第8話 ある面工房の記録


 顔、個人を認識する上でとても重要な役割を負っているものは顔だと思わないか。かつて、解体される以前の教団では、教律師以外の人間は仮面の着用が強制されていた。では、なぜ仮面を着けねばならないのか。


 前述のとおり、教団内ではまず、人格の否定を行う。それらしい理由を作り出し、押し付けてはいたが、結局の所御しやすい個性なき人間を作るためだった。


 理由、いや、教えというべきか。曰く、仮面を付けることは生まれつきの顔を捨てることであり、短絡的な見た目からの人への評価を捨てるためなのだ、という考え方がそれだ。


 実際の所は信者の感情の押さえ込みと、表情を遮断する事が目的だった。仮面を付けることが常態化すると表情が抑え込まれ、いずれ顔が仮面と同様になる、追い込まれた人間が無表情になるように。感情が心の奥に閉ざされ、石のように硬い殻ができる。一度そうなってしまえば中々元には戻れない。


 紙製の仮面には微量の薬液が混ぜ込まれており、それがまた思考能力を低下させる一因となっていた。仮面を造る者にしか知られていない特殊な薬剤、中毒性を含む鼻をくすぐる香り。使い始めの数日間はなんともないが、常態化が進むといずれ仮面無しでは生活できなくなる。強制的な癖が染み混んでしまう、もっとも、全ての人間がそうした対応を迫られるわけではない。組織全員がそれでは、まともに機能しなくなってしまうだろう。


 そこである程度の順応が示されれば、抜きが行われる。抜きを行えば、潜在的な服従はそのままに普段の生活に戻れるようになる。それでも仮面を見ると顔につけてしまう癖は治らない、外の仮面を外せても中の仮面までは外せないのだ。


 教団創設当初からの顔である私達幹部には、そうした薬液が含まれていない、特別な仮面が用意されていたはずなのだが、どうやら製作者は全ての仮面に、更に薬とは別の細工を加えていたようだ。


 「連なり」それが彼女の施した細工だった。ある種の呪術じみたその細工は驚くべき効果を発揮した。


 さて、その仮面を製造していた一幹部がいる。彼女は喫茶店兼、アトリエを持っていた。当時から彼女の制作した仮面は喫茶店の壁に飾られ、かつアトリエの中にも壁中に仮面が掲げられていた。


 そうだ、彼女は今も生きてそこにいる。あれから何年も経つが、何も変わらずそこにいるはずだ。今でも喫茶店は経営されているので、店員に写真を見せればアトリエの鍵を開けてくれるはずだ。喫茶店マスカレイドに向かって欲しい。



 このところ奇妙な倦怠感がつきまとい続けていた。何か猛烈に体を動かした後のような疲労感、それにつきまとう気だるさ。あれ程の経験を繰り返し続けているのだ、体や頭に負担が掛かっているのだろう、当然だとも思う。


 またしても美容院から家路につくまでの記憶が抜け落ちていた。立て続けに日常を脅かされ、僕の生活は様変わりしてしまった。それにしても、無意識の中でなぜ僕は、無事に家に着くことができたのだろうか。それとも、誰か、裏で僕を助けてくれている存在でもいるのだろうか。


 しかし、それを今、考えたところで仕方がないのだろう、僕の明確な目的が達せられるまでは。痛む頭の中で、今はこれを優先すべきだ、との言葉を頭の中の何かがささやき続けている。


 封筒には手紙の他に写真が同封されていた。その写真には暗闇の中に並ぶ仮面の姿が移されていた。縁どりされた暗闇の中で幾人かの姿がぼんやりと、浮かび上がるように写されている。なにかの集会の風景だろうか、白い貫頭衣、並び立つ顔、誰もが仮面を身につけている。そんな写真だ。その作り物じみた集団風景を見ていると心が落ち着かなくなる。まるで蝋人形館の人形たちを見ているようで。


