ジ・エンド・オブ・アース!(3/3)

 夜の校舎裏にある大きな桜の木の周囲に、風が渦巻き始める。

 風は徐々に強まり、遠くから声が聞こえてくる。

 その声達は次第に近づき、正体が見えてきた。

 ネコの大群が空を飛び、四方八方からこちらに向かって押し寄せてくるのだ。

 千や万という数ではない。

 この世界中に居る人間、動物達に取り付いていたネコ達が、山田ヒロハル青少年達の意志で、呼び出されて来たのだ。

 大きな毛玉の波が、我々を軸に大きく渦を巻きながら収束していく。

 その回転は徐々に加速し、プラズマを生み出す。

 やがて、それは膨大なエネルギーに変換され、青白い光の螺旋を描いていく。

 我が輩は、そのエネルギーを吸収し、蓄積していくのだ。

 ドンドンと、我が輩は大きくなる。

 車より大きく。

 木よりも大きく。

 家よりも、校舎よりも大きく。

 我が輩の体積は、何乗にも膨れ上がっていく。

 高層マンションも越え、視界が開け、富士山も見え始める。

 死にたくない、怖い、助けてと、沢山の感情も我が輩の中に流れ込んでくる。

 しかし、そう言った負の感情の中に、わずかながら違う思いも紛れ込んでいるのが分かった。

 守りたい、助けたい、諦めたくないと、希望と優しさを抱く感情も少なからず混ざっていた。

 こんな状況下でも、誰かの未来を守りたいと思う者達がいるのであろう。

 そんなことを考えている間に、我が輩はヘリコプターを横目に、雲の中へと突入する。

 エネルギーは底を尽きることなく、さらに増幅し続けた。

 恐竜時代とは比べられない程の思考力だと、改めて今の時代を生きる者達の凄さを感じ取った。

 雲の上に顔を出すと、そのままオゾンの壁を越えて行く。

 真上には、幾千もの星々の瞬きがドーム状に映し出され、やがて、この星の者達をほうむりに来た巨大隕石と対面した。

 隕石の周りから飛び散った石のつぶて達が、我先にと地球に降り注ぎ、大気圏で燃え尽きていく。

 我が輩にも礫の雨が降り注ぐが、この程度は宇宙ノミに刺された程度の痒さでしかない。


 ん?


 礫の雨の中、人類が作ったであろう宇宙船とすれ違う。

 宇宙船は、そのまま地球に帰還していくのが見えた。

 あれは、ラジオで報道されていた隕石を阻止する為に打ち上げられた宇宙船であろう。

 確か、核爆弾で隕石を破壊すると言っていたな。

 帰還していくということは、爆弾が設置出来たということであろう。


 ――!!


 と、考えている間に隕石の中から光が漏れ、内側から爆発し、無音の大きな衝撃の波が押し寄せる。

 いくつもの破片が飛び散り、それぞれ宇宙の彼方へと向かっていった。

 ついでに、隕石に残って起爆役をしていたのであろう宇宙飛行士の一人も飛ばされていくのが見えたので、前足で捕まえる。

 後で、地球へ降ろしておくことにしよう。


 これにて、人類の危機はまのがれた。

 ――ように見えたのだが、終わってはいない。

 隕石は確かに壊れた、だが、壊れたのは一部だけで、全体の80%程は残っている。

 前面が欠けたおかけで、竜が口を大きく開き、この星を食らい尽くそうとしているような、さらに禍々しさと落下速度が加速した。

 皮肉なものだ。

 兵器などしょせん人を殺す道具にしかなれず、人を救うことは出来なかったのだ。

 まだまだ、人間は自分達のことを分かっていないのだろう。

 兵器より素晴らしい物を、全員が持っているというのに―― 

 そうそう映画のように上手くはいかなかったという訳だ。


 さて、我が輩もそろそろ本気を出さねばならない。

 地球ぐらいの大きさになったところで、我が輩は右前足に力を溜め込む。

 我が輩の右前足に溜まる感情は、人間達の絶望が増していく。

 しかし、誰かを何とかして守りたいという感情もまた増えている。

 ……いや、絶望なんかよりもそれは多い。

 自分の命より……存在より、何者にも代えられぬ大切な者を守ろうとする気持ちが強くなっているのだ。


 さあ、時は満ちたぞ隕石よ。

 恐竜世代ぶりの再会だが、食らうがいい……

 我が輩は、右前足を大きく振りかざす。

 我が肉球に溜まった、核爆弾よりも強く、そしてとてつもなく膨大な、人々のラブを渾身の力で叩き込んだ。


 隕石に肉球が当たった途端、接触面から稲妻のような亀裂がいくつも隕石に走り渡る。

 亀裂からは人間達の力が溢れ出し、青白い閃光を放ち出す。

 あまりに増大なエネルギーの為、物理法則を無視して、一瞬隕石は米粒程の大きさまで収縮する。

 ――そして、次の瞬、


 ――――――!!!!!!


 大きな花火のように何度も火花を散らしながら、巨大隕石は粉々に砕けていった。

 まるで盛大な拍手喝采のように何度も何度も爆発したのだ。

 これで……ようやく人類が救われたのだ。

 良かったな、山田ヒロハル青少年よ。

 めでたしめでたしである。


 ……んん?


 我が輩は自身の足下を見ると、山田ヒロハル青少年の姿が見当たらないことに気づいた。

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