3月1日(金)

特別編-End of Winter in 2019-




 ――あっという間だったけれど、思い返せば色々なことがあったな。


 3月になった瞬間、平成最後である冬についてそんな印象を抱いた。

 冬の間には毎年クリスマス、年越し、成人式、バレンタインデーなど様々なイベントがあったので色々なことがあったなと思う。年を跨いでいるので、冬になった3ヶ月前が結構前のことのように感じる。

 去年の夏から始まった『平成最後』シリーズも冬になると、そこまで特別な感じはなかった。ただ、成人式があったので、成人になって最初という意味では忘れられない冬になったかなと思う。



「よし、ログインできたよ。それで、単位の取得と進級の確認するページってどこだったっけ? 半年に1回だと毎度のこと忘れちゃって」

「左側に『単位取得確認』っていうところがあるから、そこをクリックすれば見ることができるよ」



 平成最後の春の初日。

 今日の午前10時から、大学の学生専用ページで、後期に履修した科目の単位取得と進級できるかどうかついて発表されるのだ。

 ちなみに、僕は家を出発する前に確認して、後期に履修した科目については全て単位を取得し、3年生への進級が決定した。

 さっき栞が言ったように、成績発表は半年に1回しかないこともあってか、彼女は毎度のこと操作を忘れる。こうして栞の自宅で成績を一緒に確認するのがお決まりとなっている。

 栞は『単位取得確認』の部分をクリックする。すると、パソコンの画面には1年生のときから受講してきた科目と判定、取得単位数と進級判定が表示される。


「まずは総単位数と進級判定を見てみよう」

「分かった。総単位数は……うん、時間割を決めたときに計算した、全科目単位が取れたときの単位数になってる。判定は……『3年生に進級』だよ!」

「おっ、やったね!」

「これで悠介君と一緒に大学生活を折り返すことができるよ。実は単位が取れるかどうか不安な科目もあったから……」


 栞は今にも泣きそうになっている。栞のほっとした気持ちも分かるけれど、1つや2つ単位を落としたところで進級するには問題ないのだ。ただ、落とした単位があるかどうかで気持ち的に結構違うか。


「きっと、頑張って取り組んだ成果だと思うよ。進級おめでとう」

「ありがとう! 悠介君も進級おめでとう」

「ありがとう、栞」


 これで栞と一緒に4月から3年生になるんだ。さっき栞が言ったように、大学生活もいよいよ折り返しとなる。ゼミとか就活関連で少しずつ忙しくなっていくんだろうな。


「でも良かった。悠介君と一緒に3年生になった状態で、新しい元号を迎えることができるから」

「そうだね。まだ、次の元号が何になるのか発表されていないから、新しい時代になるっていう実感があまりないけれど」


 ちょうど2ヶ月後に新元号になるのがまだ信じられないくらいだ。果たして、どんな元号になるのやら。


「確かに、悠介君の言う通りかも。春の間に平成が終わるなんてね」

「そうだね。来月の1日に発表されるから、新しい元号を知ったら少しは気持ちも変わるかもしれない」

「新年度になるタイミングでもあるからね。いつもと変わらないと思うけど、平成最後の春と新元号最初の春を楽しもうね、玲人君」

「そうだね、栞」


 春のうちは1年生や2年生のときのような大学生活を送ることになるだろう。その日々を栞と一緒に楽しむことにしよう。

 ――プルルッ。

 うん、スマートフォンのバイブ音が聞こえるな。僕のスマートフォン……じゃないな。


「あっ、美来ちゃんからメッセージと写真が来てる」

「美来ちゃん……ああ、高校時代の後輩の朝比奈さんのことか」

「そうだよ。2年後輩の。そういえば、今日は天羽女子高校の卒業式で、美来ちゃんが卒業するんだ」

「そうなんだね。そういえば、彼女とは2年前に、卒業式を終えた栞を迎えに行ったときに会ったよね」

「そうそう、覚えていたんだね。あれから2年経って、美来ちゃんもついに高校を卒業するんだよ。ということは、私が在校している間に接した後輩が全員卒業したことになるんだ。そう考えると、寂しい気持ちになってくるな。そうだ、おめでとうって返信しないと」


 栞は寂しげな笑みを浮かべながら、朝比奈さんへの返信を打っている。

 俺の母校である八神高校も多分、今日が卒業式だろうな。美来とは違って部活に入っていなかったから縦の繋がりは全然ないけれど、今の栞の話を聞くと何だか感慨深い気持ちになる。

 返信が終わったということで、栞に朝比奈さんの写真を見せてもらう。写真には卒業証書を持って、可愛らしい笑顔を浮かべた朝比奈さんの姿が写っていた。2年前に会ったときと比べて一段と大人っぽくなったような気がする。


「美来ちゃんは無事に第一志望の大学に合格してね」

「へえ、それはおめでたい。ということは、朝比奈さんにとって、来月からは大学で新生活がスタートするのか」


 それならより一層、今日の卒業式で高校生活が終わったって気がしたんだろうな。僕は卒業式の後に入試があったから、高校生活を振り返ることはあまりせずに、受験勉強をしたっけ。


「美来ちゃんの進学する大学は都心の方にある学校だから、これからも恋人と今住んでいるところで同棲し続けるんだって」

「そうなんだね。……僕らもいずれは同棲したいね」

「うん。……しようね」

「……しよう」


 僕の方から栞にそっと口づけをする。

 お互いに実家から通えるところにある大学に通っているから、まだ具体的に想像はできないけれど、いつかは栞と一緒に暮らそう。そんなことを決意させてくれた平成最後の春の始まりなのであった。




特別編-End of Winter in 2019- おわり

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