第33話 襲撃3

 チムガは街道上に迎えの人数を並べ、十人ばかりの弓隊をやや離して薮に伏せた。丁度、客人を迎えた時に、その背後を斜めから射る位置である。その兵の数が合わせて三十人ばかり。チムガは兵を配しつつ思った。

(このチムガ様が、たかが小娘の出迎えに三十人もとは……)

 チムガは苦笑している。その苦笑しているところへ、使いがやってきた。グーロンは使者を使わして、この剣を所有する者がいると伝えたのである。

「予定通り殺しても良いか?」

 そう言う裁可を求めていた。チムガの機嫌は良い。切れ者だが何かにつけてチムガの意向を伺うのが、あの男の可愛さともいえた。

 チムガは受け取った剣をろくに検分もせず言った。

「予定通りやれと伝えい」

 そして、剣は返さず使いを手ぶらで追い返した。

(しかし、あやつは物の使い方を知らぬ。剣は命を救うためにあるのでは無かろう。この剣は盗賊が所有していた物として、これからやって来る小娘の胸にでも突き立てておけば良かろう)とも考えたのである。

『小娘』と、チムガが呼ぶのは、視察司の少女のことである。(全く馬鹿げている)と、チムガは反感を込めて考えている。


 二十数年前に帝国中央で跡継ぎを巡る内紛があり、その余波を受けた幾つかの地方で、都に対する造反劇があった。反乱は鎮圧されたものの、その後も多くの混乱は避けられず、幾人もが命を絶たれたり、力ある者がのし上がったりした。

 チムガもその時に、傭兵の身分から主人の領主に取って代わった。チムガが主人を殺すのを見たという人物もいたが、すぐに姿を消した。チムガが始末したと想像する者はいても、それを口に出して糾弾する者は居なかった。

 そう言った無数の混乱と秩序を取り戻すのに懲りた都は、地方に対する支配を強めるために、盛んに地方を監視するための「視察司」という役柄の使者を出す。ただ、馬鹿げているのはその視察司が、下級官僚よりは高貴な身分の者が良いとされ、視察司を迎えてみれば五歳の幼児であったという話まである。

(支配力を強めたければ剣を携えてこぬか)

 チムガはそう思うのである。しかも、今回の馬鹿馬鹿しさはどうか。視察司がわずか十三歳の小娘であることはまだしも、視察司をソツの無いように出迎えもてなすようにとの使者が来ているのと同時に、その視察司の少女を手段を選ばず殺害するようにとの使いまでが来ているのである。

都には幾つかの政治的な派閥がある。その派閥に乗らねば身を滅ぼすが、時と場合によってうまく移り代わることも必要だ。今回チムガは小娘を殺害する側に乗った。

 それだけである。チムガはつるりとした顎を撫でつつ、間もなく現れるはずの小娘を待った。


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