 僕は暗い部屋を出ると陽の光を全身に浴び、バス停に向かい歩き始めた。


 暖かな日に照らされながら、バスを乗り継いでゆく。これまでの町行きとは違い、全ての景色が平穏に見えた。僕の欲している平穏がここにあるのに、何故自ら炎に飛び込んでいくようなまねをしているのか。けれども、もうやめられない、僕はもう知り始めてしまった、元には戻れないのだ。


 バスを降り、坂道を行く。小高い丘に立ち並ぶ瀟洒な建物郡、この辺はどれもが洋式で統一されていた。


 ここ数日の内に歩んだ街並みの先入観からか、街行く人々の顔に表情がなく、仮面のように見えてしまう。ああ、平穏が少しずつ剥がれ落ちてゆく。


 不意に視界に入り込む不快なもの、道沿いの家々、窓の端、ドアの隙間、壁の途切れ目、白い顔が覗き、ゆっくりと引いて影に消える。目、口、鼻、黒に染まる五つの穴。どれもが同じ顔だった。手紙に書かれていた仮面に関わる文が頭の中で再生される。気にしては駄目だ、そう思い私はそれらを無視して只管に坂道を登った。


 道行く先、坂を登りゆくと段差を超えた先にそれが見えた。両脇の小さな森に抱え込まれた石レンガの建物。灰色の壁に切妻屋根、出窓に屋根に並ぶ天窓、小さな古城のような外見の喫茶店だった。鉄のボールに支えられた金属の看板には、マスカレイドの文字が英字で飾られていた。薄曇りの空の下、格子窓の向うにランプの光が淡く揺れている。僕は黒塗りの木戸を開き、店の中へと踏み出した。


 カウンターに沿った横長の店内。中央には二メートルほどの木の壁の仕切りがあり、控えめなクラシックが流れている。幾つかのランプが灯され、年代物のソファとアンティークの調度品に座り、コーヒーを楽しむ客の姿が見える。


 各テーブルにはランプの光が揺れていた。光の量が極端に少ないため、客の顔が陰に隠れ、判別できない。喫茶店としては珍しくない、異常なのは壁だ。内側に貼られた板壁、天井にはシャンデリアのように並べられた仮面が円形に吊り下げられてある。それらは奇怪な怪物を模した面から、日本固有の能面、舞踏用のマスクと様々だ。


 カウンターにはマスクをつけた女性が肘を付きながら静かに曲に耳を傾けていた。私がそちらに向かうとその女性はこちらの存在に今気がついた、といった様子で姿勢を正し、頭を一度、恭≪うやうや≫しく下げた。

「ご注文は、いかがいたしましょう?」


 そう言う女性に向かって私は懐から写真を出すと、ランプの前に置いた。女性は訝しげに写真を覗くと仮面にそっと手を添え、少々お待ちを、との言葉を残してカウンター奥のキッチンと思わしき空間に姿を消した。


 僕は少し居心地の悪さを感じてソファに座る客たちに目を向けた。曲に夢中なのだろうか、微動だにしない客達に疑問を感じてのぞき込もうと店の奥に向かおうとするとレジ横の扉が開き、そこから先程の女性が現れた。


 「どうぞこちらに」と誘われ、僕は少し躊躇しつつも扉の奥に向かった。他のお客は放っておいてよいのかと聞くと、問題ありませんとの言葉が返ってきた。なぜ良いのか、その疑問をもう一度訊ねてみても、彼女は聞こえているのかいないのか、反応しなかった。仕方なく案内されるがままに建物の奥へと足を進める。


 格子窓から注ぐ弱々しい光の下、百メートルほどの長い廊下を行く。外からではこんな構造になっているとは想像できなかった。どうやらこの建物は正方形のような形で、両側の森に隠された部分が相当の広さ存在するらしい。相も変わらず壁は仮面で埋められている。しかし、今度はどれもがあの写真の中の仮面、それに街で見たあの顔によく似たものになっていた。女性も身につけている白く表情のない仮面。


