第12話 その名は流れ星③
「贋作も、ああ言ってる。どんな小細工をしたの?」
闘技場を見下ろしながら、改めてユーリィはアッシュに尋ねてみた。
すると、製作者の青年はポリポリと頬をかき、
「いや、ほら《天蓋層》ってあんだろ。俺さ、今あれと同じような術式を研究中なんだよ。で、せっかくだから今回、《ホルン》の装甲に、その試作一号を組み込んでみたんだ」
と、にこやかな笑顔で、とんでもないことを言いだした。
《天蓋層》――。それは《聖骸主》の最も有名な能力だ。《聖骸主》の全身を流体化した星霊が薄く覆い、あらゆる攻撃を吸収する防御層となる術。この術を展開した《聖骸主》には生半可な攻撃は一切通じない。まさに鉄壁の防御術だ。
しかし、かつてその《聖骸主》と戦うアッシュの姿を何度も見ているユーリィにとっては、どうしても悪い印象しか持てない能力でもあった。
思わず眉をしかめたユーリィは、半眼でアッシュを睨みつける。
「そんな縁起の悪いものを、しかも試作品なんかを勝手に《ホルン》にしこんだの?」
「いや、初回サービスのつもりでさ」
「試作品を勝手につけるサービスって何? 確かに《天蓋層》を機能化したのは、凄いことだと思うけど――」
ふとユーリィの脳裏に疑問符が浮かぶ。
「……《星導石》には星霊の流体化は出来ないんでしょう? 一体どうしたの?」
「ああ、結局あれって《天蓋層》そのものじゃねえんだよ。実態は自動式の《黄道法》かな? そうだな――今ここで《
「それ、呼び方が全く同じ――」
「些細なことだ! 別に有名な能力と同じ韻なら、きっと商品化した時に売れやすいかなあ、とか思ってねえぞ! ホントだぞ!」
と、そこでコホンとひとつ。
「ともかく! まあ簡単に言うと、あの《天鎧装》は攻撃を感知したら、自動的に一秒間だけ全身から恒力を放出して防御壁にしてんだよ。恒力の一度の放出量を三百ジンほどにしてさ。そんぐらいなら鎧機兵の自動供給機能で賄えるだろ」
と、自慢げにアッシュは解説する。
しかし、ユーリィは頬に手を当て小首を傾げた。
鎧機兵には、起動中、常に最大の恒力値を維持する供給機能がある。だから多少の恒力の消費もすぐに回復出来ると、彼は言うのだが……。
「……自動供給って確か一秒ごとに百ジンぐらいじゃなかった?」
「ん? ああ、そうだが、それがどうかしたか――」
「それって一方的に殴られ続けたら、恒力切れで機体が動かなくなると思う」
「…………え?」
ユーリィの指摘にポカンとするアッシュ。が、すぐにその顔は青ざめていった。
どうやら、欠陥に気付いていなかったらしい。
「い、いや、だって今の《ホルン》が、そこまでボコられるとは思わねえし。それに最近はメットさんも大分腕を上げたし、相手の動きはかなりへぼいから……」
と、しどろもどろに言い訳を開始する。ユーリィの険悪な視線がとても痛かった。
アッシュは気まずげに頬をかくと、不意に真剣な瞳で――。
「……まあ、数万の星霊で構成される《天蓋層》に比べりゃあ、確かに薄っぺらい壁ではあるが、それでもあの程度の単発攻撃なら問題ねえよ。――だから、メットさんは大丈夫だ。お前は何も心配しなくてもいい」
そう告げて、少女の頭をポンポンと軽く叩いた。一瞬、ユーリィはキョトンとするが、すぐに拗ねるようにそっぽ向いた。その頬は少しだけ赤く染まっている。
素直じゃないユーリィの態度に、アッシュは優しげな笑みを浮かべた後、再び闘技場へと視線を戻した。――そして、鋭く目を細める。
いつの間にか《ホルン》の動きが、防御から攻撃重視のものへと変化していた。
「お! どうやらメットさんも、《天鎧装》に気付き始めたみたいだな」
アッシュの推測通り、サーシャは《天鎧装》の存在に気付いていた。
なにせ、よく見ると敵の拳が寸止めされているのだ。気付かないはずもない。
(……まるで見えない壁があるみたい。もしかして、これって《天蓋層》なの?)
