4#カラスのジョイを『風船割りのカリスマ』へ導いたハト

 風がとても強い時のこと、


 カラスのジョイの前に半ば吹き飛ばされるように飛んでいたら、同じく煽られるように飛んで行くものを発見した。


 「5個の赤青黄色緑オレンジのまたカラフルなゴム風船の束が飛んでるではないか!

 パンパンパーーーーンと連続割りしてやるーーー!!」


 カラスのジョイは喜びいさんで、飛び出した。



 びゅうううう!!



 ジョイの羽根の風圧といきなりの突風でバランスを崩して、体制を取り直そうとした。



 ぐぐっ!!




 「?!!」



 割るのを諦めて、退散しようとして飛んでたら、何か抵抗があると変に思って、左脚をみた・・・


 血の気が引くみたいにショックを受けた。


 その瞬間、カラスのジョイ左脚に風船の束の紐が絡みついてしまっていたのだ。


 嘴でなんとか取ろうとしても、脚を傷つけてしまうから断念した。


 でも、風船を見つめていたら、ジョイ不思議な感じがした。


 いつも、割る対象のゴム風船がまるで透き通った宝石みたいに見えた。ジョイは太陽の光に輝く風船の中に吸い込まれそうな気分になった。


 ジョイはそこで他のカラス仲間やいつもの仲間、ヒヨドリやスズメ、ムクドリなどに拙者の左脚につながっている風船の束を見せた。


 綺麗で可愛いなあといってくれる奴もいれば、嘴をワザとかざしてその風船を割ってイタズラとする奴もいた。


 風船を割ろうとちょっかい出す奴もいた。


 そんなことしてるうちに、カラスのジョイは更にこの5色の風船に愛着が湧いた。


 風船は太陽の光で美しく輝いていた。


 でも見とれてると、羽ばたくのを忘れて失速して真っ逆さまに墜落しそうになった。


 羽ばたいて飛ぶと、後ろで風船が空気の抵抗でボンボンと弾んで踊った。ジョイは得意気になった。


 ねぐらに着いて、脚の5色のゴム風船が木の枝とかで割れたらどうしようと思いながら、ジョイは巣で休んだ。


 風船が月明かりで美しく見えた。嘴の鼻の中に風船のゴムの匂いがつんときた。



 次の日。


 カラスのジョイは脚の5色の風船を見た。




 ・・・?!・・・


 ・・・風船が浮いてない・・・


 ・・・一回り小さく萎んでる・・・




 ジョイは慌てて、風船に息を吹き込んで元通りにしようとしても、吹き口はきつく縛ってあり、断念した。


 仕方が無いのでこの状態で今日は飛ぼうと、巣から離れたとたん・・・



 がしっ!!



 ・・・しまった・・・!!


 ・・・風船が巣に絡まって身動きが取れない・・・!!




 ジョイは必死にもがいた。


 もがけばもがくほど、せっかく苦労して作った巣が崩壊していくし、脚の糸が絡まって取れなくなる。



 バリッバリバリバリバリ!!



 「かぁーーーーーーっ!!」




 ドサッ!!




 あっけなく、巣が崩壊して地面に拙者は叩きつけられた。


 ジョイはなんとかそから飛び立とうとしても翼に力が入らない。



 ・・・痛い・・・!



 ジョイは朦朧としてその場で倒れ込んだ。



 ・・・死ぬのなあ、拙者。あっけないなあ・・・




 ・・・・・・



 カラスのジョイは目が覚めた。



 「ここは・・・」



 ジョイは小さいゲージの中。



 「よかった。拙者生きていた!!ん?あれ・・・?」


 脚に絡みついた5色の風船は取り除かれてた。


「ん・・・ん・・・イテッ!!」


 羽根を動かしたらどうしても動かない。よく見たら木の板と包帯で固定されていた。


 糸が絡まってた脚の感覚も今は元通りだ。


 ・・・それにしてみれば拙者ドジだなぁ・・・


 ・・・風船に我を忘れて代償が巣を破壊して、更に命より大事な羽根まで傷つけて飛べなくなるなんて・・・


 ・・・今日は空がいつもより青い・・・


 ・・・こんな日に空を飛べたらとても気持ちがいいだろうな・・・


 ・・・でももう飛べない・・・


 ・・・もう・・・二度と・・・もういやだ!何でこんなことになるんだ・・・!!


 ジョイはこのゲージの中で自分が嫌になってゲージの壁に体を打ち付けた。



 ガシッ!!ガシッ!!ガシッ!!ガシッ!!ガシッ!!ガシッ!!ガシッ!!



