FACT
@Cinderella
第1話
朝日が昇りはじめた頃、ある建物の一室は完全な静寂に包まれていた。
西洋の城を思わせるような造りの外観、その建物の一室では1人の少年が椅子に腰掛け、少年に相対する形で男女5人が方膝立ちの状態で頭を下げている。
1人は眼鏡をかけた知的な女性
1人は体格がよく、筋肉質な上半身裸の青年
1人は黒いタキシードを着た60歳くらいの男性
1人は白い料理服と高いコック帽を被った少し太った男性
1人は桜色の長い髪、腰には一振りの剣を携えた少女
性別、服装、年齢は皆違えど保っている姿勢は1人を拡大縮小させたかのように揃っている。
少年が腰掛けているのは正確に言えば椅子ではなく、玉座だ。
何故なら、この腰を掛けている少年こそがこの国を統べる王だからだ。
ということは、この建物はある意味「城」と言っても間違いではないだろう。
しかし、その城には、西洋の城にはあった敵を撃退するうような仕掛けは一つとして設置されていない。
時間が経つにつれ、太陽が昇り、部屋に設置されていた日時計がある数字を指すと同時に5人の真ん中で姿勢を保っていたタキシード姿の男性がスッと音もなく立ち上がり、すんなりと耳に届く心地良い声音で声を発した。
「おはようございますレイク様。ただいま7月23日午前6時でございます。」
「「「おはようございます、レイク様」」」
タキシードの男性の後に続き、残りの4人も声をあわせて目の前に鎮座する主に朝のあいさつをした。
掛け声もかけていないのにタイミングの合った見事なあいさつだったが、レイクと呼ばれた少年国王は顔をひきつらせながら、声が届くか届かないかくらいの音量で挨拶を返した。
そんな国王の様子も気にする様子もなくタキシードの男性が
「料理長、朝の食事の用意を」
と声を発すると、料理長と呼ばれた純白の高いコック帽を被った小太りの男性は奥の部屋に控える使用人への合図として2回手を鳴らした。
幅、奥行きだけでなく高さもかなりあるこの部屋では、料理長の合図は、空間の静寂と相まり、反響しながら響いた。
合図を聞いた使用人が食事を運び、並べていく間、料理長は今朝の献立を述べていく。
「本日の献立を申し上げます。青菜のサラダ、厳選地で育てられた白米と、カレイのダクシュ、ホウボウのアイスク、ノドグロの...」
淡々と流れてくる料理名を聞きながらも、国王は心の中で 今日もか、とため息をついた。
次々に運ばれてくる料理はどれも豪華で大盛りだ。正直1人で食べきれるか不安なほどだが問題はそこではない。
むしろ成長期である国王の為を思ってのことだろう。国王は料理に使われている食材に対し、ため息をついていた。
その食材とは、魚。
特に嫌いな食材というわけではないが、毎日の量が凄まじい。
料理長が最初に述べた野菜、米の後は魚、魚魚魚魚魚魚魚...
えげつない程の魚料理が食卓に並べられていく。
だがこれは決して料理長が日々の恨みを込め、国王に対し嫌がらせで毎日大量の魚を使用しているわけではない。
若干17歳の少年国王が統治するこの国は周りを水平線がみえるほど海に囲まれた島国だ。
島の南には砂浜が広がり、北は断崖絶壁、東西には漁港がいくつも重なり、盛んに卸売りなどが行われている。つまり、毎日魚料理が多くなるのは必然的である。
さらに、周りを海で囲われている為、降水量もハンパではない。
そのため、稲作も漁業に続き高い自給率を誇っているのだ。
つまるところ、文句を言っても仕方がない。
この国の特産品は魚と米。その事実を1人の人間である料理長に文句を言っても仕方がない。
この国で最高権力を持つ自分でさえどうにもできないのだから。
そう少年国王は心の中で自分に言い聞かせている間も念仏のように献立をようやく言い終えた料理長と、食材に感謝の気持ちを「頂きます」に込めて食事に手をつけた。
食事中も5人は誰一人として音も発することなく、微動だにしない。静かなのはいいのだが、この空間で食事をして動いているというのはなんだか気まずい。そう思いレイクは、毎日食事中言っている言葉をかけた。
「......モルガン、この朝の集会はどうにかならないのか?いくら男がこの国の王だからといって、いくらなんでもこれなやりすぎじゃ....」
「申し訳ありませんがレイク様。こればかりはどうすることもできません。この朝の集会は、先代の王から受け継がれている大切な行事です。それをレイク様の代で途絶えさせるわけにはいきません」
と、モルガンと呼ばれたタキシードの男性が答えた。
「しかしなぁ...どうも馴れないんだよ、これ。しかも五長もいるし...」
五長とは、今、レイクの前に並んでいる5人のことだ。
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