変態に一撃
意外にも、彼女は慣れた足取りですいすいと茂みの中を駆けていった。
すると、次第に道が開けていき、気付くと、人が行き来しているであろう一本の道に出ていた。
そこまで来ると彼女は周囲をきょろきょろと見渡し、ほっとした様子で歩を緩め、西へ歩き出した。
徐々にだが、辺りが明るくなり始めていた。朝がくるようだ。
東の空を振り返ると、遠くの山並みからまばゆい光を蓄えた太陽が顔を出していた。
「綺麗だ……」
思わずそんな言葉が口からこぼれ出た。
この時代で初めて目にする太陽。それは、2千年前と何一つとして変わらない輝きを放っていた。
不意に、首筋にひんやりとした鋭利な物が当てられ、
「彼女の後を着けていたな?」
耳元で声がした。
「何者だ」
その声は冷たく、明らかな殺意を含んでいた。
「……」
声色からして女性。
内容はわからないが、あの女性の知り合いだろうか。だとしたら、どうせ通じないのだからと、私は言葉を発さなかった。
「だんまりか、そうか」
首筋に当てられた物が、私の首筋に食い込み血が滲む。
そんな状況を、脱するべく再び魔法を使おうとした瞬間、
「ウィル、待って!」
地上の道を歩いていた彼女の声がすると同時に、食い込んでいた物の動きがピタリと止まった。
「なんで止める! シーナ!」
答えるように、私の背後の誰かが声を発する。
「その人は悪い人じゃないの!」
「ずっとシーナを着けていたんだぞ! 全裸で!」
「でも、私を助けてくれたわ!」
「邪な理由で助けたに決まっている!」
二人は何か言い争っているようだった。
その状況がしばらく続いた。が、結局、私の後ろにいた方が折れたらしく、「くそっ!」という声と共に気配が消えた。
振り返ると、私のいる木のすぐ下で二人の女性が私を見据えて立っていた。
一人は、魔物と対峙していた女性。もう一人は、先ほどまで私に殺意を向けていたであろう女性。
日が登り、辺りが明るくなったおかげで容姿がはっきりと見えるようになっていた。
目を疑ったが、二人の容姿は驚くほどに似通っていた。
肩にかかるほどの長さの金の髪。整った目鼻立ちはそのまま写し取ったかのようだ。ただ、私に殺意を向けていた方の女性は少し目つきが鋭く気の強さが伺えた。それに対し、魔物に襲われていた女性は優しい目をしていた。そして、二人とも何か、先ほどの人工物に近い生地の物を身に纏っていた。
「あっ……」
私が体ごと振り返った所で、優しい目をした女性が慌てて目を逸らした。目つきの鋭い方の女性は特に表情を崩さずに私を見据えている。
「おい」
そう言いながら、目つきの鋭い女性は手招きをする。どうやら、私に降りてこいと言っているようだった。
言われるがままに私は木を飛び降り、彼女達とある程度の距離まで近づいていった。
もしかしたら敵意が無いことをわかってもらえたのかもしれない。などと、淡い期待がよぎる。
だが次の瞬間、かつてない衝撃が私を襲った。
「粗末なもん見せてんじゃないよ」
目つきの鋭い女性が繰り出した蹴り。容赦のないその蹴りは私の陰部の急所を的確に捉えていた。
あまりの衝撃に私は膝をつく。
「きゃあ! 何してるの!」
優しい目をした女性の声が聞こえた。次第に目の前が暗転していく。
最後に聞こえたのは、鋭い目をした女性の声。
「変態にはこれが利くんだよ」
私の意識はそこで途切れた。
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