 「周りが森なので、少し見づらいとは思いますが申し訳ありません、足元にお気を付けて。こちらはギャラリーにもなっております」


 彼女は前をむいたまま、そう僕に話しかけながら進み続ける。



 紙の仮面は薄い紙の層を重ね合わせて作られている。元は極薄の顔型なのだが、その上に紙を糊で肉付けして厚みを増やし、最終的には百数重も重ね合わせて完成させる。その過程には例の薬液やわずかの香料なども付け加えているらしい。


 教団最盛期でも彼女は一人でその作業をこなし続けた。工房に赴けば彼女のその熱意の片鱗を味わうことができるだろう。芸術家とはある種の狂気を常に抱えている。君もその狂気に飲み込まれないよう気をつけることだ。


 彼女は常に仮面をつけていた。己の作品とされる仮面を、素顔を見たことのある人間は教祖以外誰ひとりいなかった。幹部の一人でありながら顔を知られていないのは彼女だけだ。


 やがて廊下端までゆくと、扉のむこうからざわめきが聞こえてきた。大勢の人がささやきあうようなざわざわといった気配が扉の向うに感じられる。


 「こちらがアトリエになります」


 女性はそれが当たり前だという風で扉を開けた。広がる空間には仮面ばかりが山のように積まれている。壁には隙間がないほど仮面が掛けられていた。よく眺めてみると、壁のものと床のものには微妙な差異がある。壁のものはどこか汚れていて床に置かれたものは真っ白で汚れがない。床に積まれた仮面はどうやら新しいもののようだ。


 「先程はこの方たちがお話をされていたのですよ、どうもおしゃべりが過ぎるようで、宜しくありません」


 女性が片手を壁側に上げてそう言った。そちらを見ても仮面以外のものはない。僕は「あの仮面にはマイクでも仕込まれているのですか?」と聞くと、「いえ、そんな無粋なものはつけたり致しません」と返ってくる。


 そんな事が可能だろうか、そんな動作は全くなかったじゃないか、どうすれば発音せずに会話ができるのか、そう考えるも、これまでの経過を経験した手前、有りえないとは言い切れない。


 僕はしばし、壁の仮面を凝視した。どうやら微妙な陰影がそうさせるのか、汚れが表面に浮かび、奇妙な表情を形成させていた。


 無表情の仮面に目の穴の下にできた影、目尻に薄く引く汚れの影、それらが怒りや笑い、泣き顔などを形成させている。元は同じ表情だったにもかかわらず、それらは全てが微妙に異なる、別の顔だった。


 「これらは、全て使用されたものなんですよ。ほら、あなたもご存知のとおり、あの集まりで。かつては巨大な組織でした、あの集まりで」


 まさか、この人が手紙に書かれていた幹部なのか、僕は自分の体が震えるのを感じた。彼女は生きている、生きている関係者、つまり現存で僕の両親を直接知る人間なのかもしれない。


 「あなたは知っているんですか、あの教団の関係者なのですか」


 「関係していた、というべきでしょう。私もまた、あの方たちのために仮面を造っていたのですから」


 「では私の父と母を、ご存知ではないですか。宮ケ瀬と言うのですが」


 「私は存じ上げません。あの方たちと直接関係していたのは姉でしたから」


 膨らみかけた希望がしぼんでしまう、それでもまだ、潰えたわけではない。


 「では、この仮面を製作した方にお会い出来ませんか」


 「ふふ、そのためにここまで来たのでしょう? まったく変わったことをおっしゃいますね」


 仮面の下の表情は窺えない。空疎な笑い声がやけに部屋に響いた。


 「ここにいらっしゃるんですか」


 「ええ、姉ならそちらに」


 姉、という言葉にもしやと思いながらも、示された方向に顔を向ける。女性の指差す先には肘掛け椅子が存在していた。さきほど目にしていた床の仮面の山、その中に埋もれるようにして椅子がある、背もたれがこちらに向いているその椅子には、何者か人が座っていた。


