第57話 恋愛と年齢差



 少し前に高齢の芸能人と若い女性の結婚がいくつかニュースを賑わせていたが、このような典型的な事例を取り上げるまでもなく人を評価する上で年齢の持つ意味がどんどんと低下している感じがしている(容姿と精神のエイジレス化)。

 もちろん今でも年齢は恋愛において重要なファクターであることに変わりはないし、昔から年の離れた恋愛も数多く存在している。いま年齢の敷居が下がっているというのは私の個人的感想であって、それを明確に示すようなデータを有しているわけではない。

 しかし、年齢差というポイントが恋愛においてどのような意味を持つのかには興味があるので少し考えてみたい。


 まず相対的な年齢差ではなく絶対的な年齢というものが関係する。年功序列が崩れ去ったとは言えども今でも若者よりは年齢を経た方がお金を有してるというのは間違いない事実である。すなわち、経済的な意味において絶対的な年齢というものは大きな意味を有している。経済的側面はどちらかと言えば若い女性側から考えれば成立する取引なのかもしれないが、男性側からすれば別の理由が取引材料となっている。

 「女房と畳は新しい方がよい」と言うのはことわざにもあるが、その目新しさや新鮮さが重要視されている。しかし現実にはあまり若い女房はまわりからは羨ましがられるかもしれないものの、世代ギャップや性生活などを考えると難しいという面もある。

 事例は少ないが男女の年齢が逆転したパターンも存在し、イメージとしては財産目当ての場合が考えられる。

 どちらにしても、絶対的な年齢は経済的な側面を意味するケースが少なくない。


 女性側で、年上の男性に恋愛感情を抱くパターンとしてよく語られるのは、ファーザーコンプレックスの対象としてというものもある。この場合には絶対的な年齢よりもむしろ相対的な年齢差が重要となりやすい。父性と恋愛感情の混同現象だと考えられるが、絶対的な安心感を抱くための代償的行為だと考えれば納得も行く。基本的には個人的なトラウマや趣向が関係するのであろうが、それを追い求める理由もあるのだろう。

 先ほどの経済的側面にしても、あるいは絶対的な安心感にしても、一面では社会的な不安感が先立っているのではないかとも思えてくる。無理矢理こじつけすぎなのかもしれないが、だとすれば現代社会における若年層の経済的な困窮や、あるいは社会に対する漠然とした不安感が関係しているようにも思えてくるから不思議である。

 ただ、その場合に男性側が何を求めているかという面については、少々わかりにくい。若い女性との恋愛はステイタスの一つとして考えるのか、あるいは刺激不足解消の一環なのか。ただ、ひょっとすると先の見えないこの時代だからこその自爆的行為だとすればむしろ深刻である。


 あるいは女性の婚姻年齢が上昇していることが、男女の年齢差が広いケースを生み出す土壌となっているやもしれないが、このあたりについてはなかなか考察が難しい。

 年齢差は、恋愛を考える上で乗り越えるべき大きな壁であるのは今でも間違いない。そこには世間体やこれまでの常識という無意識的な障壁が存在し、それを打ち壊すだけの動機がなければ行動には移しがたい。仮に、経済面と安心感という二つの側面について今回は言及したが、他にももっと重要な要素があるのかもしれない。こうしたものは社会の移り変わりと共に力を持ち始める。意外と時代を読み解く鍵が眠っていたりして。

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