メテオ・ストライク!
メテオ・ストライク!(1/3)
山田ヒロハル青少年の部屋に我々は来た。
「と、取りあえず、そ、そこに座ってくれないか、キャサリン君」
キャサリン氏……いや、女性を自室に連れ込んだことのなかった山田ヒロハル青少年は、緊張のあまり、手から汗を過剰分泌する。
「よ、余計な解説をしなくて良い! このデブネコめ!」
何はともあれ、皆で一度冷静になるべきである。我が輩ネコ達には正直危機感が薄い事象だが、一応この惑星がまた新たに大きな環境変化が起こることになった。
君達人類にとっては重大な分岐点である。
「な、何だその他人事みたいな言い方は……」
言い方が気に食わなかったのなら謝ろう。
ふむ……もう少し詳しく説明するなら、君達人類が滅亡しても、栄養源が乏しくなるだけで我々は滅びない。
他人事であるのは事実だ。
だが別に我々ネコ達も、君達人類に滅んでほしいとは思ってはいない。
この宇宙の中でも、貴重な知的生命体の一端だ。我々情報を
この関係を続けていきたい上に、我が輩個人の意見としては、君達人類に少なからず愛着のようなものを持っていることは確かである。
「本当にそうなのか? 油断させて私達を食べようとしているのだはないか? 現に私はさっきあの大きなトラに食べられかけたんだぞ!」
さっきの松本氏を苗木にしていた同胞は、山田ヒロハル青少年の情報を読みとろうとしていたのだろう。
別に、山田ヒロハル青少年を補食しようとは思ってはいなかったのだ。
「その証拠はどこにあるんだ? 君達みたいな喋るネコのことなんて、信用できるわけないだろ!」
信用するもなにも、我が輩は事実を伝えているだけだ。あえて証拠を上げるなら、我が輩の存在こそが証明と言えないだろうか?
「いや、だからな……」
だが、しかし……
「私から話すわ……話……進まなそうだから」
我が輩達が言い争いをしている中、ぼーっと座ってたキャサリン氏が制止してくれた。
人間との対話に不向きな我が輩に代わり、キャサリン氏が解説を入れた方がまだ分かりやすいであろう。
「デブネコ君……キャサリン君の厚意に感謝しよう」
感謝する。
「……」
改めて、キャサリン氏が座り直した。
「私達に見えているネコ達は、簡単に言うと宇宙から来た幽霊みたいなものよ」
「幽霊?」
「もっとちゃんと言うと、幽霊の身体と同じ性質を持った宇宙人って感じ」
君達人類と我々のいる次元断層はそもそも違う。ただその層は薄い為、君達の居る次元断層に干渉出来る点を考えれば、キャサリン氏の言う一般的な幽霊という存在と我々は似通った存在なのかもしれない。
故にキャサリン氏、我が輩はそれを良い例えだと思うぞ。
「キャサリン君、話がややこしくなるから気にせず続けてくれ」
「ええ……ともかく、このネコ達は私達に敵意は無いわ。むしろ協力的なネコの方が多い気がする」
山田ヒロハル青少年は少し考え込んだ後に――
「分からないが、とりあえずこの頭の上に乗っているネコ達は、ネコの形をした宇宙幽霊ということなんだな?」
要約理解にまで至ったようだ。
「デブネコ君、私は別に理解した訳ではない。いろいろ妥協して納得しただけだ」
今はそれでも構わない。
キャサリン氏が、さらに続ける。
「そして、この子達は、人間の……生命体の意識を餌にして成長するのよ」
「意識?」
簡単に言うと、思考と言った方が良いかもしれない。
山田ヒロハル青少年は今”何を言っているんだ?”と考えたであろう?
それは君の脳が生み出し情報であり、それこそが我々ネコ達の栄養源に
なっている。
「山田ヒロハル・セイショウネン君も見たでしょ? 人や動物の頭の上に乗っかっているネコ達が、人の考えていることを発していたのを……ああやってネコ達は成長していくの」
ネコの出す言葉は、吸収した情報を排出しているのだ。
そして、宿り木となった生物が死を迎えると同時に我々記憶を引き継ぎつつ空中で分散し、生物でいうところの卵のような物を放出して種を繁栄させているのだ。
「聞けば聞くほど、異質さを感じさせる生き物だが、話を聞く限り寄生した植物に似ているな……」
「そうね……宿主の思想や感情によって、同じ種でも形や性格を変える所は似ているかも。ポジティブな人には明るい子に育つし、よく考えたりする人には養分が多いせいで大きな子に育つわ。その子みたいにね」
と、キャサリン氏は我が輩のことを指さす。
おっしゃる通り、山田ヒロハル青少年は煩悩の固まりであり、日々女性の身体についての探求意外に余念がないと言っても過言ではないのだ。
「余計なことを言うんじゃない!」
我が輩は感謝しているのだ。
君がよく考え、悩む人間であったからこそ、ここまで成長したのだ。
ふと、山田ヒロハル青少年はあることに気がつく。
「……すまない、一つ聞きたいのだが……放課後、私と一緒にいた松本先輩にも頭の上にネコ……いや、トラが付いていたな、大きな奴が……」
「ええ、付いていたわね。あれも形は大きく変わっていたけどネコよ」
山田ヒロハル青少年の
それに対して、キャサリン氏は少しだけ考える。
「確かに性格が悪いと、ああいう性格になるかもしれないけど……あの大きさを見ると、何かストレスを抱えているのではないかしら?ちゃんと本人に確認しないと分からないけど、今まで見てきた傾向から言ったらそんな気がするわ」
「ストレス?」
あの優しい松本氏が、ストレスを抱えていたのだろうか?
