第6話 ある廃病棟の記録


 それは口を開くと、こう言った。


 「私は神」



 現在、この街の病院には使われていない病棟がある、それが精神病患者のための施設、いわゆる精神病棟だ。この街の病院から精神科が無くなってしまった、という訳ではなく、新しい精神科は別に存在している。


 過去に使われていた病棟は、今でこそ廃墟然とした有様に変貌してしまったが、当時では建家自体それ程傷んでいなかった。施設としての機能が死んだという事実もなく、使用不能となるような損壊もしていない、では、何故病棟は使われなくなったのか。


 表立っての記録では、施設内部の老朽化から移設を行なったとあるが実際は違う。閉鎖しなければならない何かが当時の棟内で起きたからだ。


 現在も取り壊されてはいないので、君もあの病院に足を向ければすぐにでもその姿を目にする事ができるだろう。僅かばかりの木々が植えられた公園らしき敷地の中にその病棟は建てたれている。病院というには少々無骨で寒々しく、鉄の骨組みをむき出しにさせた外観、それに周りを囲む鉄柵が、監獄を彷彿とさせる。


 一見して近寄りがたい建物だが、当時の精神病院と言えばどこもそんな有様だった。どちらかと言えば患者のためよりも、外の人間に面倒が及ばない事に重きを置いた、危なげな人間を拘束するための施設。一度は入れば出られない、実際はそんな事実は無いのだが、重度の精神患者が入院している病棟では、そうした空気感が当たり前に存在していた。


 かつて何百人もの患者を収容していた、そんな病棟も使用されなくなって、はや十数年経つ。この年数から勘が良ければ気がつくとは思うが、その病棟は例の教団が解体される事態となると、何故か後を追うように閉鎖された。


 何故そのような結果となったのか、その原因を考えてみて欲しい。一つの街に何百人もの収容人数を抱える精神科病棟、そして教団が解体された、ほぼ同時期に閉鎖、どう考えても関連がないとは思えない、君は疑問を抱かないか。


 秘密を一つ打ち明けると、実際の患者数より大勢の人間が棟内に収容されていた。彼等への待遇を考えれば入院では無く、収容という言葉が相応しい。患者ではない人間が、何故収容されていたのか、そして彼等は何故患者たちと隔てた場所に拘束されていたのか。



 僕は病院の敷地内にある公園の中を歩いていた。この街に来てから始めて病院に訪れていた。肌の状態はここ何年かは状態が良く、特別な薬も使わずに済んでいる。以前から定期的に服用を進められていた薬も、飲まなくなって久しい。飲んでも進行が止まらず、何をしても同じなので服用を止めてしまっていた。だから僕は病院や医療関係者自体を信用しておらず、この空間の雰囲気がどうも苦手だった。


 錆びた鉄柵が病棟全体を囲み、カズラのつたが好き勝手に巻きついていた。内側に蔓延る樹木の姿は、無造作に枝葉を伸ばしきり、かつての姿が想像できないほどに荒れ果てている。未だに取り壊されずに残されている病棟は平たい箱の上に、両端にドーム状の屋根の展望台のような階層が置かれている奇妙な形をしていた。各窓には鉄格子がはめ込まれ、鉄骨が建物の外にまで露出していた。恐らくそう言うデザインなのだろう。


 建物全体が鳥かごのような格子状の模様に覆われていておおよそ、ものものしい雰囲気をかもし出している。


 永い間風雨にさらされ、鉄骨は茶色に錆び、窓格子にもつたが巻きついていた。ひびの入ったガラスの隙間を風が抜けるのか、ガタガタという音と共に、か細い口笛のような高音が耳に届く。



 病棟には本物の患者だけではなく、墜ちた信者が押し込められていた。墜ちたとはつまり、教団にとって不要と判断されたと言う事だ。


 担当が私ではなかったため、当時どういったやり取りが病院と教団の間になされていなのかは解らない。私の調査と、当時姿を消してしまった信者の傾向から予想するに、どうやら過度の修行が原因で精神崩壊をきたした信者、教団に反目する信者が収容されていたらしい。


