第26話 アイツを探す
今、何かとても良くない事の前兆を聞いたのではないか。何かが決定的に狂おうとしている瞬間を聞いてしまったのではないだろうか。
聞きたくないが聞かなければならない事を聞いたような。
「何処にいったんだろ……遊びに出たとは思えないし、優香が誘えるような親しい友達なんて私くらいなのに……」
家にいるならば問題なかった。それなら何も心配はなかった。何を言うべきなのかと考えながら優香の元へ行く事ができた。
だが――――家にいないと言うのは。
「アイツ…………前に自殺しようとしてたんだ」
「え?」
心臓の鼓動は今も大きく洋介の中で鳴り響いてる。
身体を焦らせるべく心拍数を上げている。口の中を乾かすくらいの息を要求している。
「初めて蒼井とあったのがソレん時で…………崖に向かって走ってるのをオレが止めたんだ…………」
「そ、それって…………」
「ヤバイ…………すぐにでも蒼井を探し出さないとヤバイ気がする」
絵里子の顔から血の気が引く。今にもふらついて倒れそうな勢いだ。おそらく洋介と同じ事を考えている。
優香は自殺しようとしている、と。
「そ、そんな……そんな事あるわけ……」
「初対面は衝撃的だったからな……アレは一生忘れられそうにない」
もう、昼食を取る所の騒ぎではない。
一刻も早く優香の行方を捜さねばならない。外出しているだけという可能性も当然あるが、それは低確率だ。
優香は絶望的状況だったとはいえ、まだ春風が生きているのに死のうとしたのだ。
今回は春風が死亡している。自殺の線は充分に濃い。
「くそっ…………」
向かったのはあの時と同じ崖に違いない。部屋で自殺しようとしないのと同じで、身近な場所で死にたいと思わないからあんな場所へ向かったのだ。
「竹下、崖のある場所の地名知らないか? それならタクシーですぐに行ける」
「ごめん、崖の地名なんて私知らない……それに今の時間は道路が凄く混む……タクシーじゃすぐに渋滞に捕まって辿り着くのにかなり時間かかると思う……」
「……マジかよ」
「深谷君の言ってる崖は優香の家からならそんなに時間かからない……車なんか使わなくても、少し歩こうと思うくらいで辿り着ける……」
どうしようもない絶望が二人を襲おうとしていた。ただ“自殺なんてしなかった”という願望にすがるしかない状況に追い込まれようとしていた。
洋介は今日までで多少この九重町の地理について理解している。この商店街からあの崖へすぐに向かうには車が絶対必要だ。だが、渋滞が起こる時間帯のため今車を使っての行動は時間がかかるという。
徒歩で行くべきかと考えるがすぐに首を振った。歩きで向かうには遠すぎる。走ったとしてもすぐに息切れして、とても早く辿り着けるとは思えなかった。洋介は自分の足に自信がなく、絵里子も言い出さない所を見ると同じのようだ。
「どうしよう……このままじゃ……」
青かった絵里子の顔がさらに青くなった。身体が震え始め、脳内が最悪の結果を導こうとしている。
「春風がいなくなって優香までいなくなったら私……私……私……」
「お、おい! 竹下!」
崩れ落ちそうになった絵里子を洋介は支えた。触れれば震えが見た目以上だった事がわかる。普段洋介は絵里子から明るい表情や仕草や態度を見ていたので、ガタガタと震える絵里子を側に“自殺のみで終わらない”事態を実感した。
(どうにかして優香を見つけないと……自殺しようとしてるんなら止めて、ほっつき歩いてんならさっさと見つけて……早いとこ竹下を安心させないと)
今の絵里子は恐怖に支配されている。もう、こんな状態では冷静になるも何もあったものではないだろう。
(少なくともあの崖には絶対向かわないと……でもどうする?)
ここは洋介がどうにかしなければならなかった。優香の元へ向かえる手段を考え、事態を収束させる方法を実行しなくてはならない。
何か別の移動手段か、それ以外の良いアイデアを出してくれるヤツか、優香の所在と安全が解るヤツがいれば話が変わるのだが。
いずれにせよ、洋介一人では何もできない。
「しっかりしろ竹下! しっかりしろよ竹下ッ!」
こうして絵里子を元気づけるのが精一杯で、優香がいるであろう崖へ向かう手段など――――
「あっれー? お久しぶりです洋介さん。奇遇ですー」
聞き覚えのある声がした。
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