エピローグ


 『風船割り』ハシブトガラスのジョイはやがて、割り続けた風船の数を追うごとに歳を重ね、『風船割り』カラスの遺伝子を後生の子ガラス達に伝え、いつの間にか老カラスになっていた。


 しかし嘴や鉤爪の威力は衰えず、こびりついた『歴戦』のゴムの匂いも更にきつくなっていた。


 老カラスのジョイは、年輪を重ねた大木に成長したジョイの塒の木の枝に留り、『若さ』を保つ為にだいぶ前に拾った大きく膨らむ赤いゴム風船の吹き口を嘴に加え、息を深く深く気嚢へ吸い込み、喉袋をはらませて、老いているとは解らないくらいパワフルに息を入れて大きく大きくプープーと膨らませ、今までの生涯を思っていた。


 ・・・厳しかった母ちゃん・・・


 ・・・互いの風船好きの遺伝子が受け継がれて拙者の生き甲斐となったと思うと本当に拙者の母ちゃんは偉大だったと思うよ・・・


 ・・・そして『風船割り』ライバルのカラス達や、一緒に風船を楽しんでくれたカラス仲間達や鳥達・・・


 ・・・そして何より、拙者を『風船割りカラス』に育ててくれた、ドバトのアンチャンとカモメのミッチェルさん・・・


 ・・・やっとここまで来れたのも、みんなみんなのおかげだよ・・・



 

 ・・・それにしても、拙者より先に巣立って行った兄弟は今頃元気かなあ・・・


 ・・・拙者の我が子達もとい、後継ぎ達も・・・


 ・・・人間に殺められた者、不慮の事故でこの世を去った者・・・


 ・・・運よく生き延びて、拙者のように飛んできた風船を元気に割ってるだろうな・・・


 ・・・逢いたいなあ・・・もう一度・・・




 「こんぐらいでいいかな?」


 カラスのジョイは、洋梨状にパンパンに膨らませた風船の吹き口を脚で結ぼうとした。




 するっ・・・




 「あっ!!」




 ぷしゅーーーーー!!ぶおおおおおおーーーーー!!しゅるしゅるしゅるしゅるしゅるしゅる!!




 「あーあ・・・吹っ飛んじゃった!!また拾ってもう一度膨らませなきゃ!!」


 カラスのジョイはその時、目の前に拡がる夕焼けに輝く遥かな山々に、思わず見とれた。


 ・・・拙者も、あの山の向こうの向こうへ『風船』になって飛んでいきたいなあ・・・


 ・・・翼はあるけど・・・


 ・・・そうだ、拙者達は翼を持った『風船』・・・

 

 ・・・自由に飛べる『風船』なんだ・・・


 ジョイは老いた目から、うっすらと一筋の涙を流して遠く山の峰々を見つめていた。






 ~fin~

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風船割りカラスジョイの伝記 アほリ @ahori1970

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