか爆笑するママ友たち。ちょっと失礼じゃない?


「でも、男ってやっぱり浮気する生き物だからねー、私なんて半ばあきらめてるんだけど」


 さ、澤田さん。何かあったんですかそんなに頬杖ついて。


「そんなワイドショーの見過ぎじゃ――」


「ああぁ、斎藤工と浮気して成田離婚したいなぁ」


 ……澤田さんの闇は深い。


「まあ、でも里佳っちの家ではそんなに刺激的な毎日だったらもしかしたらね。だって、男って安寧を求めるじゃない? 隠れマンションの1つでも持ってたりして。そしたら、里佳っちどうする?」


「殺しますよ」


 一瞬、シーンと静寂になり、その後なぜか爆笑。


 ――ギャグじゃないんだけどな。


「あーでも、本当よねぇ。いっそのこと死んでくれて保険金降りてくれた方がよっぽどね」


              ・・・


 前言撤回。澤田さんの闇は深淵である。そして、今度の静寂は一瞬ではなかった。


「………なーんちゃって」


 遅い……遅いですよ澤田さん。


 『隣の芝生は青い』とはよく言うが、ママ友のお話は、自慢と自虐と噂話が主だ。自慢ばっかりすれば嫌われるし、自虐ばかりでもひかれる。噂話もあまりすると、ミイラ取りがミイラになる。要するにバランス感覚が重要だ。


 一般社会ではくだらないコミュニティと思われるかもしれないが、私から言わせると社会的な縮図がここにはある。ただ、仕事と違う点は、階級がないから誰が誰を敬えばいいかそれの探り合いになっているだけだ。


 あくまで友情とは別物、助け合う『ママ仲間』といった方が適切なんだろう。私のところは、特に面白い素材(夫)がいるので世間話には事欠かないが他のコミュニティでは結構エゲツない話も聞く。


 ボス猿である小林さんは、面倒見が良く優しい姉御肌のお人だ。頼りになるいいボス猿が仕切ると、必然的にそこはいいコミュニティになる。


「ん? 里佳っち、私の顔になんかついてる?」


「いいえ。小林さん、このバナナオレ美味しいんです。ちょっと飲んでみます?」


「うん、ありがとう……んー、おいっしい」


 ちなみに、私の密かな楽しみはボス猿である小林さんにバナナ製品を食べさせることだ。別にバレても小林さんの性格上、笑って済ませてくれそうな気がするが密かにやることに意義がある。


            ♪ ♪ ♪


 ん? メールだ。


『すまん! 今日飲み会で遅くなる』


 そんなメールが夫から入ってた。


『修ちゃん、浮気したら殺すから』


 即座にそう返信した。


 その後、ママ友との雑談が終わるまで10件以上の着信が入っていた。


『マジだからね』


 帰り道、それだけ送った。


 さーて、ご飯作るかぁ。








 その後、夫は泣きそうな顔して2次会には行かずに帰ってきた。

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