 要するに狂いが生じた人間、教えを広めることに障害となる人間を閉じ込める箱を、教団は早い段階から手にしていたということだ。しかし、いくら広い病棟とはいえ、収容人数には限界がある。



 手の中には錆びついた鍵が存在していた。公園の枯れた噴水、中央に立つ街灯の十一時方向の木の根元、土の中に鍵が埋められていると知っていたので、そこを掘り起こし、手にしたのだった。


 幹の下の草むらに丁度手のひら一つ分程赤土が見えていて、すぐにそこだと気がついた。しかし、周りにも木が多く、赤土が露出している場所などいくらでも見つけられる。指定されなければ気がつかなかっただろう。


 土の上には僅かに細かな草の芽が出ていて、近く掘り起こした様子は見られない。その草を摘み、軽く指で土を分けるとすぐに閉じられたビニール袋が姿を現した。土を払うと中にはうっすらと鍵の姿が見える。四つ折りの袋を解き、手のひらに鍵を落とす。


 鍵は鉄の色を失い、赤茶に変化していたが、崩れるほどの劣化はしていなかった。僕は地面に目を落とし、黙々と行き交う病院通いの患者たちを視界から逃さないようにしながら、公園内の水道で手を洗い鍵を握り締めた。


 中央の病棟入口、観音開きの頑丈そうな木製の扉には、かんぬきが掛けられ、取っ手と渡し棒に絡みつくように鎖が何重にも巻かれ、錠前がいくつもくくりつけられ、まるで葡萄のように鈴なりにぶら下げられている。


 僕は見られていない機を計らい、鉄柵内の敷地に忍び込むと病棟の裏に回り、無尽に伸びたツガの枝葉に埋もれた裏口を探す。


 露出した手足や顔に傷を負いながらも、半ば落ち葉に埋もれた内開きの扉を見つけると、そのカギ穴に手の中の鍵を差し込んだ。かきり、そう、音が鳴り、錆色の重々しい鉄扉が建物の暗がりへと飲み込まれていった。



 これ以上焦らすのは意味がない、では真相について触れよう。ここから先はこの病棟を取り仕切っていた人物から直接得た情報なので、私の予想ではない。

収容しきれない人間はどこへ行くのか、それとも、定期的な入れ替えが行われていたのか。あの病棟では人が喪失することは珍しくなかった。そもそも、正式な手順で入院した患者など十分の一程でしかなかったのだから。


 人はストレス過多の環境に長い時間置かれ続けると脳が萎縮するらしい、行動力が失われたり、正常な思考が行なえなくなる。更に生命の危機を感じさせるほどのストレス環境下だと、脳の一部が機能しなくなるそうだ。五感が鈍り、果ては機能しなくなる事さえある。


 周りに奇声を上げる人間ばかりに囲まれ、目に映るのは鉄格子と壁ばかり、拘束具を体に装着され、一日身じろぎもできない状態で放置されるだけで大抵の人間の精神は一週間以内で折れてしまう。


 但し、万人がそうだとは限らない。中にはより頑健な精神の持ち主が存在する。あの場所はそうした選別するためにも利用されていた。修行を抜け、これ程の苦境にも耐え、それでも教えに反する人物。ではそんな特別な人間はその後どうなるのか、彼等がどうなったかは後ほど君に示すつもりだ。どちらにせよ、この病棟には関連のない話、いずれうちあける時がくるだろうが、それは今ではない。


 さて、話を戻そう。君は精神に異常が見られる人間に、魂がまだ存在していると思うだろうか。そもそも、魂という存在があるとする事を前提としなければならないが、かつての現実に凝り固まった君ではなく、この手紙に最後まで目を通し、道順を辿る苦境を乗り切った君ならば、魂の存在を否定しないだろう。目に見えないうつろな存在、これまでの君の現実を打ち壊す現象を否定できないはずだ。



