第19話 サンジドーロ潜入
焼け野原に残っている大きい奴の息の根を止めながら俺たちは街に向かった。ロンダがアンに指示を出し、アンがその指示通りに動いている。
「手負いに止めをさすのは注意が必要だ。相手は捨て身でかかって来るからな」
大きい奴は地面に這いつくばっているがその身長はロンダの倍はある。足を失い自由に動けなくても腕を振って暴れ回るだけで十分危険な相手だ。アンはロンダの指示に従い、でかい奴が振り回す腕や手に持っているナタのような武器を狙って相手を制していった。
「そうだ、焦るな。確実に動きを殺していけ」
アンの剣が魔物の腕を裂き、手に持ったナタを叩き落とし、腕の自由を奪った所で胸や首、目を狙う。大きい奴の状態に合わせてロンダから何処を狙うか指示が飛ぶ。
「そいつは首だ」
「はい!」
「目を狙えるか?」
「はい!」
アンは思った通り筋も感もいい。5体目辺りからロンダは殆ど指示を出さなくなり、アンはロンダの指示を思い出しながら手際良く大きい奴の息の根を止めていった。動いている大きい奴が1匹も居なくなり、俺たちは平野を後にした。これだけの事があったのに町は静かで特に援軍がやってくるような気配は無かった。ロンダとアンが平野で奮闘している間も俺を祈り続けていたアンジェリカを立たせて、ロンダ達の後を追う。
「ひぃ」
「ひぁ」
魔物の肉塊を見るたびにアンジェリカは悲鳴を漏らした。その声を聞く度に先を行くアンとロンダがアンジェリカを振り返って睨む。
「ここがサンジドーロです」
アンジェリカが町の入口辺りで立ち止まり、先を行く俺たちに話しかけた。
「町の中央に大きな商会の建物があります。生き残っている者がいればその中に、あるいは魔物が……」
アンジェリカはそこで言葉を詰まらせる。
「分かった」
俺は頷き、剣を抜く。
「俺が先に行く」
ロンダとアンの間を抜けて町に入った。
入口から町の中央までは小さな家が建ち並び、中央に近づくほど商店などの大きい建物が増えていった。小さい町だが迷子になると困るのでアンジェリカに確認を取りながら大通りではなく路地裏を進んだ。町の建物に大きな被害は無いが扉や窓は砕かれている。路地裏を進む俺たちの前に、人も魔物も姿を見せないまま暫く歩くと広場らしき場所に続く小道に差し掛かった時、ピヨールが不意に吠えた。
「ワン!」
その意味が俺にはすぐに分かり、俺たちは建物の陰に身を隠した。すると小道の先、広場らしき場所に繋がる所を巨大な影が沢山通り過ぎていった。
「あ、あれは一体……」
アンジェリカが目を見開いて怯えている。
「見たことも無い奴だな。この先に商会があるのか?」
俺が聞くとアンジェリカは無言のまま頷いた。
「そうか、ここに居ろ」
俺は後ろにいるロンダ、アン、アンジェリカにそう言ってから、小道を進み広場に面した建物の中に飛び込んだ。建物は商店の様で、1階部分は激しく荒らされていたが上への階段は登ることが出来た。階段を上った先には廊下があり、幾つかの扉が並んでいる。開け放たれたままの扉の中を一通り確認し、2階部分に誰もいない事を確認した俺は、広場に面していると思われる部屋に入り窓から外を見下ろした。
魔物の大軍がいるのだろう。
そう思って外を見た俺の前に予想外の光景が広がっていた。広場の反対側に大きな建物があり、その周りに建物を崩して作られた柵があった。その柵の内側に数名の兵士らしき人影があり、取り囲む魔物に対峙している。
柵には何か仕掛けがあるのか魔物は柵の内側には入れないようではあったが、取り囲まれている量から考えてジリ貧の状況をなんとか耐えているというように見えた。
生き残っていたのか。
取り囲んでいる魔物の事よりも、まだ街に生存者がいたことに俺は驚いた。少なくとも2、3週間は耐えていたことになる。相当、優秀な指揮者がいるのだろう。死なすのは惜しい。俺は商店の2階から降りてロンダ達の元に戻り、見て来た状況を報告した。
「それは、きっと院長様です!」
アンジェリカが叫んだ。
「ど、どうか勇者様! 院長様をお救いください!!」
そして跪き祈りだす。
「俺たちはその為にここまで来た」
「ワン!」
ピヨールが吠える。
「今回は俺が先に行く。背中は預けたぞ!」
ロンダが俺とアンにそう言って駆け出した。
「はい!」
アンがそのロンダを追っていく。俺はアンジェリカを商店の中に隠れるよう指示をして、2人の後に続いた。
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