第7話 アイツとデート

「ここが目的地でいいの?」


 十分ちょっとの時間をかけてやってきた場所を見渡し、優香は洋介に確認を取った。


 「は~、ここはいつ来ても人が多いわねー。この町は暇人が多いのかしら」


 洋介がとりあえずと連れてきた場所は、九重町内でもっとも人通りの多い場所である九重駅だった。

 三つの路線が交差する大きな駅であり、それらがどれも大きな街に繋がっているせいで、この駅は朝と夕方になるとかなり人通りの多い場所となる。九重町の住人は車の所有率が低いため交通機関利用者が多く、平日の昼間なんかでも人の往来は激しい。

 なので、ちょうど学校が終わるくらいの時間になれば、多い人通りがさらに多くなるのは当然の事だった。

 駅前にある待ち合わせ場所として有名な【ココノエ様】(三角定規とテッシュ箱を合わせたような常人理解を捨てたデザインの石像)の前に洋介と優香の二人は立っており、目の前を忙しく行き交う人々とココノエ君を交互に見ていた。


 「こんなモノを町が作るとはッ!? どうやら九重町民達は戦隊ロボが大好きなようだな!」

 「誰が戦隊ロボよ……一応、コレ神様なんだからね」

 「神様だと!? それはテンションが上がるな!」


 鼻を鳴らしながら、さらなる説明を求める洋介に呆れながら優香は続けた。


 「何気にこの町って信仰心の高い町なのよ。土地柄もあるんでしょうけど、結構神様を大切にしようって考えが強いの。この町はいつもココノエ様が守ってくれてるんだよってね。人間が好きで奇跡をくれる神様らしいけど、こんな飾り物にされて怒ったりしてないのかしら」

 「いやいや、その神様は人間好きなんだろう? なら、こうして人々にアピールされる事に不満を覚えるはずがない! 人間達がココノエ君という親しい名前で覚えてくれれば、なおさら九重町を愛してくれるさ!」

 「まあ、そんな考えもあるんだろうけど……でも、このデザインはどうかと思うわ……」


 見慣れてはいるものの奇形である事には変わらないため、いつもこのココノエ様を見ると優香は微妙な顔をしてしまう。

 だが“テンションの高い洋介”には非常に物珍しく、興味の引かれる石像でなのでワクワクの眼差しだけを向けていた。

 そして、それは周囲にも同じである。


 「うおおお! なんだアレはッ!? 駅前に屋台があるッ! アレはたこ焼きとクレープ屋だなッ! 売ってるのが同じなチェーン店が駅の側にあるというのになんたる所行か! きっと自ら試練を与えているに違い無い!」


 洋介がまだ知らぬ九重町リストの中には九重駅も入っている。昨日、自転車で走っていた場所は普段通らない地域だったので、駅前にはまだ洋介は来た事がなかったのだ。


 「ぬうううううう!? ココノエ様焼きとは一体どんな食べ物なのか!? 神様を焼いてお菓子にするとは、どれだけココノエ様が大好きなのだろう!」


 そして、来た事がないという事は洋介の中で『知らぬ町探索』に該当する。まだ見ぬ場所というのは、常に洋介の心をワクワクの四文字で叩くのだった。

 横いる優香そっちのけで無意味にテンションを上げていた。先ほどまでの悩みや唸りは何処ぞへと消えている。

 ちなみにココノエ様焼きはカステラの味がするアンコ無しの今川焼きだった。


 「車まで走っているぞ! タイヤが四つもついている! 信じられん!」

 「車がタイヤ一つで走ってたら不気味でしょうが」

 「ポストだ! 赤いぞ! 血だ! 血で血を争うようなできごとが、あそこで行われたに違いない!」

 「…………あんた無理矢理騒ごうとしてない?」

 「しかしココノエ様は大人気だな! そこらの屋台でココノエ様焼きが売られているとは!? これ以外にもココノエ様の名を借りた菓子がゴマンと生まれてきそうだ!」

 「実際、色々生まれてるらしいわよ。売れないとすぐ消えるから、お目にかからないのが多いけど」


 洋介のテンションは冷める事なく、駅前で見る全ては新鮮であり好奇心を揺るがすモノばかりだった。何もかもが珍しく見え興奮せずにはいられないのだ。

 屋台のタイ焼きやたこ焼きやココノエ様焼きや書店に薬局に飲食店にコンビニなど、目に見える全てが洋介にとって刺激的だった。


 「おおッ! なんだあの店はッ!? 入ってみようッ!」

 「あ、コラ!」


 優香を置いて洋介はドドドドドと音を立てながら走り去って行く。優香の事などお構いなしで、後ろを振り返りもしなかった。


 (……ん?)


 走る途中、洋介の目の端に気になるモノが映った。

 道路の向かい側、横断歩道傍のガードレールに大量の花束が置いてあったのだ。

 事故が起きたのだろう。花束はどれも綺麗で最近の物である事が伺える。


 「ちょっと深谷! 待ちなさいよ!」


 少し聞いてみたい気もしたが、今の洋介の興味はそこにはない。

 優香はそんな洋介をなんとか追いかけ、洋介が戸を開けた店の中へと入っていった。



 「ラッシャイィィ~。何処ぞの学生サン二名サマー、ご入店サマー」

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