第11話 違う自分
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オフィスへ向かう途中、いつものカフェでいつものコーヒーをテイクアウトした。平野健一はコーヒーにはうるさい方だ。ここのコーヒー豆はオーナー独自のルートで買い付け、彼の長い経験で培った独特のテクニックを駆使して客に提供される。朝はここのコーヒーを飲まないと、一日が始まった気がしない。
オフィスに着くと、社長室の、都心を一望する一面ガラス張りの壁際に置かれた椅子にかけ、ゆっくりと朝のコーヒーを楽しむ。高層階にあるこのオフィスからガラスを通して見下ろし、道行く人々を眺めるのが平野は好きだ……。
平野健一はふと、不思議な感覚に襲われた。雑踏を行き交う人々の中にもう一人の自分がいて、今この瞬間に、平野のいるこの高層ビルの窓を見上げている。そんな、らしくもない空想がふと頭をよぎったのだ。
ふふ、と平野は一人、自嘲的な笑いを漏らした。たぶん、昨夜おかしな夢をみたせいだろう。内容は良く覚えていないが、何だか長いこと遠くへ行っていた気がする。誰か別の人間になって。
……さあ、下らない事を考えて時間を無駄にしないで。仕事だ、仕事。朝のうちに目を通しておかなければならない書類が山ほどある。
平野はコーヒーカップを手にしたままデスクに着くと、置かれていたビジネス誌の新刊を手にとった。「オンライン学習ビジネスの革命児・平野健一氏に聞く、ベンチャーの未来」というタイトルで、平野の会社が特集されている。出版社が送ってきたのだろう。
平野はパラパラとページをめくった。うん、まあまあだ。写真も中々良く撮れているじゃないか。受付の所に掲げられている企業ロゴを背景に、誇らしげに背を伸ばし、腕組みをしている平野の写真だ。
…………?
平野はふと、その写真に見入った。何か、違和感を感じた。写真に写っているのは、見慣れたはずの自分自身の姿だ。低めの背。少しぽっちゃりとした体型。「革命児」などと称されるのにどこか不釣り合いな、一見柔和そうな顔立ち。
何か忘れている気がする、大事な事を……。
平野の目が、デスクに置かれた卓上カレンダーの上に止まった。
ああそうだ。ようやく思い出し、平野は胸のつかえが下りた気がした。
ゲームソフトを買いに行くんだった。来週の息子の誕生日に間に合うように。よし、今日の帰りに寄って……。
…………!?
ちょっと待て。俺には子供はいないんじゃなかったか!?
離婚歴三回で現在は独身、子供はいない。海外を忙しく飛び回るカリスマ起業家、平野、健一……!?
平野は跳び上がるように椅子から立ち上がった。椅子は勢いよく背後に倒れたが、社長室の柔らかい高級カーペットは大した音も立てなかった。平野はそのカーペットの繊細な模様を呆けたようにしばらく眺めていたが、我に返ると自分がいる社長室の中を見回した。
……違う。
これは……。
これは、松野真司の居場所じゃないか!!
