第12話 その十二
僕は磐神武彦。高校二年。
同級生の都坂亜希ちゃんとの交際は順調。
怖い姉との関係も良好。
但し、学校の成績は振るわない。
また追試だ。ううう。
今日も学校の図書室で、先生に追い出されるまで亜希ちゃんと勉強した。
ホントに情けない。
亜希ちゃんはクラスの委員長を一年の時から任されているほど成績優秀なのに、僕は去年に引き続いて、今年も留年寸前だ。
確か、去年もこうして亜希ちゃんに助けられたな。
亜希ちゃんは本当に優しい。今まで怖がったりして申し訳なかったと思う。
「武君、もう少し頑張ろうよ。このままじゃ、ホントに留年だよ」
亜希ちゃんはそう言って溜息を吐く。
「ごめん、亜希ちゃん。僕、頑張ってるんだけどさ」
「もちろん、武君が一生懸命なのはわかるよ。でも、授業中に寝てたら、いくらこうして補習しても意味ないでしょ」
「うん」
僕は亜希ちゃんが怒っているのではなく、悲しそうな顔で言うので、余計身に堪えた。
「帰ろっか」
亜希ちゃんは僕がヘトヘトになっているのに気づき、そう言ってくれた。
「私、嫌だよ。卒業式に武君がいなかったりしたら」
「う、うん」
もしそんな事になったら、亜希ちゃんも僕を見捨てるかも知れない。
いや、その前に姉にぶっ飛ばされる。
留年なんかしたら、殺されてしまうかも知れない。
そう思ったら、
今日は亜希ちゃんは親戚の子が田舎から出て来ていて、落ち合う事になっているので、帰り道は別だ。
僕は寂しく一人で家に向かう。
(どうしよう? やる気はあるけど、亜希ちゃんにばかり頼るのもなァ……)
僕は悩みながら歩いた。
そうか。姉ちゃんに見てもらおう。短絡的にその発想に行き着いた。
「うん?」
ふと気づくと、公園の前。
ベンチにカップルが座り、肩を寄せ合っている。
いいなァ。僕もホントは亜希ちゃんと帰りたかった。
そんな事を思いながら、何となくそのカップルを見ていると、キスをし始めた。
わ。
僕はまだ亜希ちゃんとキスしてない。
何か亜希ちゃんとのキスを想像してしまい、ドキドキしてしまった。
あ、二人が立ち上がる。
僕は慌てて逃げようとした。見ていたのを気づかれると思ったからだ。
その時、そのカップルが知っている人だとわかった。
姉と力丸憲太郎さんだ。
心臓が飛び出しそうなくらい大きく動いている。
「……」
逃げなくちゃ。僕はとにかくその場から離れようと走り出した。
何だろう?
姉が恋人とキスをしているのを見て、ドキドキするのは当たり前の気がする。
でも、僕は自分のこの胸の高鳴りが、それだけではないのがわかった。
姉を憲太郎さんに取られた。
はっきりそう感じている。
バカげた考えだけど、そう思ってしまったのだ。
そういう事であれこれ考えている場合ではないのはわかっているのだけれど、酷く心がかき乱された。
姉に勉強の相談をしようと思ったのに……。
僕はどうしたらいいのか、わからなくなってしまった。
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