コール・オブ・メモリー!(2/4)

「もしもし? 松本ですがどちら様で?」受話器を取った俺は、電話の先の相手を確認しようとするが、相手方の応答がなかった

 山田ヒロハル青少年は硬直し、思考の限りを尽くして、松本エリナ氏にかけたはずが、男性が出てきたこの状況をどう解釈するのか考える。

「や、やや、山田と申しますす、す!」

 緊張のあまり、また声が上擦ってしまう。

 キャサリン氏に触られている感触を感じる余裕が全くないのだ。

「あ、ああ、はい……山田さん、ですか?」震える声の主は、山田という人物だった。もちろんその名前に俺は聞き覚えはない

 落ち着くのだ山田ヒロハル青少年、とりあえず松本氏の自宅かどうか聞くのだ。

「そうよ山田君。松本エリナさんの自宅の電話番号で・・・・・・ピクピク間違ってないか確認して」

「まま松本、えええエリナさんの、ごご自宅でしょうかか?」

 一生懸命キャサリン氏の言葉を復唱する山田ヒロハル青少年。

「え……ああ、エリナの友達か?」何故こんな隕石が落ちるかもしれないと言う時に……まさかアイツ彼氏を作ったのか?

「いえ! 彼氏なんてそんなたいそうな者ではありません!」

「え? あー、はい、そうですか……」あれ?俺、今彼氏かなんて言葉に出しただろうか?

 山田ヒロハル青少年がネコの声に反応してしまったせいで、ややこしくなってきた。

「山田君落ち着いて、松本エリナさんと同じ学校に通っていて松本エリナ・・・・・・ピクピクさんに連絡したいことがあることを伝えるのよ」

 そう言いたい気持ちは山々だが、山田ヒロハル青少年的にはこの電話に出た人物が、気になってしょうがないらしい。

 本当に、気になって気になって、もうどうしようもないようだ。

「……そんなに聞きたいのなら、直接聞けば良いじゃない。アナタの名前は・・・・・・ピクピクユウキですかって」

「ええ……」

 何の捻りもない素直な聞き方に、山田ヒロハル青少年は困惑を隠せなかった。

「あの……もしもし? おーい?しばらく電話の先では誰かが呟く声が聞こえてくる。やはり、ただの悪戯電話なのだろうか? ……聞こえてます? ……もしかして切れ ……もしかして、エリナのストーカー……とか?たのか?」

 あまりマゴついてはいられないようだぞ、山田ヒロハル青少年よ。

「す、すみません!! 私は松本エリナさんと同じ学校に通う山田ヒロハルと申します!! ま、松本……え、ええ、エリナ……さんに委員会のことで伝えたいことがございまして、電話いたしました!! そ、それと、アナタはもしかしてユウキさんでしょうか!!」

 訳が分からなくなったので、とりあえず言いたいことを全部伝えた山田ヒロハル青少年。電話先の男は少し驚いた様子が伺えたが、すぐに対応する。

「わ、分かった……君はエリナの友人なんだ何かめんどくさいので、エリナに電話を代わることにする。な? すぐにエリナに代わるから……あと、それにしても何故ユウキのことを知っているのか? ユウキは俺の友人でエリナの家庭教師である。俺はユウキじゃなくて松本カツヤ。エリナのまあ、エリナはユウキにゾッコンしていたし、この人物に自慢でもしていたのだろう兄貴な。じゃあ、今エリナを呼ぶんで……」

「ぐぼぉほお!?」

 松本氏(兄)のネコの言葉に、山田ヒロハル青少年は吐血しながら片膝をつく。

 山田ヒロハル青少年の[ユウキ空想人物説]が音を立てて崩れたのだ。

「山田君、しっかりして」・・・・・・ピクピク

 再度手を握った所で山田ヒロハル青少年は、もう立ち直れないかもしれないぞキャサリン氏。

 山田ヒロハル青少年を保っていた精神は、今跡形もなく――

「いや……まだ……だ」

「山田君?」・・・・・・ピクピク

 なんと、山田ヒロハル青少年は足を振るわせながらも、もう一度立ち上がる。

「まだだ……例え、好きな人が本当にいたからと言って……松本先輩を嫌いになったりなんかしない……」

「……山田君」・・・・・・ピクピク

 そうこうしていると、電話の先から声が聞こえてくる。


「あの……もしもし、お電話代わりました。松本エなんやワレ? 兄者が言ってたが、山田とかいうモヤシかゴラァリナです……」


 待ちに待った、松本エリナ氏が電話の向こうに現れたのだ。

「は、はひ! 山田ひ、ヒロハルです!」

 待望の松本氏と、そう言えば、松本氏の頭の上にはトラがくっついていたことを思いだし、山田ヒロハル青少年は焦りのあまり、バネのように背筋を伸ばす。

「山田君!? 隕石が落ちくるから危なオイ! モヤシ! エリナお嬢は今非常に乙女心が揺らぐ繊細な心境なんや!いって時に、いったい電話なんて それ相応の用件じゃねぇとコロスぞ!どうしたの!?」

「あ……ああああ、あ、あの!」

 嬉しさや、切なさや、恐怖によって頭の中がかき乱されていく。

 正直、山田ヒロハル青少年は、もう止めたいと思い始めてきている。

 だが――

「松本先輩にお話があります!」

 ここで引く訳にはいかなかったのだ。

 川崎氏の思いを振り切り、尚も松本氏を選んだのだ。

 どうせダメだから、なんていう生半可な考えではない。

 例え成功する可能性が1%より低くとも、やらねばならない。

 山田ヒロハル青少年はそう思った。

「会議室に、たぶん松本先輩の物と思われる手紙が入っていました!」

|「え? 手紙って……」ああん? モヤシ何言って……まさか!?》

 松本氏が動揺しているのが分かり、山田ヒロハル青少年は罪悪感にかられる。

「ユウキさん……宛の手紙ですよね……」

「・・・・・・!?」ぬおおおおおおおおおおおおてめぇえええええええ!?

 松本氏のトラがわめき散らしている。

 彼女等は、動揺が隠しきれないようだ。

「これ……大切な手紙なんですよね……」

 人の弱みを餌に釣る、非道なやり方なんて本当はしたくない。

「この手紙を返したいんです……い、今から……会えませんか!」

 だが、こうでもしないと誘うことなど到底出来なかったのだ。

 そんな自分が何ともみじめで、松本氏に似つかわしくない男かと、山田ヒロハル青少年は改めて実感出来た。

「あ、あの……えっと……その……」モヤシ……自分何言てんのか分かっとるんか?

 松本氏が黙り込む。

 ここで断られてしまえば、もう後はない。

 風俗かキャサリン氏の協力で何とかするしかないない。

 しばらくの沈黙の後に……

「……分かったわ」エリナお嬢から許可が下りたぜモヤシ

 と、松本氏から了承を得ることが出来た。

「今どこにいるの?」はよ答えろボケ!

「え、えっと……学校です!」

「そう……ちょっと時間が掛かっちゃうモヤシ! 首を洗って待っとれよ!けど良い?」

 そして集合する場所は、山田ヒロハル青少年たっての希望で、学校の裏にある大きな桜の木の下となった。

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