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「ちょっと待てよ!!何だよこれ!!」
途中まで出来上がった俺の原稿を読んだ松野は叫んだ。さっきまでウトウトしていたが、眠気がすっかり覚めたらしい。
そして平野はいつの間にか、俺達の傍からいなくなっていた。
「無事に帰れるんじゃなかったのかよ!!」
「いや、この展開面白いかなって……」
「面白いかなじゃねーよ!!だめだろこれ!!」
「だってしょうがないじゃないか。アイデアが浮かんじゃったんだから」
俺はボソボソと呟いた。
「いやー。予想外の展開で、いいんじゃないでしょうか」
横から一緒にタブレットを覗きこんでいたグレイは、気に入ってくれたようだ。
「……まったくあんたって、なんでこうマイペースでいられるんだよ」
松野は既に怒る気力も無くしたらしい。よし。こうやって周りが諦めてくれれば、しめたものだ。
「うーん、何でかって聞かれてもよく分からないけど。とにかく自分の心の向くままに進んでいくと、それが結局一番うまくいくんだよなあ……」
俺は頭を掻きながら説明を試みた。
「…………!」
松野は絶句した。
「小説書くときもそうだし。俺は手さえ動かして好きなように言葉を書いていれば、後は宇宙から電波がきて勝手にストーリーを作っていってくれるんだよ」
「…………」
「だからそう心配すんなって。この『宇宙人小説家の陰謀』も、最後にはうまいこと行くよ。たぶん」
「もうあんたに任せたよ……」
松野は、平たい岩の上にごろりと横になった。まるで生贄に捧げられる動物だ。
俺はその様子をしばらく眺めていたが、やがて再び書き始めた。
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タン!と、叩きつけるようにEnterキーを押す。これはまだパソコンのキーボードのキー一つ一つが今の物より大きくて重く、しっかりタイピングしなければいけなかった頃の名残だ。俺は最近のキーボードのペコペコ感が物足りない。一昔前のものは叩くとガショガショとやかましい音がしたものだったが、俺はその音と感触が好きだった。一心不乱に文章を叩いている時、気分はまるでソロを弾いている時のピアニストだ。手つきだけなら似たようなものだろう。いわばエアギターならぬ、エアピアノだ。
さて、たった今、華麗なエアピアノソロと共に書き上げた俺の新作が印刷されて、一枚また一枚とプリンターのトレイに出てきた。たまらない、開放感と充実感。プリンターの音でこれほどの快楽を得られるのは、たぶん小説家を生業とする俺のような人間だけだろう。
……俺のような。俺はニヤリと笑った。正確には、「桜田洋一のような」だ。だが今は俺、松野真司のような……だ。
ふう、と充足の溜息をつき、庭に向けて開いた大きな窓の外に目をやった。新緑の季節。
……俺の苦手な季節だ。曖昧な季節。曖昧な気温と曖昧な天気。なんだかぼんやりする。俺はいつもエネルギーに溢れている環境が好きなのだ。東南アジアの、あの混沌とした街並み、人々、むせ返るほどの湿気を含んだ熱い空気を少し懐かしく感じた。
俺は壁際の簡易キッチンに向かうと、キャビネットを開けてコーヒー豆の容器を取り出した。
……キリマンジャロしかない。
俺は酸味が強いのがあまり好きじゃない。……だが仕方ないか。
そのキリマンジャロをコーヒーメーカーにセットする。コーヒーメーカーがコポコポと独特の音を立て始めると、良い香りが部屋に漂う。
プリンターはまだ黙々と仕事を続けている。俺は出来立てのコーヒーをカップに移すと、窓際に置いたテーブルへ行って椅子にかけ、煙草を取り火をつけた。一つの作品を仕上げた後に、それを印刷しながら味わうコーヒーと煙草……。
……まずい。
あんまりいい豆じゃない。しかも古いし、きちんと保存されていない。袋の口が、ぞんざいにクリップで止められているだけだ。コーヒーメーカーは安物だし。ミルクも砂糖もオーガニックじゃないし……。
プリンターが静かに停止した。俺はコーヒーは諦めて溜息をつき、立ち上がると部屋を横切り、ドアの近くに置いたプリンターのトレイから分厚い紙の束を手にとった。
