コール・オブ・メモリー!

コール・オブ・メモリー!(1/4)

 私は、ユウキさんに恋いこがれ、

 あなたが恋人だったらなと……その思いは膨らむばかりでした。

 この恋文を受け取って下さい。

 思うばかりで進まない恋を、私は本当のことにしたいです。

 ユウキさんの腕の中で抱かれ、見つめることの出来る私でありたい。

 思いが膨らむばかりの空想の恋人について、沢山の思いを語ってしまう私のことを知ってほしい。

 どうかこの手紙を受け取って下さい。

                                ――松本エリナより



「何かよく分からないポエムが書いてあるわね。最後に名前も書いてあるし、これは・・・・・・ピクピク松本エリナさんの……倒れ込んでどうしたの山田君?」

 いや、あまりの精神的ショックでその場に崩れてしまったようだ。

「これは……松本先輩が他の男に宛てた、正真正銘のラブレターじゃないかああああああああああああ!」

山田君……」・・・・・・ピクピク

 山田ヒロハル青少年よ、あまりの取り乱しっぷりにキャサリン氏が引いているぞ。早く涙を拭いた方が良い。

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおん!」



 しばらく時間が経過し、山田ヒロハル青少年はなんとか会話が出来る程度に復帰した。

「すまない……取り乱してしまった」

「大丈夫よ。少しびっくりしたけど」・・・・・・ピクピク

 何はともあれ、感情を発散した山田ヒロハル青少年の頭の中では、ある可能性を導いたみたいだ。

「……可能性?」・・・・・・ピクピク

「ああ、私はこのラブレターに対して不自然な所をいくつか見つけたんだ」

「不自然な所? ただのポエム風のラブレターにしか見えないのだけれど?」

 キャサリン氏の言葉に、山田ヒロハル青少年は不適な笑みを浮かべる。

「その不自然な点というのはという部分とという所だ」

「ええ……」・・・・・・ピクピク

「これはラブレターであり、すでに受け取っている状態を想定して書かれているはずだ。しかし、という言葉はおかしい。もうすでに受け取っているではないか!」

「え、ええ……そうね……」・・・・・・ピクピク

「そして、この手紙はに向けて書いた手紙だと書いてある! これを見て私は確信した! これはラブレターではない!」

「……え?」・・・・・・ピクピク

に宛てて書いた手紙!ここに書かれているユウキという人物は存在しないことになる! つまり実際に松本先輩には好きな人がいないのさ! はっはっはっは!」

「……??」・・・・・・ピクピク

「たぶんユウキという人物は漫画やドラマなんかで出てくる架空の人物なのだろう! ならまだチャンスはある! まだ現実に好きな人がいないならまだ……」

「……いいえ、ユウキさんっていう人は実在する人らしいわ。松本エリナ・・・・・・ピクピクさんの家庭教師をしている人よ。松本エリナさんのネコから聞いたもの」

「嘘だ! 私は認めない! 認めないぞ!」

「本当よ。デブネコさん、山田君は・・・・・・ピクピクどうしてしまったの?」

 すまない、やはり山田ヒロハル青少年は全く立ち直れていなかったようだ。

 彼は現実逃避に走り始めているようだ。

「うるさい! 私は嘘の情報に惑わされたりなんかしない!」

「それじゃあ、確認をしてみて」・・・・・・ピクピク

 キャサリン氏は、持っていた松本氏の個人情報が書いてあると思われるファイルを山田ヒロハル青少年の前に突きつけた。

「ひぃい!」

「これで、松本エリナさんに・・・・・・ピクピク連絡するのよ」

「そ、そそそそそそそんななななななななんて言えば良いんだ!」

「ユウキさん宛の手紙を渡したいから、って言えば会えるのではないのかしら・・・・・・ピクピク? 山田君は松本エリナさんに会って告白するのでしょ?」

「まままま待ってくれ! そそそそんなこここここ告白だなんて、ままままままだここここここ心のじゅじゅじゅじゅ準備がががががが」

 山田ヒロハル青少年が緊張のあまりガクブル震えていると、キャサリン氏のネコミミがピンと立つ。彼女の青く光る三白眼がいつもよりつり上がったように見えた。

「人類の命運が掛かっているのだから・・・・・・ピクピクやりなさい」

「……はい」

 こうして、我々は松本氏の電話番号を探すこととなる。



 そして、見つけた。

 山田ヒロハル青少年は何度か駄々をコネたが、我々の説得と幾度かのお手洗いを済ませ、ようやく携帯電話から松本氏の元へと連絡することとなった。

「ああ、ああ、どうすれば……どうすれば……」

 コール音が響く中、山田ヒロハル青少年の鼓動は早まっていく。尋常ではない手汗と手の震え、今すぐにでも切りたいという衝動に駆られていく。

 上手く声を出せる自信がなくなっていく。

 第一声から失敗してしまうのではないか……失言をしてしまうのではないか……

 考えネガティブな方向へ向かい、視界が霞んでいく。

 だが……

「……っ!」

 突然、キャサリン氏に手を捕まれた。

 そして、優しく手の甲を撫でられる。

 山田ヒロハル青少年は何をしているのか聞きたがっているようだ。

「緊張しないおまじないよ……お婆ちゃんに・・・・・・ピクピクよくされてたから……」

「……キャサリン君」

 山田ヒロハル青少年がキャサリン氏のことを見つめていると、ガチャという音が受話器から聞こえた。

 どうやら電話先の相手が出てきたようだ。

「も、もしもし! 松本さんのお、お宅でしょうか!」

 上ずった声を上げる山田ヒロハル青少年。

 だが、ちゃんと言葉は通じたらしく、相手側から返答が帰ってくる。

 が――

「あー、はい、松本ですけど……」なんだよこんな日に……新聞の勧誘なら切るぞ

 電話から松本エリナ氏ではない、聞いたことのないの声が出てきたのだ。

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