ジ・エンド・オブ・アース!(2/3)

「キャサリン君……」

「・・・・・・」……やっぱり言っちゃったわ

 二人は見つめ合う。

 焦げ臭い匂いが風がそよ吹き、罵声と怒声が遠くから鳴り響く。

 徐々に迫ってくる大きく歪な月が、実体をあらわにし始める。

 まさに、お迎えが来ているのだ。

 山田ヒロハル少年は、制止して――

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」

「・・・・・・!?」ど、どうしたの山田君?

 山田ヒロハル青少年は、そのまま変身しそうな勢いで雄叫びを上げる。

 彼の思考は、読み取れない。

 何かを考えている訳ではないのだろう。

 だが……

「私は!! 私はなんて馬鹿なんだああああああああ!!」

 彼の頭ではなく、心で何かが渦巻いている。

 それだけは、我が輩も感じ取れる――

「本当に……本当に私は最低だ!! 所詮は、生殖本能に流される動物に過ぎない!! いや、それ以下だ!! 自分自身の力で増えていく単細胞以下の存在だ!!」

「山田……君?」どうしよう・・・・・・怖い・・・・・・

 大丈夫だキャサリン氏、君に危害を加えようとは思っていないようだ。

 ……答えは、もっと滑稽で、単純である。

「キャサリン君!」

「……な、なに?目が怖い

「笑わないで聞いてくれ! 絶対にだ!」

「え・・・・・・ええ」もう何年も笑ってないから、笑う方が無理よ

 キャサリン氏は息を飲み、山田ヒロハル青少年を見つめる。

 山田ヒロハル青少年もキャサリン氏を見つめ、真剣に答える。

「私は……今、恋に落ちたんだ」

……え?・・・・・・え?

「今、君に告白され! 君のことが好きになってしまったんだ!」

「・・・・・・」う、嘘……それだけで?

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」

 山田ヒロハル青少年は、恥ずかしさを誤魔化す為、さらに叫ぶ。

「しかも……しかもだ! 松本先輩に振られたばかりのせいか、まだ先輩に未練を持っているのだ!」

「え? 山田君……」それは、つまり・・・・・・

「松本先輩のことが、まだ好きなんだよ! うおおおおおおおおん!!」

 そろそろ、本当にオオカミ男にでも変身しそうである。

 しかし、彼はまだ続ける。

「そう、まだあるんだ! 本当に正直に言うと、川崎氏にも未練があるんだ! あの何だかんだ純情な好意と胸の感触が、未だに忘れられないで居るんだ!ああああああああああああ!」

「・・・・・・」それは、報告しなくて良かったわ

 彼は叫ぶ。

 声が枯れるまで叫ぶ。

 気が狂ったように叫ぶ。

「不純だ!! 圧倒的な不純だ!! 複数の女性を……振った女性も、振られた女性も、今突発的に好きになった女性も! 皆の顔が鮮明に思い浮かび、声も響いてくる程、好きになっていたなんて! 笑え! 笑いたい者は笑ってくれ!許せない者は、いっそ殺しに来てくれええええ!」

「や、山田君!」ちょっと落ち着いて!

 キャサリン氏は、身悶える彼が木にぶつかりそうになり、慌てて制止する。

「だけどな! 一番許せないのは私だ! 私のことを一番許せないのは、誰よりも私なんだ!」

 山田ヒロハル青少年よ。

 そろそろ、落ち着いて冷静になるのだ。

 今、君はキャサリン氏に……

「ああ! 私は冷静さ! さっきからずっと冷静だったさ! だからこそ、これで決着をつけるのさ!」

 そう言うと、彼はピタリと止まる。

 そして、肥大化し、空を覆い始めた隕石に向かう。

「私は、あの怒り狂った母の顔から逃げる為、生殖本能に破れた父にならないように精進してきた! だが、結果はこの様さ! 道徳を外れ、貞操概念は崩壊し、女性を泣かせることしか出来ないクズ男だったのさ!」

 彼は、その自分の出した答えに、首を振る。

「いや、こんなもの格好を付けた言い訳だ! そうじゃない! 一番の原因は、私が童貞だったからだ!! 恋に恋し! 女性に幻想を抱き! 性行為に神秘性を求め! 何も見ず! 自分の欲望を、ただ相手に願ってしまったのさ!」

 彼は自身の眼鏡を外し、こぼれ落ちそうになった涙を拭う。

「……なあ、デブネコ君」

 何かね、山田ヒロハル青少年よ?

「……自分の為に、人に期待し、利用してしまうことは、本当にいけないことなのだろうか」

 ……

 利用という意味は、人に対して使う言葉なら、悪い意味でとらわれがちであろう。

 役に立つように使うこと……自分の都合の良いように扱うこと……

 第三者的に解釈するなら、あまり良い響きの言葉でないのは確かだ。

 うーむ……

 我が輩の主観で言うならば……

 それの言葉は、と思うぞ。

 我が輩が君に言えるのは、ここまでだ。

「そうか……」

 彼は、眼鏡を掛け直し、そして彼は心の整理が、ようやくついたようだ。

「キャサリン君」

 さっきまで、山田ヒロハル青少年を押さえていたキャサリン氏に声を掛ける。

 彼女は、ゆっくりと彼の顔を見る。

「私は不純で、沢山の女性を好きになってしまった哀れな男だ。愛してしまい、彼女達の幸せを心から願ってしまったんだ」

「……」・・・・・・そう

「皆の幸せの為に、皆のこれからの笑顔の為に……もちろん、これから僕達二人が歩んでいく未来の為に……私の思いを受け取ってくれないか?」

「……ええ、もちろん、そのつもりだったわ・・・・・・やっぱりそんなの嫌!……それで、アナタが満足するのなら」 私の為だけの気持ちじゃないと寂しいから嫌!

「ああ!! もう我慢ができない!! キャサリン君、好きだああああ!!」

「え、ま、待って!? まだ、心の準備……ん!?あ・・・・・・


 こうして二人の青少年と少女は、初めての唇を交え合わせたのだ。

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