第3話 不思議な話
私の周りには、小さい頃から様々な”不思議”が溢れていた。
少し霊的な話になる。この手の話にアレルギーのある方は、読まれない方がいいかも。
私の育った町は田舎の小さな宿場町で、私の育った家は、昔の旅籠を改装したもので、変わった造りをしていた。
もっと変わったことがある。同居人に幽霊がいたのだ。”あも”という名の女中さんで、二階に住んでおり、祖父は「あも女(じょ)。」と呼んでいた。
待ってくれと言う方がいるかもしれない。二階に住んでいた?お前は見たのか?なぜ断言できると。
私は直接見たことは無い。幼かった私は、気配を感じて怖かった経験があるだけである。大人になって、一時期二階に住んでいた叔父が、父と飲みながら、若い頃の思い出話をしていた場に居合わせたことがある。そのとき、二階の幽霊には参ったという話を、まるで隣人の話をするかのようにしていた。毎晩、叔父の寝顔を覗きに来たと。最初は怖かったが慣れたと。
叔父は無神論者である。そのことが却って信憑性を増してくれた。
もうあの家は取り壊されたが、実家に帰り、駐車場になったその場所を通りかかると、「あもさんはどこにいったのかな。」と考えることがある。
祖母は失せ物探しの名人で、他人に頼まれて、無償で失せ物探しをしていた。仏壇の前に座り、弘法大師を念ずれば、無くなった物がどこにあるかぴたりと分かる人だった。
最初は信じなかったが、逃げ出したペットの亀の居場所を、ぴたりと言い当てられ信じるようになった。家の中から逃げ出した亀は、隣接する畑の植え込みの中にいた。家の敷地は広かった。あてずっぽうにしては、ピンポイントすぎた。
95歳まで生きたが、神がかったところがあり、時々透き通るような眼をして、預言めいたことを言うことがあった。祖母が死んだとき、私は遠く離れた東京にいた。会社の寮の、自分の部屋で珍しく寝付けない夜だった。夜中、なぜか部屋に祖母が来たと感じた。具体的に何か見たわけではない。一週間前に帰郷したときは元気そうだった。よって予感もなかった。早朝、寮監から電話だと起こされた。実家から、昨晩遅く祖母が亡くなったという電話だった。
妻から実家へ帰りたいと言われた昨年4月、悩んでなかなか寝付けなかった。明日も仕事なので、強引にでも寝ないといけない。布団をかぶってしばらくすると不思議な感覚がした。
ああ、祖母が来たな。
理由なくそう感じた。祖母が死んだ時以来の感覚だった。声が聞こえたわけでも、姿が見えたわけでもない。しかし、私には祖母の言いたいことが分かった。
あの͡娘を実家に帰してあげなさい。
それがあの娘には一番いい。
心の中で祖母に尋ねた。
島に返せば、妻は治るんか。
祖母は黙って微笑んでいる気がした。
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