第11話 その十一
私は磐神美鈴。女子大生。恋人あり。そして、ヘタレな弟あり。
今日は久しぶりに私のダーリンである力丸憲太郎君とデート。
何だか知らないけど、弟の武彦もデートらしい。
相手は都坂亜希ちゃん。
ホントに鈍感な男だから、亜希ちゃんの思いに最近ようやく気づいたらしい。
我が弟ながら情けない事この上ない。
「どうしたのさ、美鈴? 元気ないね?」
リッキー(憲太郎君の事よん)が尋ねる。
「そんな事ないよ」
私は満点笑顔で応じる。するとリッキーは、
「武彦君の事が心配なの?」
「べ、別にィ」
私はズバリ見抜いてくるリッキーにビクッとした。
「でもさあ、そろそろ解放してあげないと、武彦君が可哀相だよ」
「え? 解放?」
何の事? 武彦は誰かの奴隷?
「僕も姉貴がいるからわかるんだけど」
「……」
私はリッキーのお姉さんが苦手。
別に嫌な人ではない。むしろ嫌な人の方が対処のしようがある。
良い人過ぎて、困ってしまうくらいなのだ。
「縛っているつもりはないんだろうけど、弟ってどうしても姉を見て育つからさ、恋人ができると、姉貴の目が気になるんだ」
「リッキーもそうなの?」
「そうだよ」
その言葉にドキッとする。あのお姉さんと比べられてるのかな?
「それに、美鈴も僕の姉貴が気になるだろ?」
「うん……」
リッキーはニコッとして、
「でもさ、姉貴さ、酷い事言うんだ」
ギク。何? 私は陰で何を言われているの?
「お前が美鈴さんと別れても、私は彼女と友達でいるからね、だってさ」
私は涙が出そうになった。やっぱりリッキーのお姉さん、良い人過ぎて勝てない。
「だからさ、美鈴もあの子を応援してあげないと」
「そ、そだね」
私が武彦に同じ事を言うと、多分あいつには脅しに聞こえるだろう。
「それにしてもさ」
リッキーが私をしみじみと見て言う。
「ちょっと挑発的過ぎない、今日の格好?」
柔道家のリッキーには刺激が強かったみたいだ。
スカートはどこに座っても丸見えになりそうなデニムのマイクロミニ。
革のジャケットのファーも妖艶な雰囲気だ。
「やっと気づいてくれたのね、リッキー。いつも私がどんな可愛いカッコして来ても、何も言ってくれないから」
「え? そうなの? いつも可愛いからコメントしなかっただけだよ」
リッキーの言葉に私は顔が真っ赤になるのを感じた。
「お姉さんが羨ましいな」
私は火照る顔を覚ましながら言った。
「どうして?」
不思議そうな顔で私を見るリッキー。
「こんないい弟がいて」
「ハハハ」
リッキーは陽気に笑った。そして、
「武彦君も良い弟だよ」
「そ、そうかな」
「そうだよ。お姉さん思いでさ」
うーん。「お姉さん、重い」かも知れないけど。
リッキーは午後から大会の練習があるので、デートはランチを食べて終わり。
ちょっと寂しいけど、それくらいの方が次に会う楽しみが倍増する。
私は駅に向かって歩いた。
あれ? あの間抜け面は?
カフェのオープンテラスにいるのは、我が弟武彦だ。
亜希ちゃんはどうしたの?
気づかれないように通り過ぎないと、後をつけて来たと思われる。
よし、気がついていない。
何か視線を感じるけど、振り返れない。
バカめ。姉のミニスカートに見とれてるんじゃないわよ。
亜希ちゃんに言いつけるぞ。
でも何か嬉しいのは、内緒。
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