不可視の防御壁。
そんなものはサーシャの知る限り《天蓋層》しか思いつかない。
(けど、《天蓋層》なんて能力、なんで《ホルン》が――)
と、そこでサーシャは、《ホルン》を生まれ変わらせた師の顔を思い出す。
《ホルン》を改造する機会があったのは彼だけだ。
(そっか……、きっと先生がこれを……。ありがとう先生! これなら!)
師に感謝を抱くと同時に、《ホルン》が駆け出した。
それに応じ《偽朱天》が正拳を放つ――が、《ホルン》は怯まない。
――ズドンッッ!
全身全霊の頭突きが、真紅の拳を打ち負かす!
腕を弾かれた《偽朱天》は大きく後退し、白い機体は追うように前進する。
一気に間合いを詰めた《ホルン》は、剣の柄尻を《偽朱天》の顔に叩きつけた。その衝撃に真紅の機体はふらふらと後ずさり、ガクンと左膝を落とす。
さらに《ホルン》は、両手で剣を構え直すと、渾身の力で振り下ろした!
右の肩当てを打ち砕き、《偽朱天》の肩に食い込む鋼の刃。紅い破片が散る中、真紅の巨人は残った右膝の方も屈した。同時に傷ついた右肩から刀身が、ガコンッと外れる。
おおおッと闘技場に、この試合最大のどよめきが沸き上がった。
未だ無傷に近い新人と、両膝を屈した傷だらけの王者。
誰の目にも勝敗は明らかだった。
――いよいよ、敗北知らずの王者が地に伏すのか。
観客の注目を一身に浴びた《ホルン》が、剣の柄を強く握りしめる。
『ま、待ちたまえ! サーシャ嬢!』
『……何? 敗北を認めるの?』
『い、いや実は、今日は機体の調子が悪くてね。この勝負、引き分けにしないか?』
『……あなた、私を馬鹿にしているの?』
『い、いや、待て! そ、そうだ! 借金! 借金だ! 今日引き分けにしてくれれば、便宜をはかって、君の家の借金を帳消しにしよう。これならどうだ!』
サーシャは一瞬息を呑む。不意に、男手一つで自分を育ててくれた父の――金策に走る父の姿が思い浮かんだ。自分に心配かけまいと笑顔で頑張る父の姿が……。
知らず知らずの内に、《ホルン》は剣の切っ先をわずかに落としていた。
――それは、《偽朱天》にとって明らかな好機となった。
真紅の機体が一気に間合いを詰める。
わずかとはいえ、迷いを抱いていた《ホルン》には、まともな反応が出来ない。
《偽朱天》の左の手刀が《ホルン》の剣を叩き落とした。さらに右手で《ホルン》の頭部を握り潰さんとばかりに掴みかかり――。
そこで、ようやく《ホルン》は窮地を察した。
咄嗟に左手で防ごうとするが、逆にその手を掴まれてしまった。振り払おうにもビクともしない。ならば、と右手を《偽朱天》の腕へと伸ばすが、今度はその右手まで《偽朱天》の左手に押さえこまれてしまう。
サーシャは息を呑んだ。――まずい、この体勢はッ!