 その時・・・ゲージの網からまだ膨らませてないオレンジ色の風船がひょっこりでているのをジョイは見付けた。


 一羽のドバトが小さい嘴でふーっ!ふーっ!とその風船を顔を赤らめて膨らませようとしていた。


 風船の空気は、しゅー!しゅー!と吹き口の間から抜けていた。それでもとても一生懸命にそのドバトは風船に息を入れようとしていた。


 「君、誰?」


 とジョイが聞く間もなく、そのドバトから


 「甘ったれるな!たかが飛べなくなっただけで!」


 と、ゼエゼエと息切れしながら言われた。


 やがて、ゲージに押し込まれたオレンジ色のゴム風船はぷくっと膨らみだいた。そのドバトが風船の吹き口を小さい嘴いっぱいに押し込んで、ほっぺたをパンパンにして息を吹き込んでいった。




 ぶふーっ!ぽっ!ぶふーっ!




 オレンジ色の風船はどんどん膨らんでいって、もうドバトの体の空気を全部使いきったと思える程膨らんだと思うと、オレンジ色のゴム風船はゲージの中をぷしゅ~しゅるしゅると萎みながら飛んでいき、傷付いたジョイの翼に墜ちた。


 「俺がお前を飛べる訓練をする。」


 「え?」


 「『え?』じゃねーよ!風船割りカラス、これから俺を『アンチャン』と呼んでくれや・・・。」




 その日から、カラスのジョイはドバトの『アンチャン』と一緒にゲージを挟んで飛ぶ訓練をした。


 「拙者、もういいです。ゲージの中で・・・」


 「ウルセエ!!『ニワトリ』になるな!!『カラス』は空に飛べ!!」


 「また風船割りたいんだろ?風船が空でお前の帰りを待っている!!」


 ジョイが弱気を吐くと、ドバトのアンチャンのゲキがすぐとんだ。


 「がんばれー!カラスさん!」


 「がんばれー!カラスさん!」


 ゲージの他の傷ついた仲間も応援してくれた。


 目標はあの時に、ドバトが力いっぱい膨らんませて、ゲージ内で飛ばしたオレンジ色のゴム風船。あのように、ゲージ内を縦横無尽に飛べること。


 ドバトのアンチャンは付きっきりで、カラスのジョイを徹底的にしごいた。


 心を鬼にするように。


 やがて、カラスのジョイの並ならぬ血と涙の努力の末、飛べるようになり、無事退院出来た。


 他のゲージ内の傷ついた仲間も、喜んでいた。




 それからも、ドバトのアンチャンはすっかり元気になったカラスのジョイと、空でよく会うようになって、


 「今日は風船を割ったか?」とか、


 「ゴミばっかり漁ってると、人間に捕まるぜ」と他愛のないことをお喋りしたり、


 たまにいい餌場を紹介してくれたり、膨らませてないゴム風船を拾ってきては「膨らませっこしよう!」と誘ってくれた。


 体の大きさと気嚢の肺活量で、いつもカラスのジョイが勝っても、ドバトのアンチャンは、喉をパンパンにして一生懸命嘴に風船の吹き口を翼で宛がい、




 ぶふーっ!ぽっ!ぶふーっ!


 

 ぶふーっ!ぽっ!ぶふーっ!




 と、息を思いっきり吹き込んで一生懸命膨らませた。




 そんなある日、カラスのジョイはいつものようにそこらで飛んでいた。


 「おっ!」


 式場みたいな所でゴム風船を飛ばす準備をしてるのを見かけた。


 「そうだ、ドバトのアンチャンに知らせて風船割り競争しよう!」


 カラスのジョイは、早速アンチャンを探した。


 ジョイは、期待で興奮して心の中の風船がパンパンに膨らんだ。



 「アンチャーン!!」



 「アンチャーン!!」




 「ドバトのアンチャーン!!どこー??」




 ところが、見当たらない。



 ・・・いつもあの公園で餌をついばんでるのに・・・




 しかし、ジョイは思わぬ光景を見てしまった。




 道路で車にひかれたドバトの亡骸・・・




 よく見るとグシャと酷にも潰れた体に残った羽の模様でそれがアンチャンだとわかった。



 


 カラスのジョイは分けわからなくなった。


 気が動転して、アンチャンの亡骸をさらった。




 ブロロロロロ・・・



 「うわっ!!」




 その時トラックがやってきてジョイまでひかれそうになった。




 「何故ここに来た?」



 ・・・アンチャン・・・?




 ドバトのアンチャンの声がした。



 いや、確かにドバトのアンチャンの声・・・



 しかし、アンチャンは既に・・・




 アンチャンの天国からの囁き・・・




 カラスのジョイは車にひかれない安全な所にアンチャンの亡骸を傍ら置き、飛んでいく無数の風船をジョイは涙が止まらないぼやけた目で見送った。




 ・・・あの風船がドバトのアンチャンの魂を天国に連れてってくれるように・・・




 カラスのジョイを身を鬼にしても、立派なカラスにしてくれたドバトのアンチャン。




 ドバトのアンチャンのその魂は、カラスのジョイの心に生き続けた。

 



 ・・・拙者は、『風船割り』のカリスマを目指すよ・・・


 ・・・天国で見守ってくれ、アンチャン・・・

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