元のテーブルに戻って腰掛けると、手に持っていた煙草を備え付けてある灰皿に押し付けた。コーヒーのカップをうっかりこぼしたりしないように少し脇へよけてから、紙をテーブルの上に置いた。
俺はたった今書き上げた俺の作品を、1ページ目からゆっくりと読み始めた。
「松野真司」
ゆっくり丁寧に、読み終えた原稿に署名する。
よし、仕事は終わりだ。これで一息つけるぞ。俺は部屋を見回した。
当たり前のようにここにいる俺。もしかしたら今までの事は全部夢で、本当の俺は初めから、「小説家・松野真司」だったのかもしれない。そんな気すらする。
桜田のとんでもない発想には驚かされたが……。
小説家の生活。悪くないじゃないか。
まあ色々今までとは違うので最初は大変だろうが、慣れればどうってことないだろう。これからは好きな事をして、生きていけるのだ。桜田のように。「小説家・松野真司」として。
そうだ。空虚さを抱えながら勝ち上がる人生はもういらない。再スタートさせるんだ。
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「……さてと」
ちょっと休憩だ。肩がこった。大きく伸びをし、辺りを見まわした。平野も、そして松野も、もうここにはいない。残っているのは俺とグレイだけだ。妙に静かになった。急に、初めてこの世界が寂しいものに思えてきた。
俺とグレイは黙ったまま、顔を見合わせた。
「のこっちゃいましたねえ」
グレイは穏やかな声で言った。
「……そうだな」
俺はポケットから煙草を出し火をつけた。カチッというライターの音が、妙に大きく響いた。
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……違うんだ。
デスクの前に立ち上がった姿勢のまま、平野は頭を振った。
そりゃ確かに、別な自分になってみたいと、思った。だから松野真司を書いた。だけど、それは……。本気じゃないんだ。いや、本気じゃないとか冗談だとかそういう事じゃなくて。ええと……何て言ったらいいのか、その……。
ああ。もし小説家だったら。平野は考えた。この感情を、きっと、的確な言葉で表現出来るのだろうに。平野は悔しさで歯ぎしりした。小説家でもない自分には……。何の特別な才能も無い自分には……。うまく言い表す事すら出来ない。
だけど、それでも……。
違うんだ。とにかく、これは、違うんだ。違うんだ!俺は松野真司じゃない、松田でもない、他の誰でもない、平野健一なんだ!
平野は頭を抱えた。このまま、戻れないのだろうか。このまま、家族にももう会えず、松野真司の人生を送るしかないのか……?
バン!!
平野は両手を思い切りデスクに叩きつけた。普段そんな事をしたことの無い平野は、自分自身の感情の爆発にひどく驚いてしまった。叩いた勢いでデスクに置いてあったカップが倒れ、コーヒーがこぼれた。コーヒーの水たまりはじわじわと広がり、デスクの淵からぽたり、ぽたりと雫が垂れた。
……いけない。高そうなカーペットに染みが!
平野は慌ててデスクの引き出しを空けると箱ティッシュを取り出し、ティッシュペーパーを無造作に引きずり出すと床に放った。デスクの淵にもティッシュをあてがって、コーヒーが垂れるのを止めた。
……やれやれ、慣れないことはするもんじゃないな。
平野は苦笑した。と、まだ広がりつつあるコーヒーの水たまりが、デスクの上に置かれた一冊の本に向かっているのに気付いた。
……おっと、本が!
平野は慌ててその本を取り上げたので、本は危うい所でコーヒーに濡れずにすんだ。
コーヒーを拭きとったティッシュをゴミ箱に放りながら、平野は溜息をついた。
……とにかく、落ち着いて。よく考えてみよう。感情的になっても始まらない。
平野は手にしていた本をデスクに置いた……と、何気なく見やったその表紙に、平野の目は釘付けになった。
――そこには、「宇宙人小説家の陰謀」と、タイトルが記されていたのだ!
平野は表紙を開くのももどかしく、急いで本を読み始めた。見覚えのあるくだり。平野は斜め読みでどんどん先のページに進んでいった。
異世界に飛ばされ、出会う三人の男。そこでの冒険。桜田が、この「宇宙人小説家の陰謀」の結末を書き始める。そして……。松野真司の場所に来てしまった平野健一。自分自身の心の葛藤と動揺までもが、そこに記されている。
そして……?どうなるんだ、この続きは……?
