残り二日

エイリアン・アブダクション!

エイリアン・アブダクション!(1/4)

 あれから数日が経ち、何も突出した出来事のない平和な日々を過ごしていた。

 ……いや、唯一変わったことと言えば、キャサリン氏が山田ヒロハル青少年のことを物陰からジーッと見つめていることが度々あったぐらいであろう。

 不審に思い、山田ヒロハル青少年は本人に注意をしたのだが、その場では素直に頷くものの、日を改めてまた監視を続行されていた。

 他にもキャサリン氏は――

 近辺の動物達に話しかけている。

 教室で寝ている者に話しかけている。

 山田ヒロハル青少年を含む、多数の生徒の情報を聞き込んでいた。

 など、奇っ怪な行動がさらに多く目撃されており、周りからはちょっと不思議な少女から、カルト的感性を持った電波少女、またはイギリスから日本を侵略しに来たサイキックエージェント……と、ありとあらゆる彼女に対しての憶測が形を変え飛躍し、校内の上空を飛び交っていた。

 何はともあれ山田ヒロハル青少年とって、キャサリン氏という存在は、同じクラスの委員長として悩みの種となっていはいた。


「ごめんなさい山田君。この資料を職員室まで一緒に持って行ってほしいのだけれど……」

「は、はい! 喜んで!」

 今現在、山田ヒロハル青少年は学内の会議室にて、委員会の仕事を行っていた。

 問題児のキャサリン氏のことに悩みふけっていると、書類を抱えた先輩である女子高校生から声を掛けられる。

 彼は、飛び上がるように起立する。



 橙色の日差し指す廊下を、先輩と書類の束を抱えて歩く山田ヒロハル青少年。

 先程彼に頼んだこの先輩女子高生は松本エリナという名で、学級委員を勤めているこの学校内では有名な人物である。

「いつも力仕事を頼んでしまってごめんなさい。山田君、無理しないでね?」

 と、山田ヒロハル青少年に優しく問いかける。

 彼女は、山田ヒロハル青少年より二つ年上で、物腰がとても落ち着いている。

 黒くふんわりとし長い髪を靡かせ、慈母のように優しく微笑んで見せる。まるで松本氏の後ろから後光が差すように眩しく見えた。

 彼女の後ろを歩いていた山田ヒロハル青少年は、その彼女の神々しさと残り香も相まって、昇天してしまいそうな幸福感を得ていた。


 彼は、松本氏に好意を抱いているのだ。


 松本氏は女性として、男性を魅了することが出来る体質を持っている。

 客観的見解を通しても、彼女に近づこうとする男性は沢山いた。

 だが、山田ヒロハル青少年は近づこうとしない。

 高嶺の花だと思っている節はあるのだが、不思議なことに彼は彼女に対してのみ、性的な興奮を覚えたりしない。寧ろその思考を拒絶しているのだ。

 彼女のことを一日一回視界に入れただけで、彼に溜まったストレスが緩和されていくのである。

 そして、彼はこう願っていた。


 ずっとこのままで良いと――


 山田ヒロハル青少年は松本氏に対して絶大な好意を抱いているのにも関わらず、現状の維持を何より優先しているのだ。

 誠に不思議でならない。

「山田君大丈夫? 重くないかしら?」

「は、ははは! これぐらい大丈夫ですよ! 何なら松本さんの分も、僕が持ちますよ!」

 大げさに笑って見せるが、持っている分量は中々多い。彼の限界に近い。

「ふふ、ありがとう山田君。でも平気よ、早く運んじゃいましょうか」

 ああ……このまま一生荷物運びしていたい。

 彼は、切実にそんなことを願っていた。



「うるさい! 黙れ!」

「……」


 彼等が廊下の階段に差し掛かった時に階段の登りから怒声が響く。

「な、何かしら?」

「い、いったいなんだ?」

 二人が見上げた時、

「え?」

 山田ヒロハル青少年に向かって、女子高生が上の階から落ちてきたのだ。

 長い金髪に小柄な後ろ姿、一目でそれがキャサリン氏だと分かった。

「あ、危ない!」

 山田ヒロハル青少年は咄嗟に受け止めようとするが……

「あ……あ?」

 キャサリン氏が一瞬だけ、階段に着地する。

 それを見た山田ヒロハル青少年は間抜けな声を出し、呆気にとられた。

 しかし――

「……あ」

「う、うわああああ!」

 結局、キャサリン氏は小さな声を漏らしながら階段を踏み外し、山田ヒロハル青少年に倒れ込む。

 彼は何とか受け止めようと、持っていた資料の束を全て投げ捨てる。

 紙面が吹き上がるように舞い散る中、何とか彼女を受け止めることが出来る。

「うっ!」

 だが、キャサリン氏の後頭部が彼の鼻っぱしに激突し、そのまま彼は後頭部を地面にぶつけてしまう。

 その衝撃で、彼は意識を……

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