第19話 ガルム兵を養う1
同じ頃、まだ開店前の酒場に個性豊かな男達が集まった。酒場の主人は約束通り、きっかり五十人を集めた。ガルムは目付きが悪いとか、へそが出ているとかいう馬鹿げた難癖をつけ、男達をふるい落とした。酒場の主人は、ガルムがはなからそういう意図でいたのだろうととでも言うように、笑って見ており、ガルムの選に漏れた者が文句を言うのを手を振って追い払った。
昼前には、五十人がただの八人になった。ガルムは彼ら八人を並べ、剣を抜いて言った。
「ワシが、ガヤン・ガルムである。こちらはワシの一番弟子のルトである」
ガルムはルトを指した指を握ったこぶしで自分の胸を叩いて言葉を続けた。
「たった今より、お前達の命、このガヤン・ガルムが預かった」
命を預かるという表現が気に入らなかったらしい、八人が一斉にガルムを睨んで不満の声を上げた。まだ、命を賭して主人に仕えようという忠義心は無いのである。ガルムはあきらめるように考えた。
(まあよいわ。こういう連中の方が役にたつものだ)
端正な顔立ちだが頬骨から口元に刀傷を持つのがおり、ルトは単純に「傷」と名付けた。顎の上に目や鼻が付いているという印象の男がおり、岩にでもかじり付きそうな感じがしたため、ルトはこの男を「岩囓り」と命名した。小柄で筋肉があり、骨太だがすばしっこい男には「蟹」と名付けた。八人の男達はみな特徴があり、ルトは重複せずにあだ名を付けるに不自由しなかった。一癖有りそうなくらいに個性が強く、しかも正式な剣の教練を受けた事が無い者というのが、ガルムの採用基準であるらしい。ガルムは男たちに言った。
「剣の振るい方は、おいおい儂が直々に教えてやる」
ガルムは言葉の最後に宣言した。
「儂は長年来の友人であるチムガ殿の困苦を看過するに忍びず、手兵をまとめてチムガ殿に助力つかまつる所存である。お前達もひとたび事がある時は、忠誠に励め」
そんなガルムの言葉に亭主は人の良さそうな笑顔で語りかけた。
「お客人、何か忘れてはおらんか?」
「何か?」
相手に考える間をおいて、酒場の主人が言葉を継いだ。
「忠誠も良いが、見たところ、こうもバラバラでは兵卒に見えぬ。せめて兵士らしく槍と盾を持たせてはどうか?」
「うむ。ワシもそれを考えていた」
ガルムは老人の言葉に頷いて言ったが、首を傾げた。その当てがないのである。金はある。足りなければチムガにせびればよい。しかし、昨日、ガルムとルトはこの町の武器商店を破壊しつくしたばかりなのだった。酒場の主人は親切そうに申し出た。
「当てがある。任せては貰えまいか」
他に、購入先の当てが無い以上、ガルムに異存は無かった。ガルムが納得する様子に、主人は小さな丸い目に愛嬌を浮かべて言った。
「実の所、お前さん達が昨日暴れたのは、儂の娘婿の店での。店の修繕資金に、一つ、協力してやってはもらえまいか」
(この老人のふてぶてしさはどうか)
ルトは酒場の主人の図々しさを笑いながらも、それを愛でて言った。
「よし、オレから頼んでやる。」
ルトに説得されたガルムも、昼までに揃うならばと条件をつけて許可した。酒場の主人はいかにも人の良さそうな笑みを浮かべ、感謝しているとうなづいた。
ガルムと兵が昼食を終える頃、実際に八つの槍と八つの盾が揃った。先ほど雇った男達を並べてみると、なるほど兵士らしく、何より先頭のガルムが引き立って見える。
「ご亭主、世話になった」
ガルムはそう言って兵士を引き連れて、機嫌良く酒場を出て言った。老人も笑って彼らを見送りながらわくわくと胸を躍らせた。
(面白い事になるかも知れぬ)
この街はチムガの兵士に支配されている。ましてや、ここ数週間、街は兵士で溢れている。その中に指揮系統の違う部隊を投じれば、何やらごたごたが起きてもおかしくはない。そう考えているのである。その老人には悪気はない、ただ好奇心豊かなだけである。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます