残り一日

ビースト・レボリューション!

ビースト・レボリューション!(1/2)

 今日も空は快晴につき、とても暖かく良い日向ぼっこ日和である。朝から頭部にネコを乗せた小鳥達のさえずりと、ほんの少し冷たい微風と若葉の香りが過ぎ去っていく。

 いつもより清々しい登校時間である。

 朝のニュースでは、全ての番組でペパー君がキャスターを行い、安全の為に家から出ないよう避難勧告が常時流れていた。安全な場所など何処にもないと悟ったと思われる人類は、皆外出拒否という選択をとったようで、街中人っ子一人居ない。

 こんなにも道は広かったのだなと、新鮮な気分に浸ってしまう。そうは思わんかね? 山田ヒロハル青少年よ。

「……」

 山田ヒロハル青少年は、昨日のキャサリン氏の言葉で随分と参ってしまったようだ。

 まさか、憧れの松本氏に意中の人物がいたとは……

「言わなくて良い……」

 そう落ち込むことはない。

 山田ヒロハル青少年も心の中では、分かっていたではないか。

 自分が好きな人が、自分のことを好きとは限らないと……

「うるさい……そんなこと、言われなくても分かっている」

 でも、期待していたのだろ?

 もしかしたら、自分のことを好きなのかもと――

「うるさい! いい加減にするんだ! もしかして喧嘩を売っているのか!」

 喧嘩を売っている訳ではない。

 人間誰しも良くある勘違いだと言いたいのだ。

 全く恥じることでもなく、悔やむことでもないのだ。

「ああ、そうさ! 私の恥ずかしい勘違いさ! そんなものずっと前から分かっていた! でも、私はそれでも白黒ハッキリさせたいのだよ!」

「だから明日人類が滅亡するにも関わらず、今日も学校に登校するのよね? ケジメをつけに……」

 我々が登校中の談話を楽しんでいると、後ろからキャサリン氏が近づいてきた。

「おはよう山田君、デブネコさん」

「……おはよう、キャサリン君」

 今日も変わらず美しいな、キャサリン氏。

「ありがとう。それで山田君。昨日私が松本エリナさんに好きな人がいると言った後だけど……話した通りアナタは彼女に告白するって話になったのよね?」

 そう、昨日山田ヒロハル青少年は無謀にも松本氏に愛の告白を行い。唇を奪おうという暴挙に出るという話になったのだ。

「暴挙はない! 唇を奪おうともしていない! 無理なのは当然分かっているが、私が納得したいだけだ! そうすればスッパリと諦めもつく!」

 まあ、まだ時間はある。

 最後の一日になるかもしれないのだから、やりたいことをするべきだ。

「山田君、ちょっと質問があるのだけど良いかしら?」

「な、何かな?」

「好きな人同士じゃないと、アナタはセックス出来ないのよね?」

 朝から性行為の話をするとは、健康的で何よりだと我が輩は感想を述べる。

「ま、まあ、出来ない訳ではなくて、やるべきではないと思っているんだ。軽い気持ちでその……セックスをしてしまって、もし子供が出来てしまったらどうするという話だ」

「ちゃんと避妊したり、本番行為をしなければ良いんじゃないかしら?」

 確かに、あくまで山田ヒロハル青少年が興奮状態の絶頂に達すれば良い話なのだ。絶頂出来れば、種を残す真似事が出来れば良いのである。

「そういうことを言いたいのではない。確かに子供が出来るは言い過ぎたが、もっと互いの身体を重ね合わせることを慎重に思うべきだということだ」

「なら、互いの合意の上でならセックスは大丈夫ってことかしら?」

 それに山田ヒロハル青少年は、待ったと言わんばかり手を前に出す。

「いや、さらに言うと二人が愛し合っている仲であることが重要だ。そうでなくては風俗やセックスフレンドのように、女性を性欲の捌け口のように扱ってしまうだろ」

 女性の胸ばかりを毎日観察して性の捌け口にしていた君は、今矛盾したことを言ったのではないだろうか?

「う、うるさい! だからこそ私は、しっかり貞操概念を持とうと考えているんだ!」

「それじゃあ、肉体関係を持ちたいと思っていて、そこから好きになるか判断する人とならどうかしら? もちろん、その前から好意を少なからず抱いているわ」

 さらに質問を投げかけられたが、山田ヒロハル青少年はどう答えるのだ?

「どうって……キャサリン君、君は何を言いたいんだ?」

「松本エリナさんに告白するより、確実にセックスまで至れて、しかも上手く行けばアナタの言っている愛し合う関係まで発展出来る人を知っているから教えて上げようかと思ったのだけど……」

 つまり、山田ヒロハル青少年に惚れている女性がいるということだな。

「まま、待ってくれ! わ、私のことを想っている女性が本当にいるのか?」

 今まで女性とは殆ど縁がなかった山田ヒロハル青少年には、思ってもみなかったことだ。

「セックスをしてから、恋人になるか決めるって子も中にはいるわ。まあ、山田君の価値観とは相容れないかもしれないけど……知りたいかしら?」

 知りたくて堪らないらしいぞ。

「お、おい! 勝手に言うんじゃないデブネコ君!」

「川崎マコさんよ」

 あのアクセサリーをジャラジャラぶら下げたしっぽの生えたチョコプリン頭の川崎氏であったか。

「……え? あの川崎君が?」

「ええ、彼女のネコがそう言っていたわ。山田君もあの子のことを嫌ってはいなかったみたいだから教えたのだけど……まあ、山田君の話ぶりからして、価値観が全然違うから、もしかしたら上手く行かないかもしれないわね」

 いや、そうでもないかもしれない。

 今の話で、山田ヒロハル青少年の気持ちは、かなりぐらついている。嫌いではない女性から好意を受けていると聞いた時点で、童貞の彼には理性をまともに保っていられるはずがないのである。

 やはり愛し合うやら、恋愛というものは、本能には勝てないのかもしれないな。

「ち、違う! 確かに川崎君のことは嫌いではない! だが、それでも私は松本先輩が好きだ! い、一番好きだ! それは揺るがない!」


「……」・・・・・・ピクピク


 ん? キャサリン氏、その耳はどうしたのだ?

「え? うわ! キャ、キャサリン君! あ、頭の上に……」

「……え?」

 会話の最中、突然キャサリン氏の頭の上にネコの耳が生えてきた。キャサリン氏も驚いたようで、とっさに生えたネコミミを触る。

 すると、ネコミミはキャサリン氏の手を弾くようにピクピクと動いた。

「キャサリン君……これはいったい……」

「ついに、私にも生え・・・・・・ピクピクたのね」

「え? 生えたとは?」

 それは、我々ネコの幼体だ。本来人間が幼い時にネコミミが生え始め、成長に連れて我が輩達のような身体が生えた成体へとなるのだ。

「……想像すると、凄く気色悪いが……そう言えば、キャサリン君の頭にはネコが乗っていなかったな」

 今更ながら、そうなのである。

 本来は感情の情報が媒体となって我々ネコ達は成長するのだが、キャサリン君の頭にはネコが居なかったのだ。

「……私は昔からネコ達が心の声を言いふらしているのを知っていたから、私は無意識に感情をコントロールしてきんだと思う。だから・・・・・・ピクピクこの子は成長出来なかったのかしら?」

 そう言いながら、キャサリン氏は生えたネコミミを指で軽く弾く。

 ネコミミはそれに反応するように縮こまる。

「……」

 山田ヒロハル青少年、キャサリン氏のネコミミ金髪美少女化に見とれていた。

「み、見とれてなんかいない!」

「……話を戻すけど、山田君がそこまで言うなら私も止める権利はないし、松本エリナさんに告白して・・・・・・ピクピクみると良いわ。オススメは出来ないけど」

 いつの間にか、キャサリン氏が先頭を歩く形となっていた。

「キャサリン君、どうして君はそこまで松本先輩か私を遠ざけたがるんだ? 私も付き合えるとか、松本先輩と愛し合えるなんて思ってはいない。ダメ元でも気持ちをちゃんと伝えてスッキリしたい。ただそれだけなのだが……」

 ほぼ可能性がないのにも関わらず、それでも恋仲になろうとする非効率性に注意を促すのは当然のことだと我が輩は思うが……

「そんなものじゃないわ。私が一番恐れているのは……少しでも好かれているかもし・・・・・・ピクピクれないと希望を抱いてしまって……裏切られてしまった時よ」

 キャサリン氏は我々に背中を向け続け、そのまま語る。

「その時の自己嫌悪と絶望を……こ・・・・・・ピクピクんな時に味わう必要ないわ」

 何故か、キャサリン氏の背中が、寂しく思えた。山田ヒロハル青少年は思う。そう言えば、キャサリン氏のことを自分は全然知らないと――

「お、おい、デブネコ君」

「……別に私は興味を持たれる程の人間ではないわ。ただ、自分がこの世界を救える勇者だと勘違いしていて、人と話すのが苦手な痛い女の子よ」

 キャサリン氏は溜め息を吐き、表情は見えないが少しだけこちらに顔を向ける。

「でも、相手がどう思っていても、自分の気持ちをち・・・・・・ピクピクゃんと伝えたいって考え……私は嫌いじゃない」

 彼女のネコミミがピクピクと動く。

「山田君、失敗しても私の身体を貸して上げるわ。だから・・・・・・ピクピク落ち込んだりしないでね」

 とんだビッチだと山田ヒロハル青少年は思った。

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