セカンドサイト・ガール!(2/2)
キャサリン氏は、周囲から浮いた存在となっていた。
人とあまり関わろうとしない。
いつも、上の空。関わっても変なことを言ってくる。
最近では……
「転校して来た外国人の子の噂なんだけど……なんか、人の考えてることを言葉にしなくても、分かるらしいよ……」
「えー何それ? あの子超能力使えるの?」
「らしいよ? ヤバくない?」
「超ヤバい! 日本侵略しに来てたりして! うける!」
と、
「……」
そんなこんなで山田ヒロハル青少年が、日の暮れる帰り際の下駄箱で、女子高生等の世間話を立ち聞きしていると――
「おっす! 委員長! 今帰るところ?」
「うお!? か、川崎君?」
後ろから、女子高生に話し掛けられた。
彼女はの名は川崎マコと言い、山田ヒロハル青少年と時々話す数少ない女性だ。
サイドテールと言われているアンバランスな髪型、茶色の髪の色が途中で黒くなっており、まるで尻尾の生えたチョコプリンようだと山田ヒロハル青少年は日々思っていた。
川崎氏の顔には薄く化粧を施し、玩具のような装飾をジャラジャラと身に纏った、光沢を散りばめ人を殺傷出来る程長い爪を持った女子高校生である。
「ちょっと! 驚き過ぎじゃない? ……まあ良いや、ねぇ委員長、今から友達とカラオケ行くんだけど一緒に来る?」
「あ、い、いや、私は……」
「うん知ってる! いつも来ないし、ただ誘ってみただけだから気にしないで! じゃ! 勉強がんばってねー」
山田ヒロハル青少年の背中を叩き、川崎氏は楽しそうに外へ出て行く。
「……はぁ」
山田ヒロハル青少年は溜息を漏らし、叩かれた拍子にズレた眼鏡を直す。
彼は同じ人間同士にも関わらず、女性に対してのコミュニケーションの際は緊張してしまうのだ。
特に女性は、どうしても性対象に見てしまい、嫌われないようにと気を使ってしまうのだ。
そして今、川崎氏は特に会いたくない人物だったのだ。
「……」
山田ヒロハル青少年は周囲を見渡す。
周りに気を配り、誰も居ないことを確認。
そして、鞄の中から靴を取り出した。
もちろん自分の物ではない。
キャサリン氏の靴である。
見つけた場所は、校舎裏の焼却炉の中で、ある物と一緒に発見したのだ。山田ヒロハル青少年は、ゆっくり靴をキャサリン氏の下駄箱へ戻す。
「……何をやっているんだ、私は」
彼は罪悪感のあまり、下駄箱の縁に自ら頭をぶつけた。
キャサリン氏の盗難品を見つけ。こっそり返したことは、単なる善意である。
だが、キャサリン氏が虐められている事実を隠蔽する悪意でもある。
彼は、それを注意しなくてはならない立場にある人間なのだが、
このことを公表すれば、当然問題になる。
犯人探しが始まり、教室の空気が悪くなる。
しかも靴とは別に、犯人の証拠品のような物まで拾ってしまったのだ。
「ああ……どうすれば一番丸く収まるんだ……」
山田ヒロハル青少年は頭を抱える。
虐めを取り締まり、善人を気取りたい訳でもなく。
だが、悪に加担したくはない。
ただ何も起こらない、可もなく不可もない、ただの平和を維持したい。
それが彼の望みなのだった。
「山田ヒロハル……せいしょうねん君?」
「うおおおおおお!」
突然山田ヒロハル青少年に声が掛けられる。
彼は驚きの余り、雄叫びを上げながら振り向くと、そこにはなんと、あのキラキラ輝く美しい髪の不思議系少女キャサリン氏が立っていたのだ。
「……こんにちは」
「あ、こ、こんにちは……いやいや! き、君は、いつからそこに居たんだ!」
「今さっき」
彼女は淡々と答える。
山田ヒロハル青少年は息を整えようとする。
だが、キャサリン氏は彼の腕を指さす。
「何で私の靴を持っているの?」
「ああああああああ!」
不覚にも、焼却炉に隠されていた靴を元に戻そうとしていたが、罪悪感に打ちひしがれる余り、キャサリン氏の靴を手放すことを忘れていたのだ。
全く持って不器用な男である。
「……」
「こ、これは……そう!私は自分の下駄箱の位置を間違ってしまったのさ!」
大嘘を吐きながら眼鏡のズレを元に戻し、大げさに笑って見せる。
「はっはっは! いや~私としたことが、うっかりしてしまった! うっかりうっかり! はははは!」
彼は我ながら上手く誤魔化せと確信した。
何とか靴を隠されていたことさえ分からなければそれで良い。
嘘を吐くのは心苦しいが、ここで素直に靴を隠されていたなんてことを言えば、わざわざイギリスから来て、まだ間もなく、心細いであろうキャサリン氏が悲しむのは目に見えている。
「……」
「そ、それでは、私はこれで失礼するよ!」
一生懸命笑顔を取り繕い、山田ヒロハル青少年はその場から立ち去ろうとする。
「……ありがとう」
「え?」
唐突にキャサリン氏からお礼を言われ、彼は振り向く。
すると、彼女は自分の下駄箱の中をジッと見つめていた。実に変わった子だと、山田ヒロハル青少年はこの時までは思っていた。
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