第345話 そして再会④

「――うおおおおおおおおおおッ!」


 エドワードが、両の拳を握りしめて絶叫を上げた。


「凄え! マジであいつ学生か!」


 純粋なる羨望の眼差しで、黒髪の少年を見つめた。

 悪竜の騎士に乗っていた少年と少女は、エリーズからの来訪者達の元にいた。

 リーゼ達の方から、駆け寄ったのである。

 遠目からだと、何やら涙ぐんでいるように見えるリーゼとルカ、神妙な顔つきのジェイクや、シャルロットに囲まれ、ミランシャには、首を抱きしめられている。

 困った顔をする少年の腰には、小さなメイドさんもしがみついていた。

 メルティアはとても優しい眼差しで少年を見つめ、ゴーレム達は、そんな彼女を守るように控えている。

 傍目からでも分かる、とても和やか雰囲気だった。

 なお、アッシュの方といえば、まだ戦闘をした場所で、オトハと話し込んでいた。

 アッシュもまた、何故か困った顔をしていた。

 どうも、オトハが何かを説得しているようにも見える。

 もしくは、学生相手に無茶をしたお説教なのかもしれない。


「……でも、本当に、凄いわね」


 アリシアが、喉を微かに鳴らした。


「正直言って、アルフの時よりもショックだわ」


 静かな眼差しで、黒髪の少年を見る。


「まあ、アルフは俺達と同年代といっても《七星》だしな。俺達にしてみれば、強くて当然というイメージもあったからな」


 と、ロックが腕を組んで告げる。

 ハウル公爵家の次期当主。アルフレッド=ハウル。

 ミランシャの実弟でもある赤毛の少年。

 その特別な出自、恵まれた環境から、結局、自分達とは違うのだ。

 そんな想いがなかったと言えば、嘘になる。


「アルフは特別。まあ、確かにそう思ってたかもな」


 エドワードが苦笑した。

 少し重苦しい空気になる。と、


「けど、先生は平凡な村出身だったって話だよ」


 サーシャが、空気を払拭するために声を上げた。

 続けて、ユーリィに目をやり、


「そうだよね? ユーリィちゃん」


「え? あ、うん」


 ユーリィが、心ここにあらずの表情で返す。


「小さな村だったって聞いてる」


「うん。そうだよね!」


 サーシャは、グッと両手の拳を上げて固めた。


「それって前向きに言えば、強さって平等だってことだと思うよ。村人でも最強になれるってことだから」


「けど、才能は平等じゃないのよ」


 少し自嘲気味に、アリシアが言う。

 すると、サーシャが目を逸らして。


「それはよく知ってるよ。うん、本当によく知っているよ……」


「「「………………」」」


 全員が沈黙した。

 サーシャは努力の子だ。少しずつだが、成長もしている。

 ただ、それでも彼女に才能があるかというと……。


「ま、まあ、とりあえず才能の話はいいじゃねえか! ヘコむだけだし!」


 珍しく。

 非常に珍しく、エドワードが空気を読んで、そう言った。


「そ、そうよね」「うむ。そうだな」


 と、アリシアとロックもそれに乗って同意する。

 サーシャは、「ははは……」と遠い目をして笑っていた。

 と、その時だった。


「ごめん、余計なことで待たせちゃって」


 唐突に、声をかけられる。

 それは、コウタの声だった。

 彼の後ろには、ネコ耳少女――メルティアの姿もある。

 エリーズ組に声を掛けてから、こちらに来たようだ。


「おう! コウタ!」


 エドワードが、バンバンッと少年の背中を叩いた。


「本当に凄いな! まさか師匠相手にあそこまで食い下がるとは!」


 少年同士の気安さで、ロックも、にこやかに笑った。

 と、少年達が賞賛する中、


「……あなたは」


 ユーリィが、不意に前に出た。

 じいっ、と少年の顔を見据えて問う。


「一体何者なの?」


「……え?」


 サーシャが呟き、瞳を瞬かせた。

 アシリアや、エドワードとロックも唐突な台詞にポカンとしている。


「アッシュは」


 ユーリィは、訥々と語る。


「アルフレッドさん相手でも、あんなことはしたことがない。あんな限界を試すような真似はしない。なのに……」


 キュッ、と唇を嚙む。


「やっぱり、アッシュはあなたを特別扱いしている。あなたは一体何者なの?」


「ユ、ユーリィちゃん……?」


 サーシャが困惑した声を上げるが、ユーリィは振り向かない。

 真っ直ぐに、黒髪の少年を見つめていた。

 アリシアもロックも、エドワードさえも、奇妙な空気に吞まれていた。

 一方、黒髪の少年は、とても困った顔をしていた。

 メルティアは、少しおどおどしている。

 数瞬の沈黙。

 そして、少年は口を開いた。


「ユーリィさん。それは……」


「そいつは今から教えるよ。ユーリィ」


 不意に別の声がする。

 全員の視線が、声の方へと向いた。

 そこには、オトハと共に、アッシュの姿があった。

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