第54話 意外性と秘密の関係



 彼女や彼氏の意外な面を見たことが恋愛感情のスタートとなることも決して少なくない。それは漫画やドラマの中だけでなく、現実の場面でも衝撃度こそは違えども多々あることである。もちろん、その一瞬で恋に落ちるというケースは必ずしも多くないかもしれないが、それでも好意がぐっと増大することはままあるだろう。同僚や同級生の意外な一面を垣間見て、恋愛感情は抜きにしても興味や関心をかき立てられることは誰しもが経験することでもある。


 さて、この意外性ではあるが基本的に悪い側での意外性ではないことは必須である。想像以上に悪かったという意外性は、当然のことながら心証に汚点を残しその人を遠ざけようとする気持ちが働くケースが多い。ただ、その時の善悪は社会通念と一致しているとは限らず、むしろその行動や態度を見る相手の興味をどれだけかき立てたかにより反応は変化する。特に、全く想像もしなかった状況に虚を突かれた場合などは、好ましい行動とは限らなくても心を大きく揺さぶられてしまうこともある。

 もちろん、それが恋愛感情に発展するにはもう一つ条件が必要だろう。その意外性が自分のみ知りうるという独占可能な情報の場合である。決して隠さなければならない秘密ではないのだが、情報を得た自己の優位性は気持ちを高揚させやすい。この高揚が恋愛感情に敏感に作用する。

 意外性とは、単純な希少性ではなくその情報を知るものの寡占性によりより大きな意味を持つのである。自分だけの秘密はいつの時代も人を不安にさせると同時にその心理を昂ぶらせる。その興奮によりもたらされる感覚が私達に甘い夢を見せる。


 意外性を人間関係において活用するためには、単なる意外性を見せるだけではなくそれを二人で共有することがきっかけとして重要である。さらに相手がそのことを自分だけが知っていることして秘匿してくれれば関係は深まる。共犯関係が心の距離を接近させる訳だ。自分だけが知りうる比較的好ましい秘密を有することで、一方的な心理的依存が発生しているのではないだろうか。

 もっとも、相手側に自分に対する興味が皆無であったならばその秘密の契約は守られない。ネタとして散々利用されてしまうのがオチである。それ故に、意外な一面は少なくとも二人の間に一定の礼儀と信義関係が成立するか、もしくは秘密をばらせないような心理的上下関係が必要となる。

 DVの男性から離れられない女性の話もしばしば耳にするが、自身のアイデンティティが脆い状態の時ほど小さな希望にすがりがちになる。ほんの少しの優しさが、自分の心の中で増幅してしまいやすい状態である。単なる暴力のみではこの関係は続かない。普通は、暴力と同時に最大限の愛情が注がれていると感じるからこそ離れがたくなってしまう。それは優しさという秘密を知っているからこそ、そしてその秘密に依存してしまっているからこそ招かれる状況だと思う。


 極端な例を基に全てを語るのは問題があろうが、意外性を武器として関係を進めるためにはそれを二人の共有の(あるいは相手のみに留める)秘密としてしまうことである。さらに、それが心の中に占めるウエイトが高まるほどに感情は恋愛に変化しやすくなる。

 恋愛において、おそらく意外性と秘密は不思議と繋がっているのだろう。

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