平野は震える手でページを捲った。
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風呂から上がった俺はリビングのソファに身体を投げ出すと、テレビをつけた。見るともなしに、適当にチャンネルをザッピングする。
……ふふ。
俺は笑った。以前の俺であれば、こんな風に時間を持て余してテレビを眺めるなんて考えられないことだ。
……まあいいか、こういうのも。悪くないな。
なんてのんびりしているんだろう。時計を見ると、いつもだったら自分のオフィスで大忙しの時間だ。
俺は子供のようにリモコンを弄び、適当にテレビのチャンネルを変え続けた。それに飽きてきたのでニュース番組をやっているチャンネルを選び、ぼんやり眺めた。
株式市場、事故、選挙、サミット、芸能、スポーツ……。
臨時ニュースが入った。が、テレビの音量が小さくて良く聞こえない。しかしぼんやりと眺めていた画面には、見覚えのある風景が映し出された。
……これは。
……あの島だ。俺が休暇を過ごしていた、あの東南アジアの小さな島だ!
俺は慌ててソファから上半身を起こすと、リモコンを操作する手つきももどかしく、テレビの音量を上げた。
かなり大きな地震があったようだ。避難する人々や、救助の様子が映し出されている。
テレビの画面は、崩壊した学校を映した。元々、掘っ建て小屋に近いような学校だ。大きな地震ではひとたまりもないだろう。小さな学校の跡地は、家を失った人々や怪我人で溢れかえっていた。
あの少女は……。あの素晴らしい絵を書く少女は、無事だろうか?
思わず、胸にそんな思いがよぎった。
……この世は、なんて不公平なのだろう。
貧しいながらも懸命に生きる者達に、どうしてこんな災難が襲い掛かるのだろう。
俺は、「あの時」そう思った自分を思い出した。
「なんて不公平なんだ。俺が何をしたっていうんだ」と。
……だがしかし、それももう、どうでもいいことだ。この島の人々も、俺には関係ない。俺は今までの自分を捨て、新しい人生を送るんだ。
…………。
……俺は、これほどまでに、こんな簡単に捨てられるほどに、今までの俺自身、「松野真司」に、愛着を持っていなかったのだろうか。
……それじゃ、あまりにも可哀想じゃないか?「俺」が。
……いやいや、これでいいんだ。
俺は頭を振った。
俺は好きに生きるんだ。好きに……。
その時ふと、桜田の言った言葉が俺の胸に蘇った。
「周りになんて言われようと、関係なくやり続けるもんなんだ。やめられるようなもんじゃないんだよ」
…………。
あれは誰だったか。確か、最初か二番目の妻のどちらかだ。今の前に立ち上げた会社が成功を収めたにも関わらず、まるで取り憑かれたかのようにさらに仕事に没頭する俺を、止めようとしていた。彼女は言った。充分がんばっているのだから、自分を褒めてやれと。俺は聞きもしなかった。
彼女だけじゃない。もっと上へ、もっと上へと飽くことなく進もうとする俺を、欲得ずくでなく心配し、止めようとしてくれた人間もいた。だがやはり俺は聞き入れず、やり続けてきた。それは……。結局、俺がそれを好きだったからじゃないのか?
