5月2日(木・祝)
午前11時。
僕は自転車で栞の家へと向かう。昨日とは違って青空が広がっており、風も爽やかで気持ちがいい。
元号が令和になって2日目。
今日は栞と一緒に、彼女の自宅近くにある神社へ改元初詣に行くことになっている。これは栞からの提案で、彼女曰く初詣の元号版らしい。
本当は令和初日である昨日に行きたかったけれど、雨が降っていたので今日行くことにした。
「あっ、悠介君!」
「栞、お待たせ」
自転車で栞の家に行くとは伝えていたけれど、まさか外で待っていてくれるなんて。本当に可愛いな、僕の恋人は。
栞の家の庭に自転車を置かせてもらい、僕は彼女と一緒に近くにある神社へと歩き始める。その神社はこれまでにも初詣などで何度か行ったことがある。
「おはよう、栞」
「おはよう、悠介君。今日は晴れて良かったね」
「そうだね。初日じゃないけれど、いい天気に参拝した方が御利益もありそうな気がする」
「それは言えてるね。……私達みたいに改元初詣をする人達っているのかな」
「元号初詣って言う人は少ないかもしれないけれど、令和っていう新しい時代がいい時代になりますようにって参拝する人はいそうだね」
「かもね」
ふふっ、と栞は楽しげな笑みを浮かべ、繋いだ手を一旦離して、僕の腕をぎゅっと抱きしめてきた。春の陽差しに負けないくらいに温かい。
10分ほど歩いて神社に到着する。
祝日ということもあってか、参拝客はちらほらといる。ただ、これまで行った初詣のときと比べれば少ない。だから、初めて来たような感覚だ。
「そこまで人は多くないね」
「年末年始の初詣に比べたら全然いないね。神社だし、落ち着いた感じがして僕は好きだな。あと、今ならすぐに拝むこともできるし」
「確かに。さあ、さっそく拝もう!」
僕は栞に手を引かれる形で、拝殿の方へと向かう。
年始めの初詣とは違って、並ぶことなく賽銭箱の前に。
僕は賽銭箱の中に五円玉を1枚入れた。
令和という時代。僕らはこれから大人になっていき、きっとこれまで以上に多くの人と関わることになる。そのご縁がいいものであることを願い、大切にしていくことを誓うという意味を込めて。
もちろん、一番は……平成の時代に出会った日高栞という女性との縁を、令和の間もしっかりと持ち続け、発展させていきたいという願いだ。令和になってすぐに栞に言ったように、夫婦といったより強い関係になっていきたい。そういう意味で五円玉を1枚入れた。
二礼、二拍手、一礼。
僕は両手を合わせてゆっくりと目を瞑った。どうか、令和もその先も、いつも変わらずに今のように栞と隣り合って生きていけますように。
「よろしくお願いします」
そう呟いて僕はゆっくりと目を開ける。栞のいる方へ向くと、彼女が優しい笑みを浮かべながら僕のことを見ていた。
「悠介君、結構長く拝んでいたね」
「……色々と拝んでいたからね。さてと、これからどうしよっか」
「おみくじ買っていこうよ。令和の時代の運試しってことで」
「おっ、いいね」
ただ、改元はそうそうないことなので、毎年買う年始のおみくじとは違って、とても重みのあるおみくじになりそうだ。
売店へと行き、僕らはおみくじを一つずつ買った。
「一緒に開けよう。せーの!」
おみくじを開き、そこに書いてある運勢を見てみると、
『中吉』
と書いてあった。小吉や末吉よりはいいけれど、大吉でもないのでどうリアクションすればいいのか分からないな。
「やった! 大吉だよ!」
「良かったね、栞。僕は中吉だったよ」
「悠介君は中吉か。じゃあ、令和の間は悠介君の側にいて大吉パワーをあげ続けていくよ」
「ありがとう。栞の運がなくならない程度にお願いするよ」
ただ、そんな栞の気持ちがとても嬉しくて、僕は彼女のことをぎゅっと抱きしめる。こうしていると幸せな気持ちになるってことは、さっそく彼女の大吉パワーをいただいている感じがする。
「もう、悠介君ったら。人は少ないけれど、こんなところで抱きしめられたら恥ずかしいよ。嬉しいけれどさ」
「ご、ごめんね」
パッと栞のことを話すと、彼女は僕のことを見ながらはにかんでいた。
「悠介君と一緒にいれば、令和の間もきっと幸せに過ごせそうだよ。改めて、これからもよろしくお願いします」
「うん。こちらこそよろしくお願いします」
「……じゃあ、初詣も終わったし、いつもの初詣みたいに甘酒買う?」
「屋台もないし、今日は暖かく感じるくらいだから冷たい飲み物がいいな」
「ふふっ、それなら途中の自動販売機かコンビニで冷たい飲み物を買おうか。近くに公園もあるからそこで飲もうよ」
「いいね。そうしよっか」
栞と僕おみくじを財布の中にしまい、手を繋いで神社を後にする。きっと、令和の時代も僕らはこうして一緒に歩き続けるのだろう。
特別編-Change the name of an era. Heisei→Reiwa- おわり
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