第27話 アイツと再会

「あらら? そんな美人を抱いているなんて深谷さんも隅におけないですね、このこの~ぅ。お熱い二人を見ているとこっちも火傷しちゃいますです」


 何も状況を知らず現れた帛紗綾乃は絵里子を支える洋介を見て「ヒューヒュー」と口笛まで吹いていた。


 「…………ッ」

 「ああ、占いの事ですか? 何分学生である故、営業時間はランダムをならざるを得ないのです。開店できる時に開店して閉店する時に閉店するのが私のモットーなのです」


 綾乃は聞いてもいない事をペラペラと喋りだす。絵里子や洋介はそれをまともに聞いてる様子ではなかったが、これは綾乃がただ言いたかっただけなのだろう。何の自慢にもならない文句を胸を張りつつ綾乃は告げた。


 「というワケで今から開店ですので、どうぞやってきてくださいです。いつでも私はお客さん歓迎ですので、色々占ってあげちゃうのです」


 そういって「じゃあ行きましょうか」と案内しようとする綾乃を洋介は指差した。


 「おい…………」

 「今日はそのお連れさんとの恋愛模様とか占ったりしましょうです? 愛情進展度なども個人的には占ってみたい所です――――」

 「お前ッ!」

 「ひいッ!?」


 突然の洋介の大声に綾乃は思い切り萎縮した。


 「な、なななななんで……す? あ、料金とか別にかからないですよ? 私もまだ未熟者ですゆえ、お金はとらない事にしてるのです」

 「そんな事はどうでもいい!」

 「ひいッ!?」


 またも綾乃は萎縮する。


 「それ! お前がなんで“ソレ”を持ってるんだ!?」

 「――――へ? あ、ああ、これですか?」


 そう言って綾乃は“持っているソレ”へ視線を向けた。


 「今日は良いモノが手に入ったのですよー。これまで色々と拾ってきたですが、まさかこんなモノ拾うなんて初めてです」

 「そりゃ……凄い偶然だな……」

 「なんかですね、海岸に打ち上げられていたですよ。壊れてないのは奇跡ですね。海に落ちたのは間違いないし、潮風に晒されてるのにまだ動くなんて凄いです。この子からは生命に満ちた言葉が聞こえてくるですよ」


 綾乃はカンタ二号を持って洋介の前に現れていた。

 当然乗っていた頃よりもボロくなっており、錆びが酷く広がっていたが乗れない程ではない。後の事を考えなければ思い切り漕いでも大丈夫だろう。

 海に向かう程平地は多くなり信号も少なくなる、この機動力は相当に頼りになる代物だった。

 道程は解る。移動手段さえあれば何の問題も無い。


 「おい綾乃ッ!」


 カンタ二号を見て思わず洋介の顔がニヤける。

 そして、すぐに厳しい顔つきへ戻った。


 「は、はいッ!」

 「竹下を頼む! あと、その自転車はオレのだからもらってくぞ!」

 「え? へ? はい?」


 理解させる暇も与えず洋介は綾乃からカンタ二号をひったくる。

 すぐさま乗ると、ペダルを踏む寸前綾乃へ向かって洋介は言った。


 「今だけは解るよ。お前が以前言った事」

 「はい? 私何か言ったです? とととッ!?」


 自分よりも背の大きい絵里子を綾乃は踏ん張りつつも支え、洋介の方を見た。


 「聞こえるんだよ。魂の声ってヤツがさ!」


 そう言って洋介はペダルを踏んだ。スピードはすぐに上がっていき、商店街を突き抜けそのまま道路を爆走していった。


 『さあ行こうぜご主人。踏ん張れよ?』

 「当然だろッ!」


 一刻も早く優香の元へ。

 大好きな女子を救うべく、洋介はさらに回転数(ケイデンス)を上げていった。

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