 暗がりに足を踏み込むと、足の下でガラスが砕けた。空気の流れが感じられない、よどんだ空気の中、浮かんだ埃に光が当たり、波が静かに床に伸び、広がっていった。息苦しさをおぼえ、口にハンカチを当てながら病棟の奥へと進んだ。窓には板が打ち付けられているため、昼間でも深夜のような闇が広がっている。偶に板の隙間から薄く伸びる光が差しているが、到底その明かりだけでは闇が濃すぎて歩き回るには心もとない。


 僕は用意していた電灯を使うと辺を軽く見回した。光が当たり、様々な物の姿が浮かび上がる。乱雑に積まれた机や椅子が管理側の部屋であったことを私に知らせてくれる。部屋を抜けると廊下が見える、二重の鉄格子、開いたままの格子扉、床に置かれた拘束具付きの車椅子。そのどれもが日常から離れた世界だと痛感させた。天井の蛍光灯はひとつ残らず外され、人工的な光を発するものが何一つ存在しない。


 外はまだ、汗ばむほどの陽気だというのに、建家の中はひんやりと冷たい。埃か、あるいは気温のせいなのか、目の前で吐いた息が白くけぶった。


 片手の懐中電灯の光がちらつく、すると積み上げられていた車椅子が通路を遮るようにして崩れ落ちた。漏れそうになる声をどうにか押し止め、崩れた椅子に体が触れることのないよう、よけて進む。


 表側の病院らしい病室の連なりを足早に歩く、するとやがて開ききりの鉄扉が奥に見えてくる。どうやら二重構造になっているらしい。鉄扉を越えると途端に扉が閉じた。閉じ込められた、そう焦ってノブを握るとひんやりとした風が背中側から吹きつけた。


 金属特有の金切り音を立てて扉が開く、大丈夫、扉は開いた。思い切って後ろを振り向く、何もいない、しかし景色は先程の病院から一変していた。



 異常をきたした精神の持ち主が亡くなれば、正常の魂に戻るのだろうか。答えは否だ、欠けた心は余程のことをしなければ元には戻らない。正常な肉体にしか正常な精神は宿らないように、肉体を失った精神はより狂いやすくなる。


 生きる者に触れることで執着が露になり、その存在が脅威となる事もしばしばだ。


 開かない扉の中に自由になる体が残されるとどうなると思う。壁を爪で穿ち、頭を打ちつけ、髪や爪をくいちぎり、挙句患者は極限まで自分を傷つけ始める。


 健全な精神はいつしか綻び、崩壊してゆく。それをそのままに衰弱死寸前まで閉じこめ続ける。


 すると彼等の強烈な念は傷が負わされた部屋に残る。濃厚な気配と共にわだかまる陰気、重ねられてゆく無念は部屋の中で渦を巻き始める。


 君にも危険なのはわかるだろう、だからこそ、目的の部屋以外には立ち寄らないことを勧める。長く外気に触れていないあの場所は瘴気が育っている。君のような健全な肉の持ち主が行けば、それらは眠りから覚め、なんとか君から接触の機会を得ようとするはずだ。惑わされてもけして入ってはいけない。肝に銘じて置いて欲しい。


 目的地である部屋は角の壁の中に隠されている。当時は隠されてはいなかったが、今現在では隠さなければならない理由ができてしまった。皮肉にも建物の完全防音の構造が充分に効力を発揮している。壁紙は私が剥がし、板も取り払った。


 両側に位置する部屋は鉄格子のような鉄柱の間に壁をはめ込んだような構造だ。小さなガラス窓が中央部に有るばかりで、息がつまりそうな程、一つ一つの部屋は狭かった。


 その窓から中を覗くと六畳ほどの広さの中に拘束具付きのベッド、トイレが備え付けられていて、正に監獄のようだ。時折、何も置かれていない部屋があり、壁や床には引掻き傷が余る隙間のないくらいにつけられていた。時折、ネズミが壁を齧るようなかりかりといった音が部屋から響き、覗こうとすると壁を内側から強烈に何かが叩き回した。


