お祈りの日

 吹きすさぶ風。舞い散る砂埃。老人の頭めいて申し訳程度に生えた草。葉も無い痩せた樹。転がる岩。何らかの建造物の残骸……。

 旧世界の人々がこの光景を見れば、きっと驚くか、あるいは絶望するだろう。これが人類の未来なのかと。子孫の為に尽くしてきた努力は、全て無駄だったのかと。

 そびえ立つ廃墟ビル群は物語る。摂理に背を向け、母なる大地の命と引き換えに華を咲かせた、人類のかつての栄光を。生存圏のほとんどを異形の怪物に、そして生ける亡者達に奪われた、その哀れなる末路を。それを嘲笑うように、今、ざわざわと音を立て、大地に根を張る雑草達が、風に揺れた。

「……ビルってのはさぁ」

 その大地を踏みしめる、ひとつの重い足音あり。

「大概『巣』になってんだよなぁ。あるいは『家』か」

 スカートのスリットから白く長い脚を覗かすその女は、旧世界アンティーク望遠鏡を用い、廃墟ビル群を眺めた。

「……もう大概で旅も飽きてきたわ。そろそろ頼むぜ」

 ハスキーボイスの彼女は、ボロの……非常にボロの修道服を着た女であった。

 ただし、そのボロさ以外にも普通でない点は多い。やたらと体のラインが出る、タイトな作り。注目せよと言わんばかりに大きく開いた胸元、そして肩から先。手には黒く装飾のついた指抜き手袋。細く長い指先には、鮮血が如く赤いマニキュア。

 嗚呼、だが真に注目すべきは、その異様に縦長いシルエットであろう。

 メートル法に換算して二メートルを超える長身。そしてその腰まで届く、明らかに長すぎる前髪。それは彼女の顔を左半分覆い隠していた。

 隠れていない右目で望遠鏡を覗き込みながら、彼女は廃墟ビルを観察する。動くものは見当たらない。だが、きっと何かがある。

「……いてくれよな、『男』」

 彼女は祈るように呟いた。

 ……しかし待ってほしい。今『男』と? それがこの女の旅の目的だというのか?

 然り。

 彼女は探していた。旧世界性行為記録映像、通称『AV』。その中で頻繁に登場し……そして、亡者の世界には決して招き入れられぬ存在……生者の世界には確かに存在するという、もう一つの性別……『男』!

 そう! 彼女は……この生ける亡者は! 『男』を探す旅の途中であったのだ!

 それは、彼女の棲家にして退廃的亡者の楽園、『家』……その女王、『ママ』に捧げる供物。『家』に住まう誰から見ても最高の女である彼女は、娘達がいくら望もうとも、決してその体を抱かせようとはしない。それを達成した者があれば、『ママを犯した女マザーファッカー』として永遠に語り継がれるだろう……そうとさえ言われている。

 そんなママが、確かに約束したのだ! 幻の存在『亡者の男』を連れて来られたならば! 連れて来た娘には『一晩中体を預けてもいい』と! つまり! 『セックスをしてもいい』と!

 そうとなれば黙ってはいられない! とめどない性欲に導かれるように、数名のセックスフレンドを連れ、女は直ちに旅立った! ……しかし不幸が重なり、彼女らは離れ離れになってしまったというわけである。

 セックスフレンド達が今どこにいるのか、無事なのか。今のモモには分からない。通信機器など、人類は旧世界に置いてきてしまったのだから。

「結構回ったと思うぞ、ヨソの『家』。そろそろいてもいいだろ」

 女の脳裏に、旅の記憶が蘇る……無知性亡者の巣……筋肉女達との裸相撲……セックスを知らぬ女達に色欲を植えつけた夜……骨の体で生き続ける呪術亡者集団……旧世界の絵画に興奮しオナニーする奇妙な文化を持つ女達……他にも様々。

「……でも、ま。やっぱり我が家が一番っていうかさ。やっぱウチよりいい『家』は無かったな。早く男見つけて帰りてえぜ」

 女が誰にともなくそう言いつつ、旧世界アンティーク望遠鏡をしまおうとした……その時である!

「……ん。なんだありゃ」

 女はその拡大された視界に、あるものを捉えた。

「ありゃ……人じゃねえか」

 然り。そこに倒れていたのは、人であった。それも人形めいた紫ロリータ服に身を包んだ、ウェーブがかった金髪の、小柄な少女が。

「あんなトコで寝たら腐るぞ体、死んでんのかな……いや死んではいるだろうけどさ……」

 そこで女はごくりと唾を飲んだ。

「それにしても……嗚呼、女かぁ……!」

 そう!

 最後の『家』を出て以来、女は一度もセックスをしていないのだ!

 故郷でも一、二を争う性欲旺盛女である彼女にとって、これは耐え難き苦痛! そのための……しかも、マンネリ化しなくて済むようにという配慮からの、セックスフレンド複数名同伴だったのだが、彼女らも今はいない! 更に彼女は、『オナニーは絶対にしない』という自分ルールまで持っている!

 女は今、性欲の魔獣であった! 彼女の好みはもっと肉感的な女だったが、今の彼女にとって、その少女はレベル4異形生物の限りなく生に近いブルーステーキめいて魅力的に見えたことだろう! 上下それぞれの口から溢れ出す唾液!

「うぅ、ハァッ……だめだ、我慢できねぇ、ヤるぞ、ヤるっ!」

 地面を蹴る音! 女は駆け出した! ロリータ少女の元へと! 荒野にその足音を盛大に響かせながら!

 そして立つ! ロリータ少女の隣に!

(怪我とかはしてねぇな)

 わずかな理性で彼女は思った。

 然り。少女の体には傷も出血も一切無い。失血で動けなかったり、脳を破壊されたりしている可能性は低いだろう。では、何故こんなところで倒れているのか? しかし女はそこまで深く考える余裕が無かった。女は素早く少女の上に覆い被さり、その細く美しい首筋にむしゃぶりつこうとした。

 まさにその時であった……ロリータ少女の目が、かっと見開かれたのは。

(!?)

 少女の赤い瞳が、女を……睨んだ!


 バキバキバキバキ!


 その音と共に! ロリータ少女の服を突き破り、その胴体から何かが飛び出した! 嗚呼! それは……骨!? まさかこれは、彼女の肋骨だというのか!?

 食虫植物めいて大きく口を開けたその肋骨! それはまさに今閉じようとしていた! 彼女は待っていたのだ! 興味本意で、性欲で、食欲で! 様々な目的で己に近付く愚かな獲物が、こうして罠に嵌るのを!

「うおおおおおぉぉぉぉッ!?」

 女は絶叫! 覆い被さった状態から大きく体を逸らし……ブリッジ姿勢! からの! 後方倒立回転! 着地!

 間一髪! 女が完全に性欲に呑まれ、理性を欠片も残していなかったなら、瞬時にこの判断はできなかったであろう!

「何だぁテメェッ!?」

「なかなか身体能力は高いようだな、聖域を穢す愚か者め」

 メキメキと音を立て、伸びた肋骨を昆虫の脚めいて動かしながら、ロリータ少女は起き上がった! 腕を一切使わず、大きく広げたまま! その顔には、確かな蔑みの表情!

「だが、すばしっこい程度では何の自慢にもならん。穢れた女よ、我らが『教団』の聖域に足を踏み入れたこと、後悔するがいい」

「『教団』? フハッ、この世界にもまだ宗教とかあんのか」

 間合いを確かめ、戦闘の体勢に入りながら、女はニヤリとした。

「神の話ならアタシも知ってるぜ……世界が混沌に満ちていた頃、神は言った。『レズセックス最高』って。そしたら男は滅び、酒と暴力と性欲が残った。神はこれを良しとし、オナニーして寝た」

「愚弄するか、穢れた女」

 肋骨を畳みつつ、仰々しく言うロリータ少女。その表情が僅かに険しくなった。

「煽り耐性ゼロかよ」

 両手の手袋をその場に投げ捨てながら、女は笑う。

「あとな、穢れた女じゃねえ。いやまあかなり汚れちゃいるかもしんねぇけど……覚えときな。アタシの名前は……だ」

 直後!

「断罪!」

 ロリータ少女がそう叫び、大地を蹴った! 反復横跳びめいて左右に素早く動きつつ、モモとの距離を詰める!

「『教団』の聖域に入る異端の者は! 我等が教祖の洗礼を受け、信徒となるか! ここで真なる死を迎えるか! ふたつにひとつ!」

「ゴロゴロしながらインチキ宗教にハマる奴待つのが仕事か! 楽そうだな!」

 女は……モモはその場から動かず、ただロリータ少女を目で追い、待ち構える!

「ほざけェ!」

 少女は大きく跳躍! 空中で一回転しつつ肋骨を再度展開! モモを串刺しにせんとする!

 彼女ら亡者は、脳さえ破壊されなければ死を迎えることはない……しかし血を失えば動けなくなるのは生者と同じ! 避けねば!

 だが! モモが取ったのは、意外な行動であった! 彼女はその右腕を……大きく勢いをつけ……!


「堕ッ!」


 奇怪なシャウトと共に、前方へ突き出したではないか!

 直後! 大量の血液と共に飛び出したのは! 嗚呼、馬鹿な……彼女の……右腕!? その右腕が、ロケットパンチめいて飛んで行くというのか!?

 ジャリジャリジャリジャリ!

 ……否、この音は! まさか鎖!? モモの飛び出した右肘から先と、右肘より手前が、鎖で繋がっている!? 腕はただ飛んで行ったのではなく、フックショットめいて鎖で繋がっているというのか!?

 ……実はそれも違う! 鎖ではないのだ! 生者はそれをこう呼ぶ……蛇腹剣と!

「何ィッ!?」

 回転の中驚愕したのは、ロリータ少女!

「貴様も肉体に武器を!?」

「ハッ、自分以外が武器使うのがそんなに珍しいかよ!」

 この攻撃、空中では避けることが難しい! 相手の手を読み損ねた判断ミスだ!

 モモの手の甲が裂け、剣の切っ先が飛び出す!

「ウオオッ!?」

 ロリータ少女の腹を突き抜ける、モモの右腕! 噴き出す少女の血液! 紫に赤の混じるロリータ服!

 ……とはいえ少女もまた亡者! ということは、痛みの感覚を持たぬ! いかなる深い傷を与えたとて、それだけでは……否! それだけではない! モモはそのままロリータ少女の体を……引き寄せた! 少女の体を掴み、同時に伸びた蛇腹剣を縮めることによって! そこに待つ、モモの左腕! 当然その先からも、剣が飛び出している!

 しかし! 相手を引き寄せるということは! 相手もまた、モモに攻撃できる距離に近付くということ! 展開された肋骨は、再び食虫植物めいてモモを喰らおうとしている!


「断罪ッ!」

「惰ァッ!」


 同時に響き渡るシャウト!

 そして! 少女をモモが! モモを少女が! 貫いた!


 ……モモの体中に刺さる肋骨。当然そこからは赤黒い液体がダクダクと溢れる。

 しかし少女が狙われた位置は……首である。その作り物のように細い首から溢れ出る血は、まるで滝のようであった。

「お前さ。大人しくアタシの脳狙っとかないからだよ」

 モモはニタリと笑うと、その左腕を……ぐりと捻った。

 ブチブチ、ミチミチ。

 生理的嫌悪感を呼び起こすその音と共に、少女の首は千切れ、地面に落下した。その頭は少し転がって横を向き、止まった。同時に脱力していく胴体。肋骨が、モモの体からずるりと抜けて行く。彼女の胴体は、力無くべしゃりと地面に倒れた。肋骨は畳まれていった。

「胴体だけで動く系だったら面倒だったけど、違うっぽいな」

 首を境に分離した少女を見下ろしつつ、モモは落ち着いた様子で言った。

「こんな……」

 地面に転がったまま憤怒の形相を作るのは、少女の頭である。

「お前、あのセコい罠でアタシを殺せねえ時点で負けだよ。いつもアレやってんのか? ってことは奇襲ばっかで戦闘経験浅いな?」

 少女の頭は僅かに震えていた。

「ひょっとしてさ、アタシを生け捕りで差し出したらボーナスとかあんの? だからアタシの脳ブッ壊したらマズかったって感じか?」

 少女が奥歯をギリと噛む。

「分かりやすいなお前。もっと強くなってからしろよ、カッコつけたり損得勘定したりは。アタシの故郷じゃ、『武器』持って調子乗った奴から死ぬぜ」

「……殺せ」

 血の涙を流しながら、少女は言う。

「我等が教祖に顔向けできん」

「やだよ」

 モモはそう言うと、己の修道服をするすると脱ぎ始めた。

「……は?」

「まあ別に殺してもいいけどな。用事があるのはお前の体だけなわけだし」

「な、何を……!?」

 彼女の豊満な胸が、尻が、旧世界モデルめいたくびれが、すらりと伸びた肢体が、露わになっていく。左乳房から臍にかけて、漢数字の『百』をモチーフにしたタトゥーが刻まれていた。体を伝い流れる血が、余計に彼女の性的魅力を引き立てている。

「何のために首と胴体切り離したと思ってんだよ」

「まっ、き、貴様!? 穢れた女め!」

「モモだっつってんだろ。今から抵抗できねぇお前の聖域メチャクチャに穢しまくってやっから……何だよこの服、クソ脱がせづれぇ」

 モモは左腕の剣で少女のロリータ服を無理矢理切り裂いた。

「の、呪われろ!」

「もう呪われてら、生きてる時点でな」

 皮肉な笑みを浮かべながら、モモは布の下に待っていた惨状を眺めた。戦う前であれば、蕾めいて未発達な体が楽しめたかもしれない。だが、少女の胴体は既に滅茶苦茶である。肋骨を露出したために胸は裂け、腹には穴。内臓まで見える。

「あー……まあいいや。大事なのは下半身下半身……へへ、久々の女体……ん?」

 その時である。モモが妙な物の存在に気付いたのは。

 それは、彼女の性器に深々と突き立てられた、奇妙な物体だった。

「……何だこりゃ。マンコに先客か」

 華美な装飾を施された柄と鍔があり、剣めいている。

「よせ、それは!」

 少女の首は、明らかに動揺した様子を見せた。

「お前普段からこんなん挿れてんの? アタシから犯されるの嫌そうだしそういう宗教なのかと思ってたら、なかなかエロい趣味してん――」

 モモはそこで言葉を切った。それが、突如として振動を始めたからである。

「な、何だ?」

「母なるっ、大地、よぉ」

「は?」

 突然奇妙な言葉を口走ったのは、少女の首である。

「御名がッ、性……と! されますぅ……ようッ……にィッ!」

 その言葉に反応するように、切り離されたはずの胴体がびくびくと反応を始める! モモは思わず尻餅をつき、後ずさった!

「ちょ、動けないんじゃなかったのかよ!? なんだ、感じはすんのか!?」

「絶頂があぁんッ、き! 来ますッ、よう、にィッ……行為が、あぁ胸にひぃっ行われる……通ぉあり! 下にもぉおぉおぉぉ行われますようにィひひぃ」

 まるで何かを求めるように、少女の腰は激しく前後に動いている!

「私達にッぁあん日っごとにぃああぁ今日もォぉあっあお与えあっ下さいぃっ! 私達のッ罪をほぉ! お許しくださいぃあっ! あぁ私達もォ股をぉッ緩くしますゥ」

 不気味でシュールさすら漂うこの光景に、モモは逆に性欲が萎えていくのを感じていた! おお、彼女の性器に挿されたそれの、振動する速度がどんどん早くなっていく! それに比例するように、少女の腰がガクガクと浮いていく!

「あっあァア私達にいひィィィ誘惑のォ中で! ぁぁあアクメをッ! くださいぃああんあふぁクンニッとぉお手マンとぉ! あはぁ性行は! うぅうあぁあぁぁ永遠にあぁッアナタのォ! ものッですぅああァあっいくっいくっふぅうぁぁぁぁああ!」

 少女の胴体が、ひときわ大きく仰け反る!

「ザーメン……ッ!」

 呪文めいたその言葉と共に、少女の胴体はびくんと痙攣し、そして再び弛緩した。

「……イった、のか……?」

 モモはその光景を、ただ茫然と眺めていた。

「……っていうか動くならさっき普通にアタシに反撃しとけよ……感じるだけしかできねぇのかな……首落とされた状態で体責められた時どうなるかとか知らねえし、流石のアタシも……」

 モモが恐る恐るツッコミを入れている間に、少女が性器に突っ込んでいた物体は、その振動を止めた。

「オイ、お前何だったんだよ今の……」

「……一日五度の……性なる……祈りの時間だ」

「五度!? この気持ち悪いオナニー五回もやってんのか一日に!? 頭おかしいのかお前、っていうかお前ら!?」

 モモはそう言いながらも、少女の股間に刺さったその十字型バイブレーション性玩具に興味を引かれていた。相手の性器に物を挿入するプレイは確かに存在するが、このような振動する玩具は初めて見たからだ。

 モモはそっと柄を握ると、旧世界の伝説に残る勇者めいてそれを抜く。

「やめろ、それは貴様がうぅッ!?」

 反応するように、少女の声。

「……やっぱ感じんの? 繋がってなくても」

 少女は答えなかった。モモも深く掘り下げるのはやめた。

「……どういう仕組みなんだ? っていうか斬新だよな、確かにただ太いモン突っ込むだけには飽きてたんだよ。震えるっていいな。これ持って帰って『先生』に見せたら革命起きるぞ多分」

 少女に睨まれつつ、愛液まみれのその十字物体を、モモはしげしげと眺めていた。そして、あることに気付いたのだ。

「これ……この形」

 そう、剣でいう所の刀身にあたる棒状部分の形状に、モモは見覚えがあった。

 旧世界性行為記録映像『AV』。その中で男の股間についており、時に女に舐められ、時に咥えられ、時にしごかれ、時に挟まれ、そして大抵最終的に女性器に挿入され、白い液体を出していた……!

