第6話 イベント発生
リリア・テレジアとの接触も無く、日々は過ぎ去る。
入学式以来、特にこれといったイベントも無く、平穏だ。アリシア・レインディールはそんな平穏に微笑みを浮かべたい気分だったが、同時に薄ら寒い恐れを抱いていた。
――そろそろゲームのイベントでも起きていい頃なのだけど……
と思いつつ、廊下を曲がろうとした所で聞き覚えのある女性の声を聞いた。
「私の名前はリリア・テレジア……あなたは?」
そこは桜の花びらが散る校舎の隅で、赤い髪の青年が桜色の髪の少女を抱き起こしていた。
「俺はロン、ロン・マークスだ」
よろしく、とリリアの手を握るロン。リリアはロンの顔に釘付けだった。
――これは、乙女ゲームのイベント!
アリシアはぐっと握り拳を作った。
――確か、風で飛ばされたハンカチを取りに桜の木に登ったリリアがバランスを崩して落ちた所をロンが助けるシーンだった筈……
生で見られるなんて役得だわ……、とアリシアはこみ上げる興奮を抑えながら、影から二人を見守った。
――あれ、でもロンとリリアが一緒になったら……
アルフォンス殿下は私と結婚することになる?そこまで妄想を抱いたアリシアはボンという効果音と共に赤くなった。
――落ち着け、落ち着くのよ、アリシア・レインディール!抑えなきゃ、まだ、そうと決まった訳じゃないんだから!
そこまで考えたアリシアは青ざめた。もし、アルフォンスとリリアが結婚してしまったらどうしよう!と。
「アリシア?どうしたんだ、赤くなったり青くなったり」
「!!?」
びくっと反応したアリシアはあまりにも聞き慣れた声の主に向かって顔を向けた。
「ご、ごきげんよう、アルフォンス殿下」
おほほ、と笑いながら冷や汗をたらりと流すアリシア。
「大丈夫か?アリシア……体調、悪いのか?保健室に行くか?」
そっと頬に手を添えてアルフォンスはアリシアを気遣わしげに見る。
「アルフォンス、大丈夫よ、ありがとう」
そう言ってアリシアは微笑んだ。
「アリシア……」
アルフォンスは優しくアリシアを抱き上げた。
「アル!?」
いきなり横抱きにされたアリシアは焦った。
「やっぱり、保健室に連れて行く」
そう言ってアルフォンスは保健室に向かって歩き始めた。
「アルフォンス!」
咎めるようにアリシアは口調を強めたが、アルフォンスは見向きもしない。アリシアの些細な抵抗も虚しく、保健室に到着した。保健室には誰もいなかった。
アルフォンスはアリシアを優しく保健室のベッドに横たえた。
「もう、放課後だから、しばらく休んで寮に戻ろう」
お休み、とアリシアの頭を撫でるアルフォンスの表情はとても優しいものだった。
「……うん」
アルフォンスの表情を見たアリシアは反抗する気にもなれず、大人しく目を瞑るのだった。
悪役令嬢の憂鬱な溜息 木の実 @kinojitu
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