第六章 愛の行方は――。
第554話 愛の行方は――。①
「何か騒がしいわね?」
その時。アリシアは街の騒々しさに眉根を寄せた。
彼女は今、市街区を歩いていた。
店舗が並ぶいつもと変わらない光景。
しかし、どこか騒々しい。
恐らく、第三騎士団の騎士たちの姿をよく見かけるからだろうか。
すれ違う彼らは誰もが少し緊張した面持ちだった。
「何かあったのかしら?」
そう尋ねる。
しかし、返事はない。
アリシアは隣に目をやった。
そこには自分と一緒に歩く幼馴染の姿があった。
手には銀色のヘルム。アリシアと同じ制服の上に、短い赤
サーシャ=フラムである。
「ねえ。サーシャ」
「…………」
アリシアが再び声を掛けるが、サーシャから返答はない。
「ねえ。サーシャ」
「…………」
さらに声を掛けるが、無反応だ。
サーシャの顔は、心ここにあらずで明らかに憔悴していた。
アリシアは「むむ」とジト目を向けた。
そして、
――むにィ、と。
サーシャの片頬をつねった。
流石にサーシャの「ふえ!?」と目を剥いた。
思わずその場で足を止めた。
「な、何するの? アリシア?」
「何するのじゃないわよ」
アリシアはサーシャの頬から手を離して言う。
「さっきから話しかけているのに全然反応ないし」
「ご、ごめん」
つねられた頬を手で押さえてサーシャは謝る。
「ちょっと考え事してて」
「ちょっとどころじゃないでしょう」
アリシアは嘆息する。
「ここ数日はずっとそうだし」
「……う」
「どうせ今もアッシュさんのことを考えてたんでしょう?」
「……うゥ」
アリシアの指摘にサーシャは呻くだけだ。
「全くもう」
アリシアは不満そうに頬を膨らませた。
「あなたとオトハさん。ステージⅢ組は出発前に凄く甘えたんでしょう?」
言って、今度はサーシャの両頬を掴んだ。
サーシャは「むぐう」と唸った。
「未だステージⅠの私に比べれば無茶くちゃ恵まれてるじゃない」
「け、けどォ」
何やら反論しようとするサーシャに、
「けどじゃないわ」
アシリアは青筋を立てて告げる。
「改めて思うと、本当に悔しいわ。ねえ、サーシャ」
ブスッとした表情でアシリアは問う。
「今回の出立前に何回ぐらいアッシュさんとエッチしたの?」
「……え?」
サーシャは一瞬キョトンとするが、
「ひあっ!?」
問われた内容を送れて理解して顔を真っ赤にした。
一方、アリシアはますます不満そうな顔を見せて。
「例えば、こないだ講習終わったらこっそり出ていったじゃない」
「そ、そうだったかな?」
琥珀色の眼差しを泳がせて視線を逸らすサーシャ。
「あの日って特に用事もなかったはずよね? どこに行ったの? そもそもなんでこっそり抜け出すみたいに出ていったのよ」
「さ、さあ?」
サーシャの瞳はさらに泳ぎ始めていた。
「え、えっと、うん。もう憶えてなくて」
この期に及んでそんなことを言う幼馴染に、アリシアは深々と嘆息した。
「まったく。もう別に隠さなくてもいいわよ。というよりも、まだステージⅠの私に気を遣っているんでしょう?」
「……う」
言葉を詰まらせるサーシャ。
対し、アリシアはようやくサーシャの両頬を離して、
「それは気遣い方が間違っているわよ。私ももう
アリシアはやや頬を赤らめて言う。
「私も一気にステージⅢに行けるように手伝ってよ」
「……う。確かに」
何となくサーシャは納得する。
アリシアは続けて嘆息した。
「だって、今回の件でシャルロットさんもステージⅢに行くだろうし、そうなると未到達者はミランシャさんと私。そしてユーリィちゃんとルカになるわ。けど」
一拍おいて。
「たぶんミランシャさんは戻ってきたらもう確定だわ。残されるのは私たち三人になる。けど、私たち年少組は年長組とは大きなハードルの差があるのよ」
アリシアは、サーシャの肩を掴んで見つめた。
「だから、サーシャにはもっと協力して欲しいのよ。今回はルカとユーリィちゃんも同行しているけど、シャルロットさんと違ってきっと何の進展もないだろうし……」
今までの経験からそう告げるが、サーシャは少し神妙そうな顔をした。
唇に手を当てて、少し物思いに浸る。
そして、
「……そうかな?」
「……え?」
アリシアは目を瞬かせる。
「えっとね」
サーシャは言葉を続けた。
「私、ここ数日考えてたの。アリシアの言う通り年少組のハードルは高いよ」
一拍おいて。
「特にアッシュのユーリィちゃんに対する想いはまだまだ『娘』だから。ユーリィちゃんのハードルは一番高い。けど……」
唇に片手を当てて、サーシャは言う。
「ルカはどうかな?」
「え? ルカ?」
アリシアは驚いた顔をした。
「え? 確かにルカはおっぱいとか私より上だけど、まだ子供っぽいし……」
そんな
「いつまでも子供扱いは出来ないよ。小さな村とか、逆に貴族とかでも早婚で十五歳ぐらいでも花嫁って話も普通によくあることだよ」
一呼吸入れて、
「それにアリシア。忘れてない?」
サーシャは微苦笑を浮かべた。
「
「……あ」
アリシアは軽く目を瞠った。
「ルカには確かにまだ幼さがあるよ。同い年のユーリィちゃんにも。けど、ルカにはそれ以上に強かさもあるんだよ」
賢王と呼ばれるルカの父のアティス王も、穏やかさの中に強さを持つ人物だった。
ルカもその才を強く受け継いでいるのかも知れない。
「だってルカって」
一緒に育った姉貴分としての経験。
そして少女ではない『女』としての直感でサーシャは告げる。
「こうと決めたら、すっごく大胆で行動的な子なんだよ」
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