だが、気付いた時にはすでに遅く、《ホルン》は完全に四つ手に組まれてしまっていた。息もつかせず《偽朱天》は剛力を解放する。
損傷していても《偽朱天》は本来二倍近い恒力値を持つ機体。圧倒的な膂力の違いに《ホルン》の両腕が悲鳴を上げた。
『こ、この! 卑怯者! 油断させておいて!』
『ふん! 油断する君が悪い!』
《偽朱天》は、そのまま力まかせに《ホルン》を押し潰そうとする。
サーシャの脳裏にかつて同じ体勢で押し潰された鎧機兵の姿がよぎり、どうしようもない恐怖が襲い掛かった。このままでは、間違いなく自分も――。
そして、《ホルン》の両腕だけでなく、いよいよ機体そのものが軋み始める。
サーシャは、悲鳴を上げそうになる自分の心を必死に抑え込んだ。
アッシュは真剣な面持ちで、四つ手に組んだ二機を凝視していた。
「まずいな……。《天鎧装》は外装の表面に施した術式だ。ああなっちまうと純粋な力比べだ。勝ち目がねえぞ」
「……どうにか出来ないの?」
ユーリィの懇願のような声に驚いて、アッシュは振り返る。
彼女の翡翠色の瞳は、サーシャを助けて欲しいと切に願う気持ちで溢れていた。
「……お願い、アッシュ。メットさんを助けてあげて。メットさんは、私のことを友達って言ってくれたの。だから……お願い……」
今にも泣き出しそうな顔でユーリィは声を絞り出す。
長かった旅暮らしに加え、人間不信気味だったユーリィには、同年代に友人と呼べるほど親しい者などいない。だから、サーシャが自分を「友達」と呼んでくれたのは、少なからず嬉しかった。だが、そんな「友達」が、自分が我儘を言ったせいで危機に瀕している。そう考えると胸が締め付けられるように痛かった。
綺麗な顔を強張らせながら、ユーリィはギュッと両手を握り締めて俯いた。
そんな少女の様子を、アッシュは黙って見つめていた。
ユーリィはその生い立ちゆえか、たとえ知り合いであっても、他人に対してはシビアなところがある。基本的にあまり深入りしないスタンスだ。
しかし今、ユーリィは本気でサーシャを助けて欲しいと願っている。
真摯に「友達」のことを心配している。
まさか、この子にこんな変化が見られようとは……。
アッシュは感嘆するように口元を綻ばせた。
適当に選んでやって来たこの国だったが、案外正解だったのかも知れない。
「なあ、ユーリィ。メットさんはお前の友達なんだよな?」
アッシュの問いに、ユーリィは少しだけ迷った後、こくんと頷いた。
「友達を助けたいんだな?」
今度は迷わず頷いた。ふふっとアッシュは微笑む。
そして、彼はくしゃりと空色の髪を撫でた。
少女の不安を取り払うように、何度も何度もそれを繰り返す。
髪が揺れるたびに、ユーリィの表情が少しずつ和らいでいった。
それを見届けたアッシュは、優しげな笑みを見せて、
「大丈夫だ。お前は何も心配しなくてもいいって言っただろ? 安心しろ。お前の友達を絶対見捨てたりなんかしねえよ」
もはや《ホルン》は限界だった。
両膝は深く沈みこみ、各部の関節は軋むのをやめない。
サーシャは、ギュッと唇をかみしめた。……もう逆転は無理だ。
敗北を悟った彼女の瞳に涙が溜まる。それは自分の未熟さを嘆く悔し涙だった。
(……悔しい……悔しいッ!! どうして私はいつもこうなの……。こんなことでまた《ホルン》を壊すなんて! ユーリィちゃんにだって必ず勝つって約束したのに!)
サーシャはひたすら心の中で二人に謝罪する。
(ごめんなさい、先生。ごめんね、ユーリィちゃん……)
そして遂に戦意を失い、操縦棍から手を離そうとしたその時――。
「勝手に諦めてんじゃねえよサーシャ!! お前の相棒はまだあがいてんだろうがッ!!」
その轟音に、思わずサーシャは息を呑んだ。
闘技場に突如鳴り響いた大音量。一瞬、それが人の声だと誰も気付けなかった。
拡声器も使わず、人間がここまでの声量を出せるものなのか。
サーシャのみならず、ジラールも観客も、すべての人間が呆けていた。
それに構わず声の主――アッシュはさらに叫ぶ。
「俺が教えてきたことは何だ! 力に力で対抗することか? 違うだろ! お前のこの三ヶ月は何だ! とっとと思い出せッ!」
(……私が、先生から習ったこと……?)