そんなことを考え出す山田ヒロハル青少年だが、答えが出るはずもなかった。
しばらく、あれやこれやと細かいことを聞いていき、山田ヒロハル青少年が思う大きな疑問が二つ出てくる。
一つ目は、何故自分とキャサリン氏がネコ達を見ることが出来るのか?
二つ目は、キャサリン氏の発言の中にあった隕石に関してである。
「まず、ネコが見えることは特別ではないわ。私は、産まれた時から見えていたし、山田ヒロハル・セイショウネン君みたいに後天的に見えるようになる人もいるの」
「……すまない、話の腰を折るのだが、私の名前の下に青少年は付けなくて良い」
言い忘れていたが、山田ヒロハル青少年の名は山田ヒロハル青少年ではない。正確には山田ヒロハルが正しい。
「そうなの? アナタのネコがそう呼んでるから、テッキリ名前の一部だと思って……」
「ずっと気になっていたのだが、やはりか……」
「ごめんなさい、これからは山田ヒロハル君と呼ぶわ。よろしくね山田ヒロハル君」
「名字だけで良い」
我が輩は、敬意を持って山田ヒロハル青少年と呼ばせてもらうが宜しいかね?
「ああ、君はもうどっちでも良い。それで話を戻すが……そんなにネコが見える人々が居るのか?」
「ええ、テレビにも結構見えている人達が出ているわ」
「は!? テ、テレビに!?」
そう彼が聞くとキャサリン氏は、山田ヒロハル青少年の部屋に備え付けられたテレビの電源をおもむろに入れる。
適当にチャンネルを切り替えていくと、超能力者特集の番組が写し出される。
番組に映し出された人達には、案の定ネコ達がスタッフ達の頭の上に乗っていた。
”「このスプーン!
映像の中で、スプーンを持った男が力むと、頭の上に乗ったネコが、やれやれといった表情で前足をスプーンに押し当て、無理矢理スプーンをねじ曲げた。
テレビ内の会場からは、歓声が上がっていた。
「……」
山田ヒロハル青少年が呆然としていると、キャサリン氏はさらにチャンネルを切り替える。
すると、今度は心霊特集を取り上げた番組を映し出す。
どうやら、ラップ音やポルターガイスト現象に悩まされている女性を取材しているようだ。
”「ここに引っ
と、画面に写されている部屋の物が吹っ飛ばされていく。原因は、超常現象に悩まされている人物の上に居るネコが、ストレスが溜まっているらしく、頭の上で暴れ狂い、足や尻尾が物に当たって吹き飛んでいるのである。
”「……なるほど! この家には
除霊師の頭に乗っているネコが、荒れ狂うネコを攻撃する。そのままキャットファイトへともつれ込む。
”「くっ……これは骨が折
我々は呆然と、テレビを眺め続ける。
「何なんだこの茶番は……」
山田ヒロハル青少年は呆れ果て、物も言えないのであった。
「この人達は、ネコを使ってお金儲けしている人達……もっと悪いことをしている人もいる」
淡々とキャサリン氏は語る。
他にも、ネコが発する。人間の内側の声を聞き、言葉巧みその人操る詐欺行為や、宗教勧誘。
世界ではもっとえげつないことも行われていること我が輩は知っている。
どうだ、山田ヒロハル青少年。
世界にはびこる超常現象は、ほとんど我々の物理干渉が引き起こしているのだ。
この世界の理解不能の現象も、これで解決してスッキリしたのではないか?
「ああ……もう、訳が分からん……」
「……ネコは、昔からこの世界住んでいたの。そして、人類……いえ、この星を見守り続けていた存在なのよ」
キャサリン氏は、山田ヒロハル青少年を真っ直ぐに見つめる。
「ネコが見えるのは、特殊なことではないと私は思ってる……誰もが見ようとすれば見えるものだったってことよ」
「……それじゃあ、何で私が見えるようになったんだ?」
それに関しては我が輩から話した方が良いだろう。
この世の生物は元々、別次元層の存在を関知する能力を持っている。感知能力はこの世界で生きる限り、別次元層にほぼ外敵が存在しなかった為、進化の過程で退化したのだろう。
だが、本能の中に眠ったそれは時折目を覚ますことがある。山田ヒロハル青少年の感覚は、強い衝撃を与えられ、その本能を呼び覚まされたに過ぎないのだ。
「すまん、分かりやすく頼む」
「頭を打ったら、幽霊ネコが見えるようになったの」
「都合が良すぎないか?」
因果律なのど、そんなものである。
……すぐに理解してと言っても、やっぱり無理みたいね……」
キャサリン氏は、部屋の床を見つめた。
どちらにしろ、我々の存在を一から説明している暇などないのではないだろうか?
「キャサリン君、たぶん私にネコについて説明しても全てを理解し、受け入れることは無理だ。だが、君の言っていることは嘘でないことは分かる」
そう言うと、彼女は顔を上げた。
「そう……ありがとう」
山田ヒロハル青少年は続ける。
「……少し休憩しよう。休憩した後に今度は隕石について話そう」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます