ビースト・レボリューション!(2/2)

 我々は、山田ヒロハル青少年等が通う校門の前にたどり着いた。学校までの道中、警察官以外誰ともすれ違うことがなかった。

 すれ違った警察官も……

「こら君達、これから隕石が落ちて来るらしいぞ。危あ~、早く仕事終わらせて生涯最後の冷たいビールが飲みてぇ~ないから早く帰りなさい」

 と、適当な具合で注意するだけであった。


「何というか、みんな短絡的過ぎやしないか?ニュースで言っていたことを鵜呑みにし過ぎだ」

 我々はその死を回避する手段を知っているのだ。心情がまるで違うのは確かだ。

「それにしても極端な気が……」

 何はともあれ、我々は学校に到着した。

 見たところ校内には人っ子一人おらず、ついでに校門前には張り紙があった。

 山田ヒロハル青少年がその張り紙をのぞき込むと、隕石落下に伴い休校! と書かれていた。

「大変ね、これでは松本エリナさ・・・・・・ピクピクんに会えないわ」

「そ、そんなあああああああ!」

 山田ヒロハル青少年は松本氏の連絡先を知らない。

 詰みである。

「山田君。連絡先を交換してい・・・・・・ピクピクなかったの?」

 連絡先はおろか、交際経験、趣味、好物、ありとあらゆる松本氏の情報を持ち合わせていない。

「そ、そんなもの、どうやって聞けば良いと言うんだ! ああああああああああああ!」

「……」・・・・・・ピクピク

 キャサリン氏はネコミミをピクつかせながら考える。

 しばらくした後……

「職員室に行って名簿を探しましょ。学内の生徒に関する情・・・・・・ピクピク報が載っている資料があるはずよ」

 と、結局学校に乗り込むこととなった。



 何だかんだ職員室の前に到着した。

「し、しかし、先生方がいないから鍵が開いてないぞ、職員室にどうやって侵入するんだ?」

 すると、キャサリン氏が斜め上を指さす。

「上窓が開いているわ。あそこから・・・・・・ピクピクなら入れるかも」

 確かに上窓は開いている。

 だが、山田ヒロハル青少年が手を伸ばして、やっと届く高さはある。

「どこかに脚立がないか探し・・・・・・ピクピクましょうか」

 やれやれ、我が輩の出番のようだな。

「ん? どうしたんだデブネコ君?」

 山田ヒロハル青少年よ。これから物理干渉をしようと思う。感情を高ぶらせてくれ。

「え?」

「デブネコさんの力で、私を・・・・・・ピクピク持ち上げるのね」

 そうである。その為に山田ヒロハル青少年の感情が必要なのだ。

「いやいや、感情を高ぶらせろと言われてもだな……」

 うーむ……試しに松本氏と仲良くしている想像をしてみるのだ。それが最も力を発揮出来るだろう。

「松本先輩を……」

 山田ヒロハル青少年は目を閉じ、松本氏以外の雑念を取り払っていく。

 おぉ! この力、感じるぞ! 松本氏に膝枕された上に耳掻きをされる力を!

「実況しなくて良い! 早く済ませるんだ!」

 我が輩は立ち上がり前足でキャサリン氏を持ち上げること成功した。

「ありがとうデブネコさん、・・・・・・ピクピク山田君」

 おぉ! また力が溢れてくる! 山田ヒロハル青少年が見上げた際に、キャサリン氏の水玉模様の下着を見たことにより沸き上がった力だ!

「……山田君。一応恥ずかしいから、あ・・・・・・ピクピクまり見ないでほしいのだけど」

「ち、違う! 不可抗力だ!」


 キャサリン氏を職員室の中に入れることに成功した。

 内側からは簡単にドアが開けられ、これで容易に出入りが出来るようになった。

「うーん……資料を探し出すのに少し時・・・・・・ピクピク間が掛かりそうね」

 確かに、教師達の机には数え切れないほどの資料の数が立てられており、その近くの本棚にも膨大な資料の数々があった。

「私も探そう、たぶん三年担任の先生の机を探せば見つかるかもしれない。もしくは重要な資料は、確かあの棚に入っていたはずだ」

 山田ヒロハル青少年はそれぞれ探索場所を指示するとキャサリン氏は一つ頷く。

「なるほどね、なら山田君は松本エリナさん・・・・・・ピクピクの教室か会議室に行って」

 突然の分担する提案に山田ヒロハル青少年は戸惑う。

「な、何故だ? 二人で探した方が効率が良いのでは?」

「探す場所が分かれば一人で出来るわ。それより、もしか・・・・・・ピクピクしたら可能性は低いけど、松本エリナさんが学校に来ているかもしれない」

「松本先輩が?」

「ええ、会えたなら、そっちの・・・・・・ピクピク方が手っ取り早いでしょ?」

 確かに、探す場所が明確に決まっていれば、悪くはない提案である。

「しかし……こんな緊急事態だ。火事場泥棒のだって学校に入り込んむことだって考えられる。キャサリン君一人にさせるのはちょっと……」

 そんなことを行っていると、キャサリン氏は無理矢理山田ヒロハル青少年を廊下へと押し出す。

「松本エリアさんが、この学校に来ているなら彼女も同じ・・・・・・ピクピク状況かもしれないわ。山田君、私と松本エリナさん、どっちの方が大事なの?」

「そ、それは……」

 そんなことを言われても、山田ヒロハル青少年はどっちがなんて決められなかった。確かに松本氏がここに居るなら早く向かいたいが、居ない可能性の方が高い。その間にキャサリン氏が襲われでもしたら……と、彼は考えているのである。

 キャサリン氏はネコミミを動かしながら――

「私ならネコの声が聞こえるから大丈夫よ。誰かが近づ・・・・・・ピクピクいて来てもすぐ分かるから」

「いや、しかしだな……」

ほら、行って・・・・・・ピクピク

 と、職員室のドアを閉められてしまった。



 我が輩と山田ヒロハル青少年は、とりあえず松本氏の教室に向かった。

「なあ、デブネコ君」

 何かね、山田ヒロハル青少年よ。

「松本先輩にもし出会えたら……私は、なんて言えば良いのだろうか?」

 ふむ、率直に世界を救う為、接吻、もしくは性行為をさせてほしいと頼めば良いのではないのだろうか?

「率直過ぎるだろ! 何というか……どうせ、告白しても無理なのものは分かっているのだが……ベストは尽くしたいんだ。上手い口説き文句みたいな物があれば教えて欲しい」

 松本氏の趣味趣向が分からない限り、それに対する最適解を我が輩は出すことなど出来ない。それこそ、日々松本氏から情報を聞き出すべきだったのだ。

「ぐぬぬ……」

 我が輩は、単純な物が好ましいと思うぞ。長文で複雑性のあるものより与える印象が大きくなり、人間の脳に言葉を入れやすくなる。

 好きです。付き合ってください。ここらへんが妥当だと思うのだが?

「やっぱり、そうなるよな……」

 溜め息を吐いても仕方ないのだ山田ヒロハル青少年。カッコをつけたって、上手くいかないものは元から決まっているのだ。

 最初から上手く行っていなければ、大概のことは成功までたどり着かないのだ。

「そんなこと言われなくても分かっている。それでも、ちゃんとやりたいんだ。上手く行いかなくても、最高の言葉で最善を尽くしたいんだ」

 なら、自分で考えるのだ。我が輩の教えた言葉を使ってしまったら、我が輩の言葉になってしまう。

「……」

 山田ヒロハル青少年はそれを望んではいないのだろ?

「……そうだな」

 そう難しく考えることはない、山田ヒロハル青少年。我が輩が何も言葉を発さない程の純粋な気持ちを松本氏に伝えてやればよいのだ。そっちの方が、スッキリすると思うぞ。

「……ありがとう、デブネコ君」

 なに、礼には及ばない。当然のことを言ったまでだ。松本氏への告白を切っ掛けに、君の中にある恐怖をふっしょく出来ればいいのだ。例え結果が好ましくなくとも、人類が滅亡する寸前でも、最後は山田ヒロハル青少年がスッキリすればそれで良いと思っている。

「……」


あ~あ、マジちょーだるいんですけどー」ああ~、ちょ~暇なんですけど~


 突然の女の子の声とネコの声が廊下に響き渡る。

「い、今のは?」

 どうやら、我々以外にもこの学校に来た者が居るらしい。

「だ、誰なんだソイツは! まさか、さっきの話通り不審者が?」

 そこまでは、分からん。

「てか、隕石落ちるってテレビでやってたけど、皆マジ家に居たくないから学校来たのに誰も居ねー、友達全員にもシカトされるし、セフレも全滅。マジありえない!で信じてるんだ……マジうけるんだけど


 言葉の内容から察するに、どうやら学生に思える。

「あ、ああ……どうやら、そうみたいだな」

 声のする方へと歩むと――

「ここは……私の教室じゃないか」

 山田ヒロハル青少年が通う教室の前にたどりついたのだ。

「……誰もいないよね?」そうだ! せっかくだから委員長の席に座っちゃお!

 さらに息を潜め、耳を澄ませてみる。

「はぁ……もう、マジ無理……退屈すぎ」ん~、もう委員長の席にも座れなくなっちゃうんだ……そう考えると少し寂しいかも

「……まさか、この声は」

 そのようだ。

 ここで、山田ヒロハル青少年は記憶をたどっていく。この声色、自分のことを委員長と呼ぶ人物。委員長という言葉は、山田ヒロハル青少年のこと指すものだとこの教室内では常識のように決まっていた。そのようなに呼ぶ人物は沢山いた。自分の席に座っていた経緯のある人物も少なからずいた。

 だが、その中でも印象に残っている人物がいる。いつも友達と連み、何故か山田ヒロハル青少年の席の周りで談話を始め、何故かいつも山田ヒロハル青少年の席を陣取り、「どいて欲しい?」と悪戯な笑みを浮かべる女子高生の姿を……

「……まさか」

 山田ヒロハル青少年はある人物に思い至った。

「そこに誰か居るの?」なんか音が聞こえた気がするんですけど?

どうやら気づかれたようだが?

「そのようだな」

「コソコソ話して、誰なの? そこに居るの気づいせんこうかな? それとも誰も居ないこと良いことに女の子の体操服を盗みにきたヘンタイとか?てるっつうの!」


「……開けるぞ」

 山田ヒロハル青少年は思い切って教室のドアを開けた。そこには、自分の席に座ったチョコプリンのような髪の色をしたサイドテールの女子高生が居た。

「え、ウソ……委員長? なんで? うそ!? マジで!? マジで委員長だ! タイミング良すぎて超うける! こんな日に委員長来ちゃうとか、私ちょーラッキーかも何でこんな日に!?」


 そこには、キョトンとした表情の川崎氏と、その頭にはネコが乗っていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る