コール・オブ・メモリー!(3/4)
我々は、松本氏が来るであろう時間になるまで、この会議室にて作戦を立てることとなった。
「作戦会議と言う程ではないが……」
「特に話すこ
窓側に机を寄せ、お互い向き合うように席へ座る。
息苦しかった会議室の窓と出入り口を開け、空気の流れを作る。
すると、吹き抜ける風が汗ばんだ顔をツンと冷やしてくれたのだった。
「静かね……
確かに、二人が黙り合えば耳を通り過ぎる
「私としては、デブネコ君も少し静かにしてもらえた方が、ムードみたいなものが出るんだがな……」
言葉を発してしまうのは、我が輩の生理現象みたいなものでしょうがないのだ。
しばらく山田ヒロハル青少年は黙って瞑想し、キャサリン氏は黙って窓の外を見つめていた。
今まで、互いに言葉を交わし合っていた相手と、急に話さなくなるむずがゆさを覚えた山田ヒロハル青少年は口を開いた。
「なあ、キャサリン君」
少し考えをまとめ、山田ヒロハル青少年は話し始める。
「そのだな……いろいろと迷惑を掛けてしまってすまない」
キャサリン氏は首を傾げる。
「人類の危機だというのに……私は我が儘ばかり言ってしまって、今更だが本当に申し訳ない。君は、人類を救う為、ネコの中枢を探す為に、わざわざイギリスから日本まで訪れたのだろ?それなのにネコの中枢をになう人間が、私のような頭の固い人物で、とてもめんどくさいだろうと思ってな……本当にすまない」
山田ヒロハル青少年は、深々と頭を下げた。
「い、いや……だって本当の所は、適当な風俗に行ってしまえば人類を救えるのかもしれないのに、わざわざ松本先輩に告白したいなんて回りくどいことに付き合わせてしまって……君だって、イギリスから遥々こんなことをしに来たわけではないだろ?」
それは、確かにそうである。
山田ヒロハル青少年が自身の貞操概念をくつがえし、快楽に身を投じれば、昨日の話し合いの段階で結果が出ていた話である。
とても非効率的である。
「別に大丈夫よ……効率なんて求めていない
我が輩が昨日セックスすれば人類を救えると言った時に、率先してセックスしようとしたのはキャサリン氏ではないだろうか? と、山田ヒロハル青少年は思った。
「あ、ああ……何故かデブネコ君に責任転換されたような言い回しをされた気がするが、確かにあの時のキャサリン君は大胆だったな」
「それは……アナタ達に会う前から、沢山のネコ達から情報は集めていたし、自分の身体を使うことになる覚悟もしてきたからよ……確
ポーカーフェイスを保っているが、ネコミミをピクつかせ、どことなく頬を赤らめるキャサリン氏を、ちょっと可愛いと思ってしまう山田ヒロハル青少年。
「恥ず
キャサリン氏は自身に生えたネコミミを手で押さえ、机に顔を伏せる。
「あー……悪かったキャサリン君。変なことを考えるのは自重する」
また、しばらく時間が過ぎていく。
今度は、キャサリン氏から声を掛けた。
「山田君こそ、
「……それは、どういう意味なんだ?」
まさか、今更止めた方が良いとか言い出すのかと、決意の固まっていた山田ヒロハル青少年は不安になる。
「違うわ、そういう意味じゃない……松本エリナさんのことが本当に好きで、今後も付き合っていきたいのなら、ここで無理に告白する必要なんて無いのではと思ったのよ。もっと松本エリナさんのこと
どことなく真剣な眼差しのキャサリン氏。
山田ヒロハル青少年が少し黙っていると、キャサリン氏はさらに続ける。
「アナタの貞操概念は理解できなくもないわ。好きな人同士でセックスするべきっていう考え方は、私も良い考えだと思う。だからと言って、時間がないから急いで好きな相手に告白したとして……しかも、
その言葉に、山田ヒロハル青少年は……少々悲しい気持ちになってしまった。
キャサリン氏は、困惑したような表情を見せる。
山田ヒロハル青少年は考えるが、思考を整理し、少しだけ気を引き締める。
「何というか……私は、そんな立派な人間ではないんだ……」
「何を
キャサリン氏が、静かに否定しようとする。
だが、山田ヒロハル青少年はその言葉に首を横に振って制止する。
「いや、さっき川崎君と話してて気がついたんだ……自分が本当に思っていることを」
山田ヒロハル青少年は、ゆっくり話し始める。
「……私は、松本先輩と付き合いたくてとか、愛する者同士性行為を行いたくて告白したいとか、そういう訳ではないんだ。ただ、この好きという気持ちを諦めたくて告白するんだ」
「それは、最初から知ってるわ。ダメで元々だから
キャサリン氏の言葉に、山田ヒロハル青少年は頷く。
「ああ、それだけ聞けばね……でも、それは相手を利用しようとしていることになるんだ」
山田ヒロハル青少年は続ける。
「私の本当の目的は、告白することよりも先のことだ。告白し、振られて、そして人類を救う為に性行為に及ぶ、全て人類を救う為には仕方がない一連の流れで、そうしなければいけなかったということになるんだ。妥協しなければならないと、自分を納得させられる為なんだ」
うつむく山田ヒロハル青少年。
「今までずっと松本先輩に気持ちを伝えなかったのは、緊張していたからとか、この関係を続けたかったからではない。私が私自身のことを嫌いだったからだ。自分に……自信が持てなかったから……なんて優しいものではない。私と付き合うと不幸にしてしまうと思ってしまうんだ。こんな私が憧れの松本先輩と上手く結ばれるたとしても、その後彼女を幸せにしていく自信がないと考えてしまうからなんだ」
キャサリン氏が言葉を挟んでくる。
「別にお付き合いしたからといって、結婚する訳ではないのよ? そのまま上手くいって結婚する場合もあるかもしれないし、お互いに不満な所があって別れてしまうかもしれない。でも、
キャサリン氏が問いかけようとするが、彼女は彼の表情を見て言葉を止める。
山田ヒロハル青少年は奥歯を噛みしめ、やがて声を震わせながら喋り出す。
「私は、私の両親が離婚する一部始終を見ていた……」
山田ヒロハル青少年は……今まで口にしたことのない記憶をゆっくり言葉へ変えていく……
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