㉒𓃠 ラグナロク・エンド!
……真っ白な思考の中から、
……ようやく視界が開けてきた。
我が輩達の目の前には、金色に輝く、艶やかで長い髪と、ネコミミの付いた頭部が見えた……
キャサリン氏である。
キャサリン氏が、山田ヒロハル青少年と松本氏の間に割って入ってきたのだ。
両手を広げ、まるで彼を守るように……
突然の乱入者に松本氏はたじろぐ。
「え、えっと……あ、貴方は……確か昨日階段のところから落ちてきた……」(なんや?またワシ等と話せるチビが来おったんか! 今取り込み中なんや!水を差すじゃねぇぞゴラァ!)
「これ以上は十分。もう、山田君を攻めないであげて」(……ピクピク)
キャサリン氏は松本氏の頭のトラに話しかけているのだろうが、当の本人は何のことだか良く分かっていないであろう。
「え!? わ、私は別に、山田君を攻めてる訳じゃ……あ……」(ああ? さては自分も、そのモヤシとグルになってお嬢をハメに来た輩か? あまり調子に乗ってると、その耳を剥ぐぞゴラァ!)
トラはキャサリン氏に対して、お得意のゼロ距離メンチを放つが、キャサリン氏は動じない。
そんな中、松本氏はハッと何かに気づいたように、山田ヒロハル青少年を見る。
「……そうよね。これじゃあ、ただ山田君から逃げてるだけになるよね」(そうや! エリナお嬢も言うたれ! この敵共を粛正した……お嬢……今何を言うたんや?)
松本氏は自身の胸に手を置き、ゆっくりと一回大きな深呼吸を挟む。
トラも彼女の様子を伺うように制止する。
「ごめんなさい山田君。貴方の思いは、受け取れないわ……私には……心の底から思ってる人がいるの」(……お嬢)
彼女は、おっとりとした可愛らしい瞳をほんの少し吊り上げ、真っ直ぐ
山田ヒロハル青少年を見る。
「私ね……凄く精神的に辛い時期が昔あって……もう、どうでも良いって思ってた頃があったの……実は今もそうなんだけどね。正直隕石が落ちて、みんな居なくなってほしいって、心の奥底では少し思ってたりするんだ……」(……)
山田ヒロハル青少年は思う。
こんなに暗いことを言う松本氏は初めてだと……
自分の知らない、彼女がここに居ると……
「でもね、みんなの前では明るく振る舞ってた……ううん、振る舞えたんだ……ユウキさんの御陰でね」(……)
彼女は、自身の書いた手紙を見つめる。
「私のお兄さんの友達なんだけど、私の家庭教師でもあるんだ……私が辛い時には、いつも相談に乗ってくれて……いつしか、好きになってたんだ」(……)
しばらく松本氏は目を伏せ風に髪を揺らし、またゆっくりとこちらを見据える。
「だから、山田君の気持ちは受け取れないの……でも、ありがとう」(……)
彼女は、いつも見せる慈母の微笑みを……いや、そんな幻想的な、完成された微笑みではなく。
決意を感じさせる、強い意志を持った表情を見せる。
「嫌なことばかりの生活だったから……|このまま、自分の思いを伝えないまま終わりにしようと思ってたけど……やっぱりダメだよね!」(……)
強く、手紙を抱きしめる。
「山田君に、こんなこと言うなんて、私は最低で自己中心的な女だけど……でも、貴方の御陰で……今までモヤモヤしてた思いが晴れた気がする。貴方の姿勢で私は勇気を貰えた。貴方の御陰で決心がついた……私も、思いを伝えに行きたい!」(……)
彼女は最後に……
「ありがとう……私なんかのことを好きになってくれて……私は何も返せない……お礼しか言えない。本当にゴメンなさい……だけど本当にありがとう!」(……)
山田ヒロハル青少年に伝えた後に、キャサリン氏に目線を向け、軽く笑顔を作る。
そして、彼女は我々に背を向け、
「さようなら……山田君……」(今までのお嬢の言葉は本物や……口が悪くすまんかった……ありがとうな)
走り去る。
山田ヒロハル青少年よ追わないのか?
まだ、事情を説明して、内容によっては接吻して人類を救えると思うが?
「良いよ……もう……」
……そうか。
なら、ここまでのようだな。
人類の滅亡は、これで確定したのだ。
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