「……チンポじゃねぇか」

 そう! 男性器である!

「お、オイオイオイ! ひょっとしてお前ら、『男』について何か知ってんの!?」

 モモは服も着ぬまま、十字型バイブレーション性玩具だけを握りしめ、慌てて生首に駆け寄った!

「アタシ、股間にコレと同じのが生えてる奴ら探してんだよ! 知ってんだろ!?」

「………!」

 少女は答えようとしない。モモは途端に無表情になった。

「ふーん、分かった。じゃ、こうしようぜ。このチンポが人質だよ」

 モモは再び剣を向けた。性玩具に。

「なッ」

「コレが無きゃ、オナニーができねぇだろ」

「性なる祈りだッ!」

「どっちでもいいけどよ。大事なモンだよな?」

「くぅ……ッ!」

 歯ぎしりする少女!

「お前がアタシに協力しねえってんならさ、これ二度と使えないようにブッ壊す。そんで、お前の頭だけどっか遠くに抱えてってさ、見つからねえように埋めといてやるよ。そしたらお前死ねねぇし、大事なオナニーの時間が何回来てもできねぇよな」

「どっ……どれだけ下衆な女なんだ貴様ァ!」

 少女は首だけで怒り狂い、そして怯えている。モモはこれを良しとした。

 信仰心など、モモには到底理解できぬ感情であった。しかし『自分ルール』を己に課す亡者が多いことはモモも知っているし、モモ自身その『自分ルール』が多いことで知られている。

 決まった時間にオナニーする。そのルールが守れぬ苦痛、そして何より性欲を解消できぬ苦痛! それは想像を遥かに超えるだろう!

「これは預かっとくゥッ……からさ」

 そう言いながらモモは、己の股間に性玩具を挿入した。少女の愛液をそのままに。元々濡れていたのもあり、それはずるりと奥に飲み込まれた。「んん……ちょっと太さが物足りねえな。今は震えねえし」

「き、貴様! 私のだぞ! 信徒でもないのにそんな――」

「しまっとくのに丁度いいじゃん。ちゃんとお前が言う事聞きゃ返すよ」

 モモはそう言いつつ、服を着始めた。

「……何をすればいい」

 無念さを絞り出すように、少女は言った。

「お、何でもすっか? じゃ、早速連れてってくれよ。お前の『家』にさ」

「ぐぅ……」

 少女は少しばかり躊躇したが、やがて言った。

「……案内する」

「助かるぜ。大丈夫だって、お前がアタシ相手に犯した失態なら、アタシの超絶枕営業で揉み消してやるからさ」

「………」

 少女は答えなかったが、モモは気にしなかった。そして手袋まではめ終えると、裸の少女の頭と体を抱え、廃墟ビル群へ向けて歩き始めた。

「そういやお前、名前は?」

 右腕に抱えた生首に向かって、モモは話しかけた。彼女は少し黙っていたが、やがてぶっきらぼうに返事をした。

「……ヴァイオレット」

「バイ? 変わってんな。そういやママもバイだって言ってた」

「ヴァイオレットだ!」

 風の音。ブーツの足音。ふたりの声。この荒野に響くのは、ただそれだけ。

「で、バイちゃんよ」

「……もう何でもいい」

 ヴァイオレットの生首はうんざりした顔で言った。そんな彼女の気持ちを知ってか知らずか、モモはニヤリと笑いながら、ヴァイオレットに向かって語り掛ける。

「これからお宅の教祖ファックする前に聞かせてくんねぇか。お前の『家族』ってどんな奴らだ? そんで何より……『男』はいんのか? チンポのある奴が」




 その日は、とても暑かった。昨日が暑かったのと同じように。

 明日もきっと暑いだろう。


 しかし、嗚呼! 今日という日は、まだ終わらぬのだ……!

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