⑰𓃠 コール・オブ・シー!
「もしもし? 松本ですがどちら様で?」(受話器を取った俺は、電話の先の相手を確認しようとするが相手方の応答がなかった)
山田ヒロハル青少年は硬直し、思考の限りを尽くして、松本エリナ氏にかけたはずが、男性が出てきたこの状況をどう解釈するのか考える。
「や、やや、山田と申しますす、す!」
緊張のあまり、また声が上擦ってしまう。
キャサリン氏に触られている感触を感じる余裕が全くないのだ。
「ああ、はい……山田さん、ですか?」(震える声の主は山田という人物だった。もちろんその名前に俺は聞き覚えはない)
落ち着くのだ山田ヒロハル青少年、とりあえず松本氏の自宅かどうか聞くのだ。
「そうよ山田君。松本エリナさんの自宅の電話番号で間違ってないか確認して」(……ピクピク)
「まま松本、えええエリナさんの、ごご自宅でしょうかか?」
一生懸命キャサリン氏の言葉を復唱する山田ヒロハル青少年。
「え……ああ、エリナの友達か?」(何故こんな隕石が落ちるかもしれないと言う時に……まさかアイツ彼氏を作ったのか?)
「いえ! 彼氏なんてそんなたいそうな者ではありません!」
「え? あー、はい、そうですか……」(あれ?俺、今彼氏かなんて言葉に出しただろうか?)
山田ヒロハル青少年がネコの声に反応してしまったせいで、ややこしくなってきた。
「山田君落ち着いて、松本エリナさんと同じ学校に通っていて松本エリナさんに連絡したいことがあると伝えるのよ」(ピクピク)
そう言いたい気持ちは山々だが、山田ヒロハル青少年的にはこの電話に出た人物が、気になってしょうがないらしい。
本当に、気になって気になって、もうどうしようもないようだ。
「……そんなに聞きたいのなら、直接聞けば良いじゃない。アナタの名前はユウキですかって」(……ピクピク)
「ええ……」
何の捻りもない素直な聞き方に、山田ヒロハル青少年は困惑を隠せなかった。
「あの……もしもし? おーい? 聞こえてます? もしかして切れたのか?」(しばらく電話の先では誰かが呟く声が聞こえてくる。やはり、ただの悪戯電話なのだろうか? もしかして、エリナのストーカー……とか?)
あまりマゴついてはいられないようだぞ、山田ヒロハル青少年よ。
「す、すみません!! 私は松本エリナさんと同じ学校に通う山田ヒロハルと申します!! ま、松本……え、ええ、エリナ……さんに委員会のことで伝えたいことがございまして、電話いたしました!! そ、それと、アナタはもしかしてユウキさんでしょうか!!」
訳が分からなくなったので、とりあえず言いたいことを全部伝えた山田ヒロハル青少年。電話先の男は少し驚いた様子が伺えたが、すぐに対応する。
「わ、分かった……君はエリナの友人なんだな? すぐにエリナに代わるから……あと、俺はユウキじゃなくて松本カツヤ。エリナの兄貴な。じゃあ、今エリナを呼ぶんで……」(何かめんどくさいので、エリナに電話を代わることにする。それにしても何故ユウキのことを知っているのか? ユウキは俺の友人でエリナの家庭教師である。まあ、エリナはユウキにゾッコンしていたし、この人物に自慢でもしていたのだろう)
「ぐぼぉほお!?」
松本氏(兄)のネコの言葉に、山田ヒロハル青少年は吐血しながら片膝をつく。
山田ヒロハル青少年の[ユウキ空想人物説]が音を立てて崩れたのだ。
「山田君、しっかりして」(……ピクピク)
再度手を握った所で山田ヒロハル青少年は、もう立ち直れないかもしれないぞキャサリン氏。
山田ヒロハル青少年を保っていた精神は、今跡形もなく――
「いや……まだ……だ」
「山田君?」(……ピクピク)
なんと、山田ヒロハル青少年は足を振るわせながらも、もう一度立ち上がる。
「まだだ……例え、好きな人が本当にいたからと言って……松本先輩を嫌いになったりなんかしない……」
「……山田君」(……ピクピク)
そうこうしていると、電話の先から声が聞こえてくる。
「あの……もしもし、お電話代わりました。松本エリナです……」(なんやワレ? 兄者が言ってたが山田とかいうモヤシかゴラァ)
待ちに待った、松本エリナ氏が電話の向こうに現れたのだ。
「は、はひ! 山田ひ、ヒロハルです!」
待望の松本氏と、そう言えば、松本氏の頭の上にはトラがくっついていたことを思いだし、山田ヒロハル青少年は焦りのあまり、バネのように背筋を伸ばす。
「山田君!? 隕石が落ちくるから危ないって時に、いったい電話なんてどうしたの!?」(オイ! モヤシ! エリナお嬢は今非常に乙女心が揺らぐ繊細な心境なんや! それ相応の用件じゃねぇとコロスぞ!)
「あ……ああああ、あ、あの!」
嬉しさや、切なさや、恐怖によって頭の中がかき乱されていく。
正直、山田ヒロハル青少年は、もう止めたいと思い始めてきている。
だが――
「松本先輩にお話があります!」
ここで引く訳にはいかなかったのだ。
川崎氏の思いを振り切り、尚も松本氏を選んだのだ。
どうせダメだから、なんていう生半可な考えではない。
例え成功する可能性が1%より低くとも、やらねばならない。
山田ヒロハル青少年はそう思った。
「会議室に、たぶん松本先輩の物と思われる手紙が入っていました!」
「え? 手紙って……」(ああん? モヤシ何言って……まさか!?)
松本氏が動揺しているのが分かり、山田ヒロハル青少年は罪悪感にかられる。
「ユウキさん……宛の手紙ですよね……」
「……!?」(ぬおおおおおてめぇええええ!?)
松本氏のトラがわめき散らしている。
彼女等は、動揺が隠しきれないようだ。
「これ……大切な手紙なんですよね……」
人の弱みを餌に釣る、非道なやり方なんて本当はしたくない。
「この手紙を返したいんです……い、今から……会えませんか!」
だが、こうでもしないと誘うことなど到底出来なかったのだ。
そんな自分が何ともみじめで、松本氏に似つかわしくない男かと、山田ヒロハル青少年は改めて実感出来た。
「あ、あの……えっと……その……」(モヤシ……自分何言てんのか分かっとるんか?)
松本氏が黙り込む。
ここで断られてしまえば、もう後はない。
風俗かキャサリン氏の協力で何とかするしかないない。
しばらくの沈黙の後に……
「……分かったわ」(エリナお嬢から許可が下りたぜモヤシ)
と、松本氏から了承を得ることが出来た。
「今どこにいるの?」(はよ答えろボケ!)
「え、えっと……学校です!」
「そう……ちょっと時間が掛かっちゃうけど良い?」(首を洗って待っとれよ!)
そして集合する場所は、山田ヒロハル青少年たっての希望で、学校の裏にある大きな桜の木の下となった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます