だっふんだ


【妻のターン】


 ……ええっと、どこしまったっけ。


 これは……違う。これは……なんの用途に使うんだこれは。で、これは……


 ガラガラガラ


 その時、見慣れない小箱が落ちてきた。


 私の物じゃない……修ちゃんのものだ。


 まあ、当然と言えば、当然だ。ここは修ちゃんの部屋なんだから。


               ・・・


 なんとなく、ベッドの上に持ってきてしまった。予想するに、エッチな本。妻として、夫のそういうのを覗くのは気がひける。


 でも……残念ながら、もう私、開けることを決めちゃっている。


               *


 君に贈るラブレター


 こんな形でしか愛を伝えられない僕を許して欲しい。8年越しの君への想い、ここに余さず書こうと思ってます。


 香織ちゃん……正直に言わせてもらって最初は君のことが嫌いでした。僕の真ん前にいた君に、なんか笑われてる気がしたからです。プリントを後ろへ回す君、不愛想に受け取る僕。


 最終的には勘違いって気付くんだけどね……ははっ


 とにかく、君のことを避けていたにも関わらず学校行事では、何かにつけて苗字が近いから君とはいつも近い位置にいたね。


 君は針谷、僕は橋場だから。


 君の見方が変わったのは文化祭だった。僕はいつもの通り君を無視するかのような態度で他のクラスの合唱を聴いていた。そんな中、


 ギーコギーコ、ギッコンバッコン


 君は折りたたみ式の椅子の上に乗って遊んでいたね。


 何をやっているのかと、ジッと凝視していると、君は言ったね、


「そんなに見ないでよー」


 って。はにかみながら恥ずかしそうに笑う君。


 その瞬間、僕が恋に落ちたんだ。どうしようもなくね。


 帰り道、僕は自転車に乗りながら全力で叫んだ。


「ギャーップ! ギャー――――――ップ!」


 だって今まで、嫌いだった君に突然そんな事言われたら好きになるしかないじゃないか。だから……叫んだんだ。『ギャップ』って……


 すぐに友達に相談した。と言っても、もちろん直接的に好きだとは言えない。だから、それとなく「そう言えば針谷さんって彼氏いるの?」って。


「ああ、確かいるよ」


 ……2秒でフラれた瞬間だった。勝手にフラれた瞬間だったんだ。


 聞くところによると、結構有名なカップルだったんだね。僕、そういうの疎いからわからなかったよ。


 それから僕の報われぬ片想いが始まったんだ。


 ちょうどハリーポッターが流行っていたので、君を心の中でハリーと名付けた。目覚ましテレビのお天気占いを見るようになって、やぎ座の動向を知るようになった。


 でも、君の幸せを壊すつもりなんてない。わかれてほしいなんてこれっぽっちも……


 だっふんだ!


 ……ごめん、つい感情が高ぶってしまって書いてしまった。


 でも……いいだろ? これは僕が勝手に書いているだけなんだから。僕が勝手に君と言う人間を愛して、想ってるだけなんだから。それくらいは許されるだろう?


 これは、決して出すことはない君へのラブレター。君への届かない想いをここに綴った君へ贈らないラブレター。


                           橋場 修


 PS.ベイビー愛してる


               *


 ……凄いものを見つけてしまった。


「ふぅ……ただいまぁ……ぁあああああああああああっ!」


 リビングに入ってくるや否や、必死に私から手紙を取り上げる夫。まあ、そりゃあそうだろう。私ならこれが見られた時点で自害している。


「み、見たのか! この手紙の中身見たのか!?」


 青ざめた様子で私を問いただす夫。


「……なんなの、そんなに見られたくないものだったの?」


 さすがに夫が可哀想になったので、見なかったことにしておいてあげた。


「い、いや。見てないならいい! 見てないならいいんだ!」


 何度何度もそう呟く夫。


「それより修ちゃん、ちょっとその荷物を二階を移動させたいんだけど?」


「あっ、ああ」


「ありがと。じゃあ、先に二階行ってくるね……だっふんだ!」


 パタン


 そう言い残してドアを閉めて下へ降りた。


             ・・・


「うわあああああああああああっ!」





 しばらくして、夫の壮絶な叫び声が響き渡った。

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