 がらり、そう音をたてて仮面の山が僅かばかり崩れ落ちた。私は引けた腰をどうにか立て直し、椅子の正面へと向い、その人物に対面する。



 彼女の身に不幸が起きた、と聞いたのはあの事件が起こる少し前のことだった。日々作品に取り組むことに真剣になりすぎた彼女は、遂に全ての精力を使い果たした。飲むことも食べることも疎(おろそ)かにして、作業に取りつかれていたのだから当然の結果とも言える。彼女には共同作業を行う妹がいたのだが、止められなかったそうだ。


 連なり、とされる最後の一枚はその妹が付けている。実をいえばあの仮面は彼女の顔が埋もれているのだ。型どりされた顔に紙の層を貼り付けわからないようになってはいるが、何千枚にも達する彼女の作品は全て、同じ顔が隠されているというわけだ。


 そしてその顔の中に紙文字が何重にも編みこまれている。重ねられてしまいわからないが、あの仮面を溶剤に付ければ月経の血に染まる糸文字が僅かに浮かんで見えるはずだ。香材と月経の血、それを染み込ませた仮面。甘く生臭いその香りは鼻の奥にこびりつき、離れなくなる。もっとも強靭な意思があれば乗り越えることが出来なくもない。やはり心が弱っている人間にはよく効くようだが。


 あれは何千という仮面をつけた者達から、最後の仮面を付ける者に精力が奪われる。そうした仕組みだった。一人から移る精力が僅かでも、千人となれば別だ、しかし、あの仮面もまた失敗だったようだ。




 それは人形だった。黒いドレスを着せられた人形。顔の質感が明らかに人のそれとは異なっていた。こんなものを姉だと言い張るのかと、何を言っているんだと、僕はその人形の後ろに佇む、妹と名乗る女性の顔を睨みつけた。


 「姉は死んだんです、作品は完成しましたから。姉はただ、あの「連なり」を生むためだけに生まれたのですから。完成が済めば必要にならないでしょう」


 疑問とは別の答えが帰り、一瞬我を忘れていると一斉に壁に掛けらた仮面がガタガタと震え出した。


 「共鳴です。あの仮面は人の心を食べるんです。恐怖や憎悪、悲しみや喜び、姉はそんなものとは無縁でした。利益や欲求、そうしたものにも興味を抱かなかった。私は両親の遺産をそのまま食いつぶしてゆくだけの姉が好きではありませんでした」


 壁の仮面が唸り始める、うめき声に似たそれは徐々に大きくなりつつあった。



 実をいえば、彼女達姉妹を同時に見たことのある人物はいない。出生届けにも一人の存在しか記載されていなかった。それを彼女は片方は社会的に不適合者だからずっとその存在を隠されていたのだと言った。私はその言葉を疑っていた。


 本当に共同作業を行う妹など存在するのか、姉の方は妹はアトリエから出られないといい、妹の方は姉だけがこのアトリエから出られるという。実際私は彼女に会ってみて分かったのだが、彼女はやはり二面性を抱えていた。両親を失ってから外の世界と内の世界で精神を分けたのだ。


 姉は我々教団の中で仮面の制作者としての顔を偽っていた。依頼された仮面の数が達せられると妹とされる精神が無くなり、開放されると信じていた。何故彼女は片割れの精神を恨んだのか、理由は簡単だ。あの建物に戻ると否応なく妹の精神に肉体が乗っ取られるからだ。結果的に片方の精神は仮面の完成と共に消失し、二つの面は一つになった。けれども同時に彼女の芸術性は失われた。



 「我慢が限界に達する頃、あの方が私達に依頼を下さったの。仮面を作ってくれと、そうしたら生活に不自由はなくなるだろうと、そして私にだけ結果を教えてくださった。姉はただ、仮面を作っていられれば良かったのです、だから作り方なんてどうでも良かった。あの日から姉は狂ったように仮面を作り続けました。何箇月も食事も碌にせず、仮面を作り続けて、遂に事切れました。今やこの場所は私だけのもの、私は自由、それなのに」


