第10話 アイツと再デート

「深谷って歩くの好きなの?」

 「いや、別に好きってワケじゃねーけど……」


 高校から少々歩いた所にその商店街、九重商店街は存在する。

 アーケードに入っていくと様々な店がずっと先まで並んでいる。以前は隅々まで所狭しと店が並んでいたのだが、今は不況と九重町に総合デパートができた事によっていくらかシャッターが目立つようになってきている。

 しかし、それでもこの九重商店街の人気はまだまだ残っており、今も多くの個人商店が経営をしている。八百屋、魚屋、肉屋などの食料店は当然で、本屋にゲームショップにアミューズメントパーク、さらには時計屋に植物店といったモノもある。ラーメン屋、中華料理屋といった定食系の店も多く、昼時や夕方を回れば多くの客がこの商店街を利用していた。

 それは高校生も例外ではなく、学校が終われば商店街が学生で賑わうのも普通である。


 そんな中、洋介と優香は九重商店街を利用する同校生徒や他校生徒に混じって商店街内を“グルグル”と歩き回っていた。


 本当に歩き回っているだけである。店に立ち寄る事もなければ、立ち止まろうともしていない。


 「ふーん。でも、私は結構好きかな。こうして町並み見るの好きだし」

 「そ、そうか……」


 嘘か誠か洋介に対する気遣いか。


 優香の本意はわからないが、こうしてウロウログルグルしているのは意味無き徒歩なので洋介はどうにしかしなければと悩み続ける。

 ちなみに九重商店街は洋介の知らない場所である。

 なのでいつもならテンションが上がり、商店街全てに興味を持ち突貫するのだが。


 「ぬううう……」


 今日はそんな真なる洋介にはなっていない。昨日のような失敗を犯さないべく、自身を押さえているのである。

 商店街にくれば優香を楽しませる何かがあるかもしれない。そう思ってやってきたが、それは誤りであると洋介は気がつく。

 考えれば優香はずっと九重町で育ってきた人間である。子供の頃から商店街の事など知ってるわけで、町の事など知り尽くしているはずなのだ。商店街にはファンシーショップや洋服店といった女性が立ち寄りそうな店も数多くあるが、これら全て優香は知っているだろう。中には御用達の店もあるかもしれない。

 それらに連れて行くのはナシだ。そういった店に“優香が求めている楽しさ”があるのなら、こうして自分に楽しい事を探させるはずがない。


 「ぬうう…………」


 悩んだままでは何も始まらない。優香を何処につれていけばいいのかと思いあぐねながら周囲を見ていると。


 「…………ん?」


 それを見つけた。スーパー『ブルーソン』と酒屋『池口屋』の間にある小さな路地のそばに看板が立てられていたのだ。


 『占い所』


 ポリバケツに寄りかかって申し訳ないように存在しているその看板には、ただそれだけが書かれていた。不器用な筆字が質素に書かれておりそれ以外は何もない。

 おそらくこの裏路地の奥へと進めと書いてあるのだろう。が、池口屋のビールケースやブルーソンの蛍光看板に遮られて、一見進めないように見える。

 しかし、それらを超えてしまえば道はあるので、行けない事はない。


 「蒼井……コレ、何だと思う? 占いとか書いてるが」

 「さあ? こんなの始めてみたけど……」

 「…………行ってみるか」


 ビールケースを脇にどけると、洋介と優香の二人は路地に入っていった。

 ずっと日陰の続いている裏路地はそれだけで気味が悪く、近寄りがたい雰囲気を醸し出す。

 結構長い路地だった。向こう側の景色が見えないが、それは曲がり道があるから。遠目からでも確認できる。

 生唾を飲み込みつつ、優香を後ろに洋介は路地を進んでいくと。


 「おおッ! お客さんですッ!」


 曲がった先にすぐいたのは、九重高校の制服を着た女子だった。

 洋介を見た瞬間、電気が走ったかのようにツインテールを反応させた。来客があった事に驚きを感じているようだ。

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