一家団欒?
【妻のターン】
4月2日朝5時。別名夫にDV(通称ドメスティックバイオレンス)を受けた翌日の朝。
「んーー」
大きく伸びをしてエネルギー充電。やっぱり、広いベッドは快眠しやすい。
階段を降りてリビングに入ると夫発見。どうやら起きているらしいが、ワナワナと小刻みに震えている。
「あっ、おはよー。早いね、よく寝れた?」
「……俺は今、昨日のことを全くと言っていいほどひきずっていない、きれいサッパリとした陽気な挨拶に、耳を疑ったよ」
「なんで?」
「……」
無視。どうやら、まだ、怒っている。怒っているらしいことを察せよと、修ちゃんは全力で表現していた。
しかし、そうはいかない。そんな手にはのらない。いつまでも怒ってられたら、家庭円満に傷がつきかねない。
夫は仕事へ行き、妻は家庭を守る。現在専業主婦である貞淑な妻として、文字通り家庭を守るために昨日までのことを棚上げにする。
全力で、棚上げにします。
「朝ごはん60分後ぐらいにできるからねー。凛ちゃん起きるまでには機嫌直してよー」
曰く、夫婦喧嘩を子どもに見せないでよ。
娘の教育をちらつかせ、怒りの矛を収めていただく。卑怯だとなんだと言われようと、家庭を守るためにはどんな手段でも講じるという妻の覚悟である。
ああ、なんて、いい妻なんだ私ってやつは。
「……うがああああああっ」
「……」
今日も、ソファにバタバタして怒りを発散する修ちゃんの姿は可愛い。
いつも通りの一日。まったくもって。
朝ごはんが出来た。
夫が食卓の椅子に着席。極力不機嫌顔して、怒ったんだぞキャンペーン絶賛実施中。やがて、娘の凛が起きてきて、ネムネム顔で椅子に座る。
「揃ったね……いただきまーす」
「いただきます」
「……仕方なく、いただきます」
娘が来たので機嫌は直して頂いたが、『仕方なく』というささやかな抵抗を示す夫は、可愛いと思う。
「ママー、お弁当なに?」「キャラ弁じゃないことは確かね」「なんで!キャラ弁キャラ弁」「あれ難しいのよ、時間かかるし」「キャラ弁キャラ弁」「だめー、のり弁のり弁」「キャラ弁キャラ弁」「のり弁のり弁」
ち、父親なしで一家の団欒が成立してしまっている事実。はっきり言って、修ちゃん、放置プレー。機嫌を直してもらう意味は、まったくなかった。
「キャラ弁がいいキャラ弁がいいい!」
「な、なんてわがままな子。親の顔が見たい」
ジーッ。
「……なぜ、俺を見んだよ。お前もだお前も」
「私は甘やかしてません」
「お、俺だって別に甘やかしてないぞ」
「じゃあ誰のせいよ」
「うっ……凛ちゃん、わがまま言っちゃ、めっ、でしょ」
「やだぁ、やだやだやだ! キャラ弁キャラ弁!」
「……里佳、今日はさ」
なんて、甘い男なんだろうか。
「……はぁ、仕方ないなぁ」
ここで夫の頼みを断るほど、鬼ではない。世の中にはアメと鞭が必要なのだ。別に夫になにかしてやるわけではないが、『キャラ弁を作ること』=アメではないのだが、頼みごとを聞いてあげるので、これをアメと認定させていただく。
次は、鞭ですね!
・・・
「出来た!」
「……やったぁ。キャラ弁キャラべ……ママー、これ何ー?」
「ふっふっふっ、新キャラ『ノリスケ』」
顔全体が海苔のおにぎり。ウインナーの口。いんげんの眉毛。人参のハナ。
特許、とっちゃおっかな。
「……オカズぶっ刺しただけじゃねぇか。凛ちゃん、いじめられるぞ」
「大丈夫。私の娘だもん、うまくやるわよ」
「お前と違って、凛ちゃんはデリケートなんだよ。そういうとこは俺似なんだ」
「修ちゃん似でも大丈夫だよ」
「……えっ」
ちょっと嬉しそうな夫。
「だって、どれだけイジられてもアッケラカンとしてるじゃない」
「き、貴様……」
「……ノリスケ……ふふふ……ノーリスケ」
そんな修ちゃんの心配をよそに娘の凛は、ノリスケにウットリ。
どうやら、凛は、私似であった。
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