サンタのプレゼント

【妻のターン】


「ねえ、凛。サンタさんのプレゼントってなにが欲しい?」


 夫が娘を高い高いしながら尋ねる。


「富!」


 そう答えた瞬間、修ちゃんが私を睨んだ。


「普段なに教えてるんだお前ってやつは……」


「大丈夫大丈夫。そういう意味じゃないから。別に娘は修ちゃんが薄給でも気にしてないから。清く正しく、清く正しく」


「べ、別に普通だろ! そんなに給料安くないと思うぞウチの会社」


「まあまあ。大事なことはお金じゃないから。清く正しく。清く正しく」


「……だから、めちゃめちゃ安月給な感じを出すんじゃねぇよ。普通だよ! ふ・つ・う」


「凜ちゃん、大事なのはオンリーワンよ。一つ秀でたところを持って、努力し続けなさい。間違っても普通を自慢するようにはならないように」


「お、お前……核心をえぐるんじゃねぇよ。今は、プレゼントの話だろ! 凛ちゃん、他のものは? 富とかいう漠然としたものじゃなく」


 夫がそう尋ねると、娘の凜が長考を始める。


「うーんと……」


「言っておきますけど、サンタさんの懐事情も考慮に入れながらね。ウチのサンタさんはお小遣い制――「うわあああああああああっ、なんでもないよ――――凜ちゃん、なんでもいいんだよぉ! ちょっと待っててねぇ」


 そう言って夫が私の側に駆け寄る。


「……おい、里佳! ふざけんじゃねぇぞバカ」


 コソコソ声で、めちゃめちゃ凄んできた。


「だってさぁ……あんまり高いもの頼まれても買えないでしょう?」


 現実主義の私に対し、夫は常に夢見がちな乙女チック主義だ。


「だからって子どもの夢を壊すのが……それがお前のやり方か?」


「お小遣い制って最高の夢じゃない?」


「ふ、ふざけんなばかやろう。好き好んで小遣い制なんかするかよ」


「……」


 どうやら、認識の相違があったようだ。


 そうやってコソコソ夫婦間会議を行っている間、娘の目がキラリーンと光る。


「弟! 私、弟、ほしい」


 一番ヤバい質問キタ――――――――!


「……すぐには無理だな」


 夫が顔を真っ赤にして答える。


「なんで?」


「だ、だって……ほらっ、1、2年後だったらなんとかね? なあ、里佳」


「う、うん。頑張ろうね!」


 なんか、恥ずかしい。なんだか、すっごく、恥ずかしい。


「……なんでパパとママが頑張るの?」


「「ア、アハハハハハハ」」


 夫婦の乾いた笑いが部屋中に響いた。


「まあ……とにかく、サンタさんも弟は難しいと思うなぁ」


 夫がなんとか代案を提示させようと奮闘。


「やだぁ! やだやだやだ、すぐほしい」


 駄々をこねる娘。


「弟はいったん、おいておこうか。他! 他には欲しいものは?」 


「ええっと……ワンワン!」


 二番目のヤバい質問キタ――――――!


「……ワンワンかぁ。どう……する里佳?」


「うーん……飼えなくもないとは思う。基本専業主婦だし。散歩とかも別にできるだろうし。一応、マイホームもあるし」


「……一応って、なんだ。立派なマイホームだろうが」


「けど……」


「けど?」


「私、ネコ派だから」


「知らん! 壮絶に、知らん」


 結構重要な問題なのだが。


「ねえ、凜。にゃんにゃんじゃダメ? サンタさん、ネコ派だって」


「いや! ワンワンがいい! ワンワン! ワンワン!」


 な、なんてわがままな娘だろうか……親の顔が見たい。


「どうしようか……里佳、なんかいい案ある?」


「うーん……あっ、そうだ! パパがワンワンになるっていうのは?」


「!? お前……なにをバカなことを」


「またぁ! 以前、にゃんにゃんやってたじゃーん」


「……ぶん殴るぞ貴様」


「いいよー」


「「!?」」


 まさかの娘……了承。


「やったぁ。じゃあ、パパがワンワンになるってことでプレゼントは他のものね!」


「ちょ……お前……勝手に」


「落ち着いて、修ちゃん。せっかく、娘が犬を飼うことをあきらめたのよ。犬を飼うことに比べたら、犬になることなんて取るに足らないと思わない?」


「そ、そりゃまあそうだけど……俺の尊厳は!?」


「またぁ! すでに、一回にゃんにゃんしてるからもういいじゃーん」


「……ぶん殴るぞ貴様」


「ねえ、パトリック……パトリック!」


「凜ちゃん……なんで俺の頭を撫でながらそう呼ぶの?」


 夫の顔はすごくひきつっていた。


 すでに娘は女優モード。完全本格なりきりスタイルの凜ちゃんである。


 しかし……パトリックとは、古風な名前ですこと。


「ママ―! ワンワンがしゃべるー」


「あらあら、パトリック。あなたは犬なんだから。しゃべらないでしょう?」


「っ……」


 夫が殺意を持った目つきで睨んでくる。


 もう、反抗的な犬なんだから。


「パトリック」


 娘、ナデナデ。


「……」


「パートリーック」


 娘、喉をゴロゴロ。


 こんなところに、わが血脈を感じてしまう。完全に夫扱いが手練れている4歳の少女。


「……う――――! バウッ! バウバウ! バウバウバウッ!」


 成り下がった―――――――! あきらめて、犬になった、夫。


「ウフフ……パートリック。フフ……パートリック」


 娘がウットリしながら犬(夫)を撫でる。


「私にもなでさせてー」


 そういいながら近づくと、パトリックの瞳がキラーンと光る。


 ガブッ


「痛っ……あーん、噛んだこの犬」


「ママは愛情が足らないんだよ」


「バウッ! バウバウ!」


 な、鳴き声で同意……完全に犬してるなー。


「ゆっくりなでたらきっと噛まれないよー」


 そういいながら、娘、ナデナデ。


「本当かなぁ……」


 不安だわ……狂犬病の予防接種は打ったのかしらこの犬。


 ナデナデ。


「ねっ」


「……ほんとだー」


 意外にも嬉しそうな夫(犬)。なんだか、私も嬉しくなってしまう。


「よーし、パトリック! このボールを取ってくるのよー……エイッ!」


「バウッ! ワオ―――ン!」


 遠吠えしながら4足歩行で走る夫(犬)。


 もはや、完全に、犬してる。


             ・・・


「クゥーン……クゥーン……」


「よしよし。パトリック……よしよし」


 ナデナデ


 スリスリ


 すり寄ってくる犬をいい子いい子で抱っこ。大分私にもなついてくれて、嬉しい限りである。可愛い可愛い。


「ウフフ……パトリックもママのお胸好きなんだね」


「「……」」


                 ・・・


 スゥー……スゥー


 1時間後、娘が遊び疲れて眠った。


「お疲れさま。はい、飲み物」


 BuBuBuBuBuBu……


「……なんで、皿でミルクで地べたなんだよ。また、噛むぞバカ」


「ごめ――ん。でも、助かった。凜も一通り満足したと思うし、また別のプレゼントにするでしょう」


 BuBuBuBuBuBu……


「だといいんだけどな。まさか、犬になりきる日が……お前、携帯のマナー音なりまくってるけどいいのか?」


「えっ……今は、いい」


「……!? まさか……お前、携帯貸せ!」


「あっ、ちょ……プライバシーのしんが――」



               *


 続ワロス『夫のワンワン動画』


               *









 夫が、私を、殴った。

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