 僕は手元から落としそうになる懐中電灯を、強ばった指ごと両手で押さえ、部屋の中を照らし出そうとする、と、はめ込まれたガラスに蜘蛛の巣の様な亀裂が走り、光が遮られた。引ける腰、後ろに倒れ込む後ずさりの勢いのまま、僕は体の向きを変えると足早に一階奥へと向かった。


 突き当たり、地下への階段が暗い洞窟のように浮かび上がる。その横の壁下に剥がされた壁紙、破かれた跡がありありと残されている。どうやらこの部屋自体が隠されていたようだ。鉄扉の前には釘打ちされた板が引き裂かれて散乱していた。鉄板としか表現の使用のない扉には指がかかるほどの穴が縦長に開けられている。僕はそこに指を入れ、扉を開いた。すると更に奥に扉の姿が現れた。


 目の高さの位置に嵌め殺しのガラスが設えてある。そっと近づいてガラスの向こうを覗き込む。ガラスの前には固定された椅子が置かれている。首の位置、手首、足首に拘束用の鉄輪、椅子にはゴム質の実物人間大の人形が座らされていた。


 ドアノブのない鉄製の扉には溶接の跡が見られた。黒い煤がその扉の形についており、溶接を溶いた跡が見られる。私が扉をそっと押すと、ぐらついたそれはギリギリと床を擦りながら僅かに部屋の内側に入り込んだ。肩を当てて、扉を内側に押し込む。


 人形の全身が見えた途端、それが激しく暴れ出した。椅子ごとガタガタと体を震わせ数秒暴れると唐突に何もなかったかのように止まった。私は呆然としながらそれを見つめ、立ち尽くしていた。


 もしかして、生きている人間なのか、と思い。その人型に近づくと、全身が皮素材のような物に覆われているのだと気がついた。それの背に回るとファスナーの口が確かに存在している。錆びついたファスナーは首の位置までが、なぜか錆が薄くなっていた。



 ここはある女性が管理していた。彼女は教団の熱心な信徒で幹部の一人だ。彼女は教団からの指示の他、ある行動を取っていた。独自の方法で宿願を果たすための部屋を創造していたのだ。


 狂わされた彼等を最終的にある部屋に移動させる。意思を持たない魂、彼女曰く、「穢れなき魂」となった彼等を拘束し、衰弱死させるための檻を作り出す。犠牲者の数が増えるほど部屋の気が満ちる、完成された部屋に留まれば神になれるのだと。どうだろう、狂気に満ちていると思わないか。彼女はそれで神を作る気でいたらしい。



 僕は慎重にファスナーを首まで下ろす、中から白い髪、干からびた皮膚が覗いた。ここで留まっては駄目だと皮のマスクを剥ぎ、人型の顔を露わにした。静かにそれから離れ、正面へと回る。


 それは痩せ果てたミイラの顔だった。落ち窪んだ両眼、皴だらけで中央に集まる顔の部品、乾ききり罅割れた肉からどうみてもその人物が死んでいるとしか思えない。本当にこれが、先程動いたのか、そう考えていると、どこからか羽虫が舞うような振動音が僕の鼓膜を打った。


 はっとして目の前の亡骸を見ると、僅かに唇が振動していた。不意に大きく開かれる口、そこからしわがれた声で言葉が漏れ出した。


 「私は神」


 さて、君には彼女の存在を明かしたが、別の街で彼女が生きていて、直接話を聞いただと、君はそう思うだろうか。現実は違う、確かめてみるといい。彼女はあの病棟が閉鎖されてからずっとそこに居続けている、食べることも飲むこともせずに、それが生きていると言えるのならば、彼女は生きているのだろう。信じられないだろうが、実際に目にしたのならばそうも言っていられない、そうだろう。さあ、訪れてみると良い、目的の部屋の先に君の求める答えの一端があるはずだ。


 しかし、聞きたいことの全てが聞けるとは思わないほうがいい。彼女はただの人間ではない、それに神でもない。君の望みも何も叶えない、一つ忠告しておく、けして彼女を解き放ってはいけない。元よりあれは彼女の残骸のようなものだ。意思は欠片ほどしか残されておらず、残りは別の何かによって形成されている。私もこの情報を得るまでに途方もない時間が掛かった。あれとはまともに会話が成立しないのだ。