師の声に導かれて、サーシャの脳裏に訓練の日々の記憶が蘇ってくる。
そうだ、あれは《ホルン》の恒力値の低さに悩んでいた時――……。
『恒力値が低い? う~ん、確かに高いにこしたことはねえが、まあ、幾らでもやりようはあるさ。例えば、手や足よりも強靭な部位を使ってだな――』
そう言ってアッシュは、身ぶり手ぶりで一生懸命に教えてくれた。
その時、この人は本当に優しくて真面目な人なんだな、と思ったものだった。
まあ、その後の模擬戦で、師の相手をした親友の機体が、まるでお手玉のように舞う異様な光景には正直ドン引きしたが……。
それでも師の教えは、しっかりとサーシャの心に焼きついている。
(……先生。そうですよね。別に恒力値だけが鎧機兵の強さじゃない!)
サーシャの瞳に再び闘志が戻る。そして、白い鎧機兵もまた主の意志に応えた。
《ホルン》はより激しい軋みを上げながらも、両膝を立て直す。
しかし、ジラールは白い機体の必死の抵抗を嘲笑う。所詮は最後の悪あがきだ。
《偽朱天》は今度こそ完全に押し潰すため、さらに膂力を込めた。
ギシギシと悲鳴を上げる《ホルン》に、赤髪の少年の鼻息が荒くなっていく。
(くくくッ、もうすぐだ。もうすぐサーシャは僕の前に跪く!)
じきに訪れる未来を想像し、ジラールは恍惚の笑みを浮かべた――が、すぐにそれは驚愕の表情へと移り変わる。いきなり機体の重心が前のめりに崩れたのだ。
慌てて眼前の白い鎧機兵を凝視し――くそッと舌打ちした。
いつの間にか《ホルン》が肩を落とし脱力している。
バランスが崩れたのはこのせいだ。《偽朱天》は、やむえず左足を前に出し重心を支えた。と、同時にジラールは考える。
(――この状況、サーシャが狙うとしたらこの左足。来るのは右の足払いか!)
そして予測通り、《ホルン》の右足が地を這うように蹴り出された。組まれた両手を強引に振り払い、機体全体を反転させた足払いだ。
ジラールは侮蔑の笑みを浮かべる。予測通りの攻撃など何も怖くない。《偽朱天》は左足を素早く持ち上げ、《ホルン》の逆転を賭けた足払いを回避する!
(――ふん、どうだ! そんな小細工がこの僕に通じる訳がないだろう! これで最後の攻撃は凌いだ! 後はその機体を押し潰して終わりだよ、サーシャ!)
勝利を確信したジラールは、凄惨な笑みを浮かべて、
――ガゴンッ!
そのまま、表情が固まった。
呆然とする中、真紅の機体が勢いよく真横に傾く。
(ば、馬鹿な! 足払いは躱したはず! 一体何が――なッ! なんだと!!)
そして、愕然として目を見開く。
ジラールは目撃したのだ。傾く世界で高速に動く純白の尾を。
ギシリと歯を軋ませる。失念していた。
機体を反転させれば、当然尾も連動して動く。
右の足払いはただの囮。
サーシャの真の狙いは尾で右足を刈り取ることだったのか!
(――くそ! けど、まだ負けた訳じゃない! 倒れてもすぐに体勢さえ立て直せばッ!)