そうだ。俺は好きに生きてきたのだ。人の言うことなんか聞かずに。見返してやるだとか、そんなものは単なる口実だったのだ。桜田の言ったことは真実だ。俺は自分の意志でやってきたのに、それを人のせいにしてきたのだ。
もっと上へ。まだ足りない。こんなんじゃまだ、あいつらに俺を認めさせるには足りない。もっと。頭の中で、呪文のようにいつも繰り返していた。だが実際は違う。誰もが、俺を認めていた。認めていないのは、他ならぬ俺自身だったのだ。
ずっと心にあった空虚さの正体は、おそらくそれなのだろう。
だが、それでいいのじゃないか。空虚さは、俺が前進するための必要条件なのだ。俺はそれを、これからも抱えていけばいい。東南アジアの、あの、様々な人や物でごった返した大通りのように無秩序な道を、色々なものを抱えながら歩いてゆけば良い。
不完全だろうが、無理があろうが、動機が見栄や被害者意識や怒りだろうが、何だろうが、とにかくここまでやってきた。そして、それはいわば俺だけの航跡だ。それに……。
俺はテレビ画面を睨みつけた。
そんな俺にしか出来ない事もきっとある。
自分にしかできない事をする事を、幸福と呼ぶんじゃないだろうか。
その時だった。俺の背後で静かにドアが開く音がして、誰かが部屋に入ってきた。
振り返った俺の目の前に立っていたのは……。「松野真司」だった。
俺には何となく分かった。今俺の前にいる「松野真司」は、俺でない俺、違う俺。だが同時に、俺である俺だった。
彼は無言のまま、手にしていた本を俺に差し出した。そして俺も無言のまま、それを受け取った。「宇宙人小説家の陰謀」と題されている本を。
しばらく表紙を眺めていたが、やがてゆっくりと最初のページを捲った。
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「次は桜田さんの番ですね!」
読み終えたグレイは顔を上げた。だが俺は首を振った。
「いや、次はお前の事を書くよ」
「え?いいですよ僕はあとで。まず桜田さんが……」
「書けないんだ」
「え?」
「……俺は、自分自身を登場人物にした小説は書けないんだ。俺の小説はあくまでも想像の世界、フィクションなんだ」
「……そういうもんなんですか?」
「うん。まあな。作家にとって一番書くのが難しいのは、おそらく自分自身だ」
俺は伸びをして、疲れた身体をほぐした。
「だけどグレイ、お前の事は書けるから……」
「桜田さんをここに一人でのこしたりできませんよ」
「……だけど」
「いいんですよ、桜田さん。元はといえば、僕が原因でこうなったんですから」
「俺だって、例え脱出できたとしても、お前を一人でここに残して行くなんてできないよ」
「それじゃあ、僕たち二人とも結局、ここにのこることになっちゃいます」
「うーん、まあ、そういう事になるなあ」
グレイは笑った。
「のんきですねえ、桜田さん」
俺も笑った。実際、この先どうなるか俺にも全く分からない。だが落ち込んでいたところで仕方ない。
「……すし、食い損ねたな」
「あー。そうですねえ」
「俺もしばらく食ってないなあ。食いたいなあ」
俺は煙草の煙をゆっくりと吐き出した。
「まあ大丈夫だろ。たぶん。何とかなるよ。無事に二人で帰れたら、すし、食べに連れてってやるからな」
「……僕、回るやつがいいです」
「うん、回るやつな。分かった」
少し、風が出てきた。煙草の煙が風に吹かれてゆく。俺は煙草を消すと、再び作業に取り掛かった。
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……なんてことだ!桜田さんとグレイは、あの世界に残ってるのか?俺と松野さんだけ脱出させて?そんな……。
平野は途方にくれた。どうしたらいいのだろう。
こんな時、有能な松野だったら、何かいいアイデアがあるかもしれない。
平野はページを捲った。
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おいおい、俺に聞くなよ。と、俺は平野に心のなかで反論した。
だいたい、桜田もどこまで個人プレー好きなんだ。誰もそんなこと頼んでないのに、かっこつけやがって。まるでお前が主人公みたいじゃないか。ずるいぞ。
俺も、素早くページを捲った。
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どうしたらいいんでしょう?
このまま私達だけ知らん顔して、こっちの世界で生活するなんて。そんな事できません……。
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そりゃ、俺だって。俺は借りを作ったままにするのは、大嫌いだ。それに、元に戻してもらわなきゃ困る。かと言って、こんなの俺の専門外だ。俺にだって、どうしたらいいものか分からない……。
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そうだ!私達で、小説の続きを書いたらどうでしょうか!?
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平野さん、あんたは忘れてるだろ。俺達が書き続けたら、またループが出来上がるじゃないか。
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……!!
それは……確かに……。
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仮に今度はループの中心に落っこちなかったとしても、俺達三人はループの周りをぐるぐる周り続けなきゃいけないんだ。もう一度ループを完成させてしまったら。
いや、ちょっと待てよ。
ループは、今はもう途切れてる。でも、あの場所は、確か「ループの中心」。という事は……?
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……あ!
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