 「一体これは」


 僕がそう口を洩らすとそれは目を開いた。上がったまぶたから覗くのは暗い穴ばかりだ。けれどその穴の奥には青い炎が燃えていた。見つめていると吸い込まれそうな青い炎が、私は霧がかかりそうになる意識を再び奮い立たせ、何か呪文のような囀りを続けるそれに聞いた。


 「あなたは何なのです」


 それは囀≪さえず≫りをやめると、再びこう答えた。


 「私は神」


 しんと静まり返る部屋、音が不意に遠のいた。


 「あなたは教団の一信徒でしかないはずでしょう」


 僕が静寂の中そう問いかけると部屋の中が震えた。空気が、部屋が振動して私の耳に声が届く。


 「あかぁぁ、私はあの方のためにぃぃ、うぐあぁぁこの部屋を用意した。あのぉぉ方が神成りを果たすためにぃぃぐぅぅ」


 手にした懐中電灯が明滅を始め、声が震える、これだけは聞かなければ。


 「私の両親を知っていますか」


 部屋の中の埃が竜巻のようにそれの周りで舞っていた。徐々にそれの声が不鮮明に変わってゆく。


 「あああぅああの方は私の意図をぐあぁぁ、くぅくええんぅ汲んでは下さらなかった。わわわががわがわがマニはここに有るというのにぃぃぃ」


 「私の両親の名は○○と言います」


 「おうがうぅぐぅその名を口にするなぁぁ、うらうぅうらぎ裏切り者の名を、汚らわしき者の名をぉぉぃ」


 「一体両親は何をしたんです、どうして姿を消したんですか」


 回転を続ける渦が細く伸び上がり天井に到達すると伝って横に伸びた。何か文字のような物が天井の中央に浮かぶ。どこからか、巻き上げられた白い封筒が埃と共に天井に巻き上げられていく、そしてそれが天井の文字に触れた。


 「わぁぁたぁぁ、私はあの方の代わりとなるべく神となったのだぁぁ、そうだぁそれだというのにあああああ、外せぇぇこの枷を外すのだ、いまいまいましい、今すぐにぃぃ」


 不意に文字が光り、風が止んだ。その人型はそれきり元の亡骸に戻ったように何も話さなくなっていた。


 僕は落ちてきた封筒にふれ、奇妙な文様が描かれていることに気がついた。それと同じものが、革製の袋頭部内側にも貼られていた。消えかかる電灯を手に一先ずこの病棟から出ようと考え、頭部を元に戻すと部屋を後にした。


 


 さて、ここでこの手紙を終わろうと思う、この病棟を尋ねれば君の両親が関わったことの一端が垣間見えるはずだ。そして最後に各場所の詳しい位置を記そうと思う。君の知りたい情報に関しては得られるまでに多少の面倒がある事を承知してもらいたい。病棟に侵入するための鍵の位置の断片を各場所に一つでは意味が解らない形で記した。


 ○○地区 ○○交差点 電柱標識版裏の内側

 ○○町 ○○ビル ○○商事ビルの間 教団の看板裏

 ○○町 ○○商店街 ○○一丁目、二丁目間の井戸 蓋上部

 ○○町 ○○地区 外周の白杭 左面


 以上だ、こんな事を頼んでしまい申し訳ないと思う。果たして君は全てを回り終えたとき、何を思うだろうか、そして何か得られものがあるだろうか。いつか直接会えれば良いのだが、恐らくは叶いはしないだろう。まずはこの手紙を最後まで読んで貰えたことに感謝したい。ありがとう。


 最後に初めから鍵を探すことも可能だがおすすめはしない、なぜならば途方もなく時間がかかるだろう。



 病棟から脱出した先で、封筒の中身を確認すると、予想したとおりの人物からの手紙がしたためられていた。そこには礼の言葉と共にこうあった。先はまだ長い、と。

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