アレは……

【夫のターン】


 朝、起きて食卓に向かうとすでにご飯一式が用意されていた。味噌汁の匂いが薫り、けだるい眠気が少しだけ解消される。すでに、妻は片付けの段取りに入っておりもう間もなく食卓へ座らんとしているところだ。


「あっ、修ちゃん、おはよう」


 そう言ってエプロンを外しながらお互い気恥ずかしいようにはにかむ。


 ――まいったなぁ、幸せだ。


「……ねえ、パパ、ママ。どうしてニヤニヤしてんの?」


 凛が不審そうに床まで届かぬ両足をパタパタさせる。


「い、いや何でもない。さ、食べよ食べよ」


 そう言って3人揃って「いただきます」して味噌汁をすすり始め――


「ねえ、パパママ。夜、なにしてたの?」


 ブフーっ!


「げほっ、げほっ……な、なにって!?」


 思わず味噌汁を全力で吐き出してしまった。かろうじて料理にかけなかったのは長年の経験のなせる技だろう。凛ちゃんは酷く真面目な顔をしている。


 よ、夜って……いつのことだろうか。


「ほらっ、凛ちゃん。具体性に欠けるなあ。パパは昨日幾つもの事象をこなしていて、どの行動が何に当たるかそこんところもう少し詳細に……」


「えーっ、パパ、なに言ってるかわかんなーい」


 し、しまったぁ。動揺し過ぎて難しい言葉のオンパレード。チラッと妻を見ると――われ関せず顔で味噌汁拭いてやがる。ありがたいけど、卑怯者ーっ!


「えっと……ごめん、何時頃だったかなそれ?」


 時間帯だ。問題は時間帯なのだ。


「そんなのわかんないよぉ」


 こ……このバカ娘がぁ。これから時間をこまめに見るように教育せねばならん。時は金なり、時間は有限だぞこの野郎。


 ――って、手掛かりなしかぁ。気配なんて無かったんだけどなー。


 再び里佳を見ると、すでに味噌汁を拭き終った雑巾を熱心に手洗いしている。

 いいのか!? 俺が答えちゃっていいんだな!


             ・・・


「あれは……にゃんにゃんという」


 ブフッ!


 お、お前(妻)! 笑ってんじゃねぇよ!


「にゃんにゃん?」


 純粋に聞き返す娘の追撃が厳しい。


「ああ……秘技だ。我が家の秘技。絶対に他言してはいけない」


 いいのか、悪いのか、もはやわからん。とりあえず、誰にも言わないでほしい。


「ふーん……ママ、にゃんにゃん痛かった?」


 ええっ、ママに感想聞かないでくれるかな! いろいろとショックだから。


「凛、昨日のはそんなんじゃなくてプロレスごっこよ。さっき話してた事でしょ? お父さんがふざけてグーリグリの刑してたやつ」


 こ、この女……知ってやがったな。謀られた。


「ふーん、ねえ、パパ、じゃあ、にゃんにゃんって何?」


 えらい墓穴掘っちまったぁー!


              ・・・





 結局、ごまかすために、娘に人形セットをプレゼントすることになった。

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