第11話 アイツをいじる



「……なんだココは?」


 驚いたのは洋介も同じであったが、心に出た感想は全く違う。


 「看板見てきてくれたですね! ああッ、よかったッ! 一人目のお客さんで感動ですッ!」


 机の上には緑色の布がかけられ、その上には薄汚れた水晶玉がおかれている。周囲には広い空間があるが、その空間は様々なガラクタで覆われているため狭さを感じさせていた。

 拾ってきたモノを集めているようで、そのガラクタは多岐に渡っている。

 椅子、机、タイヤ、鞄、一輪車、テレビ、本棚、電子レンジ、ゲーム機、ソファ等々、様々なガラクタがある。しかし、中にはいくつか壊れていないのもあるようだ。

 ビニールシートで覆った屋根もあり、外気温を考えないなら普通に住めそうである。


 「どうぞどうぞ! 手狭な所ですが居心地は保証しますです!」


 ツインテールを可愛く揺らして、そそくさとパイプ椅子を差し出した。


 「あの……君、九重高校の生徒だよね?」


 この光景になんと言ったらいいのかわからず、洋介はそんな当たり前の事を聞いていた。


 「はい、ピカピカの高校一年生で五組です!」

 「……それはワザと?」

 「はい? なんです?」

 「いや、なんでもない……」


 必ず語尾は「です」になるようだ。


 「ちょっと気になるんで言うんだけど、ここって大量にガラクタ置いていいのか? 裏路地で誰も来ないとはいえ、誰かの土地なんだろうし怒られても知らんぞ」

 「私には声が聞こえるのです。この子(物)達の声が」

 「……はい?」


 洋介は疑問符しか出てない顔になっているが、綾乃は構わず続けた。


 「物にはみんな魂が宿っているのです。私は魂が離れず、くっついたままの物達を拾って使っているだけです」

 「…………はぁ?」


 危ない人の発言が聞こえる。


 「あと、ここはちゃんと許可もらって居座ってるです。問題ないです。この子達の場所なんです」

 「…………そ、そうか」


 なんか釈然としないモノがあるが、勝手にこの場所を占領しているワケじゃないようだ。


 「私、帛紗綾乃ふくさあやのっていいますです。そちら様は何者様です?」

 「理解しにくい言い方だな……」


 と、思いながら呆れたように返事をすると、洋介も綾乃に自己紹介をする。握手を求める綾乃に快く応じると、肩が外れるくらい上下に振られつつ握手された。

 中々、痛かった。


 「あ、そうだ! 同じ高校で同学年という事ですし、まずはお近づきの印にこんなモノお見せしちゃいましょうです!」


 そういうと、綾乃はがさごそとガラクタを漁ると、スプーンとハンカチを取り出した。


 「アダブラカンダブ~ラ」


 ハンカチでスプーンを隠すと、ボソボソと変な文言を唱え出す。

 真剣な顔で一心不乱に口を動かし、ハンカチを揺らす姿は滑稽以外の何者でもなかったが、それにツッコむのはヤボだと思い洋介は黙っていた。


 「ハイッ!」


 素早くハンカチを投げ捨てると、綾乃はドヤッと言わんばかりの顔を洋介に向けた。実に自慢げな顔である。


 「どうですか! なぜかスプーンがフォークに早変わりです! それも五本へと増殖です! こりゃビックリです!」

 「………………」


 しかし、それを見た洋介が綾乃に送る視線は実に冷ややかだった。


 「え? アレッ!? おかしいです……本来なら拍手の嵐ですのに……じゃあ、棺桶に入って針だらけの蓋をしてもらって、ほら身体の何処にも負傷なんてございませんとかするべきだったですかね?」

 「……ここって手品を見せてくれる所なのか?」


 看板には占い所と書いてあった気がしたのだが。


 「ああッ! そうですッ! 忘れてましたッ! 本業を忘れるなんて、占い師の風上にもおけないですよね……でも、綾乃負けないです!」

 「お前の本業は学業だろうが」


 そして何に負けるというのか。

 呆れたような視線を向ける洋介に「それもそうです」と綾乃は納得し、占いを始めた。


 「………………」


 ちなみに何を占って欲しいとか、洋介は聞かれていない。


 「では、始めるです」


 机の上に隕石の欠片のようなゴツゴツした水晶を出し頭から毛布を被ると、目を閉じ精神集中を始める。そして、玉串を「キエー!」とのかけ声と共に取り出すと一心不乱で振りまくり、それでテンションが上がったのかいきなり滑稽にしか見えない踊りも始めた。


 「らんらんら! らんらんら! らんらんら! らんらんら!」

 「………………」


 その様子に洋介は呆れを通り越して引いていた。というか、引くしかなかった。

 路地裏に住んでいる(間違ってない気がする)女学生というだけで変なのに占い師であり、さらに奇声と共に踊りまで始めてしまえばそう思ってしまうのも無理はない。ブツブツと言語不明の言葉も呟いているのも相まって、そのドン引き具合に一層の拍車がかかってしまう。

 帛紗綾乃という少女にに抱いたこの印象はそう簡単に拭えないに違いない。

 心の隅っこで洋介は冷静に断定していた。


 「おお……ハァ……ハァ……神よ……この者の運命が……ハァ……見えたです……ハァハァ」

 「あ……ああ、そっか。占いしてたのね……」


 ただ狂気乱舞しているようにしか見えなかったが、ちゃんと占いはしていたらしい。


 「まず……色々と……深谷さんの事が……解り……ました……です」


 ゼェゼェと汗を流し肩で息をするその姿だけを見るならば、とてもそうは思えないのだが。


 「ハァ……えっとまずですね」


 息を整え、綾乃は続けた。


 「深谷さんは最近引っ越してきたばかりですね。そして大事な機動力を失っているです。自転車を無くしてしまってるのですね。しかもその自転車カンタ二号は崖から転落したから救出不能です。でも、そのおかげで何処かの少女の自殺を止める事ができたです。そしてその女の子は転校先の同じクラスにいて何やら深谷さんはその子に気になる事があり――――」

 「おぃィ!?」


 思わず洋介はツッコミを入れた。


 「お? すでにお友達はいらっしゃるようですね。いい仲と思えるです。非常にいい友人になれると思うですので、大切にしてあげて欲しいです。屋上でのお昼はその友達一号さんとの時間としてこの先も続くですね。深谷さんにはお友達二号、三号と、これから先できていくですので、お友達の事は悲観的に考えなくてもいいと思うですよ。あ、でも二号には試練の陰が見えるです。それが何かは見えないですけど」

 「ちょっと待たんかコラッ!」


 あまりにも詳しく自分の事を語り出す綾乃に、洋介はそう言わざるをえなかった。今始めて会った見ず知らずの人物にここまでペラペラと言われるなど不気味すぎる。

 それとも昨今の占いというのはここまで詳しく相手の事を語れるモノなのだろうか。もしくはこの女がサイコメトラーとでもいうのか。触られてはいないけども。


 「何でそんな詳しくオレの事を知ってるんだッ!? お前、ずっとオレの事をつけ回したりとかしてたのかッ!?」

 「別にそんな事してないです。このくらい占えば解る事です」


 エヘンと胸(凹凸無し)を張り、鼻息を鳴らして綾乃は得意がっていた。

 しかし、それで納得できるワケがない。


 「そんな事言われて信じられるかッ!」

 「ヒイッ!?」

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