土曜日
その後の顛末、というものを簡潔に表せば、俺とDは助かった。あの後、俺はDと共に台所で夜を過ごし、明け方すぐに家を出た。近くの神社にまず行き、祈祷師の人と話をする。
結論からいえば、ある男がDに取り憑き、それに殺された怨霊が周りにいるらしい。一連の出来事のことは何も言っていないのはずなのに、ここまで詳細に言い当てたため、俺は無条件でこの人を信じた。
学生ということもあり、料金は減額してもらい、かつ後で工面すればいいと言ってもらった。俺とDは二人で感謝を言い、それでも足りずに頭を何度も下げた。
あれから一週間、Dはまだ家で療養中だ。よほど精神的にきたのか、未だに学校には来ない。
無理もない。第三者の立場である俺でさえあんな目に遭ったのだから、Dならなおさら神経をすり減らしたことだろう。
そう、あれは恐ろしい出来事だった。今、その記憶を追体験しても、そのときに感じた恐怖は躊躇いなく蘇ってくる。四番目の呪いの被害者であるDとの出来事は、友人の会話や周りの状況の細部、自分の心境までを明確に思い起こすことができた。今まで普通の世界で暮らしていたのに、まさかこんな非現実的な出来事に巻き込まれるとは。
片足を突っ込んだ状態と言ったほうがいいだろう。俺は幽霊を見ていない。ただ、Dがいると言い、そこから想像を肥大しただけである。
それでも想像は、恐怖のトリガーとなる。実際に見ずとも、それを体現したような気持ちになる。そしてDの凶行は、身の毛もよだつ恐怖体験だった。幽霊など信じない俺でも、もう懲り懲りだと思える体験だった。
……それなのにどうしてだろう。どうして俺は今、祠の石の目の前にいるのだろう。
視線の先には祠の土台だったものがある。月の柔らかい光が、この敷地内をスポットライトのように照らしていた。
そんな柔らかな光とは対照的に、周りの雰囲気は異様なものだった。
前に来たときには感じなかった気配というものが、はっきりと感じ取れた。俺に霊感はない。しかし、周りにまとわりつくような湿気のような、生暖かい空気のようなものが全身に絡みつく。無数の視線も多く感じる。
いる。何かがここに。
おそらくそれはDを襲ったやつだ。一連の事件を引き起こしたやつだ。そう連想することができる。
だが、俺の意志とは関係なく、俺の腕は石に手を伸ばしていた。どうしてなのかはわからない。まるで見えない糸で、誰かに操られているようだ。
そう、今日の夕方まで、ここに来ようとは露ほどにも思わなかった。それがその時になり、急に思い立ったようにここへと足を運んだのだ。
その一連の行動の過程で感じたものは、魅了だった。さながら花の匂いに釣られる蝶のように、砂漠で見つかったオアシスに引き寄せられるように、本能的な部分に何かが働きかけた。
憑依はされていないはずだ。一連の話を聞けば、この石に触った後に取り付くはずだ。祈祷師の人もそう言っていた。俺も念のためにお祓いをしてもらった。それなのに、どうしてこんなことに?
体は動く。意識をせずとも、祠の石に吸い寄せられるように腕は動いた。
そして俺の手は、ざらりとした感触を味わった。
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