5#ジョイのライバル

  ハシブトガラスのジョイが街中でいつものように食いものと、風船を探しに飛び回ってた時、一つの黄色い風船が飛んでいた。


 「発見!!!!!」

 

  ジョイは目の前に飛んできた黄色い風船に目を輝かせた。


  そして透かさず鉤爪を立てて、そのフワフワ微風に乗って飛んでいく風船にアタックをかけてきた。



 「どけ!!」


 「何ぃ?!」



 ぱぁーーーーーーーん!!



 他のカラスが割り込んで嘴でその風船を割ったのだ。


 「何するんだ!拙者が先に見つけたんだ!」とジョイは怒った。


 「あれ~?ボクが最初に見つけたんだよ、あの風船?」


 ジョイは激高して、そのカラスに食ってかかった。



 ばさばさばさばさ!!



 「おっと?!君は喧嘩っ早いね?喧嘩は物騒だから風船で勝負しよう!ちょいまち!!」


 相手は急降下して離脱すると、どっかに隠していたのか、膨らましてないパンチボール風船を持って引き返してきた。


 「これ、嘴で早く大きく膨らませられるか競争しよう!!」


 「望むところだ!!」


 二羽は、公園広場に降り立つと、「いっせーのーせ!!」とお腹の気嚢へ息を思いっきり吸い込んで喉袋をはらませて一生懸命にそのパンチボールを膨らませた。



 ぷぅーーーーーーーー!!


 ぷぅーーーーーーーー!!


 ぷぅーーーーーーーー!!


 ぷぅーーーーーーーー!!





 ジョイは、そのパンチボール風船のゴムが固くていくらほっぺたをパンパンにしてもなかなか膨らまない。


 それに比べ相手は、悠々と固いパンチボール風船をぷ~ぷ~膨らましていた。 


 やっとジョイのパンチボールがぷくっと膨らんだと思ったら、相手のパンチボール風船はもうパンパンに膨らんでいた。完敗だ。


 「君は何という名前なの?」とジョイは聞いて聞いてみた。


 「ボクの名はセナル。」


 そういって、セナルは膨らませたパンチボール風船の吹き口を嘴で丁寧に丸めて風船に押し込んで、パンチボール風船の頭についてる輪ゴムを嘴にくわえてポンポンとついた。


「拙者の名はジョイ。風船を百数十個も割ったよ。こちらこそよろしく!」


 「勝った!ボクはもう396個も風船割った!」


 そのとたん、セナルがついてたパンチボール風船が嘴の先に当たり、ぱーーん!と破裂してびっくりした。


 「これで総数367個突破っ!」拙者は悔しさで嫉妬した。


 「あ、君が膨らませられなかったパンチボール風船はあげるよ。また会うまで膨らませられるようにしてね。」


 セナルはニヤリとしてた。


 ・・・やな奴だな・・・


 ジョイは気難しい顔をして思った。


 セナルがじゃあ!と飛び立とうとしたら、思い立ったように振り返って言付けした。


 「今度、一週間後に隣街でお店の開店でいっぱい風船が飛ばされるらしいんだ。一緒に風船割り競争しないか?」


 ジョイはすかさず、「この挑戦受けて立つぞぉ!」と言い放った。





 そしてその決闘の日になった。




 ジョイは朝早くから相手のセナルを待った。






 しかし、待っても待っても来ない。



 ・・・来ない・・・



 ・・・来ない・・・



 ・・・来ない・・・



 ・・・来ない・・・

 

 


 ジョイはしびれをきらしていた頃、カラフルな膨らませたヘリウムゴム風船が次々に外に運び困れていった。


 やがて、開店セレモニーで大量の風船が上がった。



 ・・・セナルがまだ来ないのに・・・



 ・・・くそっ・・・!!



 「あいつ、約束破った!悔しい・・・でもいっぱいの風船!」


 ジョイは我を忘れて飛んでいくゴム風船を追いかけては嘴や脚の爪でぱん!ぱん!ぱん!と割りまくっていた。


 セナルがいない間の点稼ぎだ。


 しかし、次第にむなしくなった。というか、あのセナルという奴が風船割り競争やると言ってたのに約束破って許せないという感情になり、途中で船割りを切り上げて退散した。





 ジョイはセナルの一件でピリピリしてた。


 「あいつ・・・もう許さねえ・・・!!約束すっぱかして・・・!!」


 毎日、毎日、ジョイはセナルの事を思い出すたびに、怒り狂う程に憎くてたまらなかった。





 そんなある日、仲間からの噂話を耳にした。


 「わしらカラスのゴミ荒らしの被害のために、人間がカラス駆除にのりだしたらしいんだ。遂にこの街も仲間が殺されたんだ。俺のダチも犠牲になって・・・ううう・・・」


 「えっ!」


 ジョイは、思わす身を乗り出して聞いた


 「その話本当か?!その中にセナルという奴は?」


 「たしかいたってさ・・・あのゴムの匂いを体にしたあいつだろ?」


 「え?嘘だろ?」


 「そんなこといわれたってさ・・・」


 「嘘だあああ!」ジョイは叫んだ。


 ジョイの目から涙が大量に溢れ出た。


 ジョイは泣きわめいた。




 ・・・あいつ・・・セナルはもうこの世にいない。せっかく話あえる奴だったのに・・・ここの連中達もその仲間が犠牲になってしまった・・・




 ・・・それにしても人間は残酷だ。ただ拙者らカラスが増えすぎたとかで、迷惑だからとかで、やみくもに殺して・・・気にくわないやつは排除ってやつか・・・拙者らカラスも本当は人間と仲良く付き合いたいと思っているのに・・・!!




その時から幾日が経ったか・・・




 カラスのジョイは風船で巻かれた巣の下を思い出したかのように嘴でゴソゴソと探り、セナルの時間が経ってゴムの劣化した形見のパンチボール風船を取り出した。


 カラスのジョイはそのパンチボール風船の吹き口をくわえて息を入れた。


 ・・・天国のセナルよ~!お前の言われたとおり固くって膨らまなせなかった、パンチボールのゴム風船をこんなに大きく膨らませられることが出来るようになったぞぉ~!この風船の中の空気が拙者の息でなく、ヘリウムだったら、お前のいる天国に飛ばせるのに・・・

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