インターミッション:ミスタコインの話
なぁ聞いておくれよ
おいらの名前はミスタコイン
もちろんアダナで本名じゃない
仕事は別に持ってるけれど
ダウンタウンのジャンクマーケットに座ってる
おいらはコインをピカピカにして
それをお客に見せるのさ
だからおいらはミスタコイン
小さなコインは宝物
油をつけたボロキレで毎晩ピカピカに磨いてる
コインは 錆やら曇りやら汚れやら 光った分だけ語り出す
お前さんはいつの生まれなんだい?
お前さんは何と交換されたんだい?
お前さんはどんな人の手を通ってここに来たんだい?
コインは色んな話を語り出す
額面通りじゃ聞けないような 小さな素敵な物語
だからおいらは毎晩磨く
小さなコインに話しかけながら
さあさ道行くお嬢さんどんなコインがお好きだい?
どのコインにも「話」があるよ
軽薄なくせに肝心なときには必要な1円玉
穴の空いた恋しかできない5円玉
善意の面した年寄りの10円玉
運命のネジが来るのを待ってる50円玉もいいよ
子ども達のちっちゃな夢が乗っかる100円玉はどう?
オトナの雰囲気500円玉なんてのはいかが?
なぁ聞いておくれよ
おいらの名前はミスタコイン
もちろんアダナで本名じゃない
ピカピカコインはおいらの姿
枚数ためてもコインはコイン
どんなに磨こうがコインはコイン
だからおいらはミスタコイン
そんなコインが恋をした
相手は豪華な宝石さ
見ちゃあいけないものを見た
ふらりとココにやってきた素敵なあの子は宝石さ
青い瞳に金の髪
白くて細い指先でコインを指さしいったんだ
「この綺麗なものはなに?」ってね
おいらは怒って笑ったよ
ここはあんたの来るとこじゃないって
そしたらあの子は何も知らない顔をして
無邪気にいったよ「お話をしてくださらない?」ってね
少女みたいな無邪気な顔で
だからおいらはコインを見せた
小さなコインに話をさせた
気まぐれな宝石はコインをしらない
小さなコインは宝石をしらない
だからおいらは恋をした
磨いて並べたコイン達
話を終えたコイン達
彼女の前じゃくすんじまう
だからおいらは磨くんだ
あの子の光に負けないように
油をつけたボロキレで
毎晩コインを磨いてる
語りかけるのは心の宝石
上の空でコインを磨く
コインに話しかけはしない
どんなに磨こうがコインはコイン
ピカピカコインはおいらの姿
コインは話をしなくなっちまった
だからおいらは集めたんだ
もっと多くのコインをね
枚数ためてもコインはコイン
どんなに磨こうがコインはコイン
こんな小銭じゃ宝石は買えない
ピカピカ光っても宝石にはなれない
コインは光を失った
おいらはコインを失った
宝石のあの子はピカピカのコインを見ても
少女の顔をしなくなっちまった
コインはただのコインになっちまったから
だからあの子は去っていっちまった
おいらはおいらを失った
おいらは宝石を失った
手元に残った大量のコイン
額面通りの光るコイン
おいらはそこに埋もれてる
なぁ聞いておくれよ
おいらの名前はミスタコイン
もちろんアダナで本名じゃない
おいらのコインは額面通り
ピカピカなのはチープな光の反射
おいらはきっとただのコイン
おいらは一体誰だろう
コインは一体誰だろう
おいらは
コインは
コインの海で酒浸り
おいらは自分をすっかりなくしちまった
やさぐれたおいらはコインを一枚手にとったのさ
おいらは そして――
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