 合唱のように声が響き、交差する中で、彼女の声だけは他に邪魔されることなく僕の耳に届いていた、何故だ、なぜ聞こえる、そう考えて、僕は自分の耳に触れた、すると指先に何かが触れた。


 「それなのに私は仮面が手放せなかった。この顔に張り付いた仮面が、ああ、姉は既に私の一部でした、姉なしでは私は生きられなかった、馬鹿でしょう、私は私の一部を殺してしまったのです。だから私はこの場所で、姉の影を求めるあの方たちと共に有り続ける。あなたも姉の影を追われて来たんでしょう、ほら、もう逃げられない」



 彼女は仮面の製作者を演じ続けるために全てが自分の手によって作られたと偽り続けている。そうして収める筈の最期の仮面は彼女の手に残り、改装されたアトリエの客に呪われた仮面は広め続けられている。


 だが、来るのは元教団関係者とあの周辺地区の者だけだ。その上、新しく仮面をつくる術は彼女には無い。精神は限界だろう。いうなれば破裂寸前の風船だ、あまり刺激しないでくれ。


 彼女の精神が安定していれば、もしかすれば君の聞きたい情報が得られるやもしれない。しかし、彼女もまた通常の人間とは言い難い、油断はしないでくれ。では、次の手紙で。



 顔に仮面が貼り付いていた。気がつかないうちに僕の顔にも。気がつけば人形の後ろの彼女の体が歪な姿に変わり始めていた。膨れ上がった体中の肉が服を破り、露出を始めている。手足がタイヤのように膨れ、顔は風船のようだ、その露出する肌の全てに顔、顔、顔。白塗りの顔からボロボロと何かが剥がれ落ちて床に散った。


 仮面、白塗りの顔が剥がれ落ち、その下にまた白塗りの顔が現れる。仮面を量産しながらそれが嬌声を上げる。壁掛けの仮面に呼応するようにそれらが口を広げ、目を光らせこちらを威嚇するように吠えていた。


 「あなたが姉なんじゃないか、どうか教えてくれ、両親を知っているんだろう」


 僕が声を絞り出してそう言うと、ビタリと全てが動きを止めた。


「違う……」


 彼女の膨れた手足が急速に元に戻る。僕の顔に張り付いた仮面がひび割れ、足元に落ちた。


 「違う、違う、違う違う違う」


 両手で顔を押さえ、うずくまり、そうつぶやき始める。


 「私は無能じゃない、私にも作れるはずだ。その仮面だって私が作ったんだ、私が」


 人形の足元の真っ白な仮面を指さして、そう彼女が言うと、壁に掛けられた仮面が一斉に床に落ちた。


 「認めろ、認めて、そうでしょう? そうに決まってる」


 両手を床に這わせ、こちらを睨むそれは目から血の涙を流していた。滴る血が仮面を伝って床に落ちる。僕は人形の座る椅子を蹴り倒し、這いずり、こちらに向かう彼女の視界を遮った。


 「何になりたかったんだ、あなたはもう誰でもない、顔をなくしてしまっているじゃないか」


 僕がそう言うと、彼女が両耳を押さえ震え始める。服が裂けて全体が膨れ上がり、手足が肉に埋もれ、蠢く肉はやがて蕾のように丸く収縮してゆく。肉色が紙の様な白さに変わると外側に巨大な目が開き、鼻梁が盛り上がり、口になる穴が抉れてゆく。


 「顔、私の」


 それだけ告げると蕾が花開くように、何枚もの仮面の重なりとなって肉塊が割れた。

 中から外へと肉の花弁が倒れてゆく。仮面の花が咲いた、と同時に壁の仮面が全て床に落ちた。花の中心から黒い波が押し寄せてくる。


 耳鳴りがする、もうここは駄目だ、ここにいては駄目だ、その思考の渦に取り込まれ、僕の意識は黒い水の底に沈んでいった。

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