そう判断し、衝撃に備えるジラール。
しかし、その思惑はあっさりと打ち砕かれた。
唐突に、ガクンッと機体の転倒が止まったのである。
ジラールは怪訝な面持ちで前を見て――言葉を失った。
ほぼ逆さまとなった《偽朱天》を、《ホルン》の両腕が捉えていたのだ。
白い鎧機兵は《偽朱天》をゆっくりと持ち上げていく。
腰から胸の位置に、最後には頭上へと――。
ジラールの顔から血の気がひいた。
『ま、待て! サーシャ! や、約束する! 借金はもういい! だから――』
『うっさい。プチっと逝け』
そして、真紅の機体は、頭から大地に叩きつけられるのだった。
◆
闘技場は静寂に包まれていた。
今までも逆境を覆す試合なら幾らでもあった。しかし、鎧機兵の巨体が頭から叩きつけられる状況など、初めて見る決着方法だったのだ。
喜劇にさえ見えるその逆転劇に、観客達は声を出す事も忘れて呆然としていた。
と、そんな中、最初に静寂を破ったのはアッシュだった。
ただ一人、愛弟子に拍手を送る。ユーリィもそれに続き、さらに隣の観客へと、拍手は次々と伝播していき、瞬く間に闘技場は拍手で埋め尽くされる。
その時になって、審判も兼ねた司会者はようやく正気に返り、
『勝者あああァッ!! 流れ星メェーーーーートッ!!』
と、あらん限りの声で叫んだ。審判の勝利宣告に会場は大歓声に包まれる。
大気を震わすような歓声の中、サーシャは《ホルン》の胸部装甲に開くと、アッシュ達を会場の中から探し始める。
キョロキョロと周囲を見渡して――そして見つけた!
「せんせええー! ユーリィちゃぁぁん! 私、勝ちました! 勝ちましたよー!!」
子供のようにはしゃぐサーシャを見て、アッシュはやれやれと肩をすくめ、ユーリィは少しだけ嬉しそうに、サーシャへと手を振り返す。
しかし、彼女の勝利に気を取られていた二人は気付いていなかった。
周囲の雰囲気が、先程から変わっていることに。
「なあ、今流れ星メットが、『先生』って言わなかったか?」「おい! この白い髪って確か前に……」「ああ、間違えねえ。大通りで大暴れしていた……」
と、ざわめく観客達。そして次々と生まれていく噂話。
しばし観客達の間を飛び交っていた噂話だったが、やがて変化が訪れる。
噂話の内容が一つに集束し始めたのだ。しかし、それはある意味必然でもあった。
何故なら、その噂話は唯一確かな情報から成り立つ内容だったからだ。
その内容とは――「この白髪の男は流れ星メットの師匠である」ということ。
その事実を土台にした噂話は、より短く、より分かりやすく姿を変えて、遂には一つの名前を生み出すことになった。
そう、後に語り継がれることになる伝説の名を――。
「……ん? なんか騒がしくねえか?」
そこに至って、ようやくアッシュは周囲の異変に気付く。
だが、すべてはもう遅い。すでにその名は生まれているのだ。周囲の観客達が一斉にアッシュを指差し――そして、声高らかにその名を呼んだ。
「「「流れ星師匠だッ!!」」」
この国におけるアッシュの異名――その誕生の瞬間である。
突如湧き上がったその名に、アッシュは一瞬呆然となった。
そして周囲の状況を窺い、その顔色をみるみると青ざめさせていった。
いつの間にか、数え切れないほどの好奇の視線が自分に突き刺さっていたのだ。その途轍もない重圧に恐怖さえ感じたアッシュは、思わずユーリィに助けを求める。
「お、おい、ユーリィ! なんか俺にまで変な名前がつけられてんだが……」
「え? あなた誰? 話しかけないで」
「他人のふり!? おとーさんとしては、ちょっとショックだぞ、それ!?」
周囲の注目がさらに集まる。正直とても怖い。
アッシュは考える。この状況をどうすれば打開出来るのかを。
心の中で、あらゆる手段を検討し――。
(おし! 決めたぞ! ここはこれしかねえ!)
とりあえず逃げ出した。
「「「待て! 待ってくれ! 流れ星師匠!」」」
すると、観客達が次々と立ち上がってくる。
その光景にアッシュは、幼い頃読んだ、とある物語の一幕を思い出す。
――それは、墓場から死体の群れが一斉に蘇えるシーンだった。
「こ、怖えーー! マジで怖い!! ユーリィ! 後でおぼえていろよーー!」
周囲のほとんどの観客を引き連れて、壮大な鬼ごっこを始めたアッシュの背中を見つめながら、ユーリィは身体をほぐすように背筋を伸ばし、小さな声で呟いた。
「……さてと。メットさんのとこ、行こ」
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