9月1日(金)-前編-
特別編-End of Summer in 2017-
9月1日、金曜日。
今日から季節は秋になった。
去年までは、夏休みが明け2学期が始まるのでちょっと嫌な気持ちになったけれど、今年からは大学生なので今日も夏休みだ。ちなみに、僕と栞が通っている大学は今月の終わり頃まで休みが続く。
「今日も夏休みなんだね、悠介君」
「そうだね、栞」
今日は雨が降っているので、僕は栞と一緒に彼女の部屋でゆっくり過ごしている。
今年の東京の夏は空梅雨であり、梅雨明けになったら逆に曇りや雨の日が多く、8月は20日過ぎくらいまで涼しい日が多かった。
「ふふっ」
栞はスマートフォンを見ながらニコニコ笑っている。
「どうしたの? 嬉しそうに笑って」
「アルバイトに行ったときの写真を見てたの」
「あぁ、あのときの写真か」
6月に入ったくらいに、坂井先輩と原田先輩と4人でアクアサンシャインリゾートホテルへ旅行に行くことになっていた。
しかし、僕らが行った時期にスタッフの多くが休むことになってしまい、僕達が緊急のスタッフとして働くことになった。アルバイトをしているときはホテル近くの寮で過ごし、アルバイト後にお客さんとして宿泊するとき、料金が無料となった。
ここまでしてもらっていいのか不安だったけれど、ホテルの総支配人の方が、坂井先輩と原田先輩に以前にとてもお世話になったのでかまわないとのこと。ちなみに、先輩方は去年も同じようにスタッフの経験をしたことがあるそうで。先輩方のおかげで特に問題なくスタッフのアルバイトをこなすことができた。
そういえば、一緒に働いた坂井先輩と原田先輩の友人のカップルは凄かったな。アルバイトのときの働きぶりと、アルバイト終わってお客さんとして滞在しているときのイチャイチャぶりが。その2人も総支配人にとって恩人とのこと。
1週間のバイトに、2泊3日の滞在。ホテルにはおよそ10日間いたわけだけど、結構楽しかったな。
「あぁ、これ……栞の水着姿だね。可愛いね」
白いビキニだったけれど、とても可愛かったな。3年以上も付き合っていて、栞のこういう姿をあまり見てこなかったけれど、栞って結構胸があるんだよな。
「……もう、絶対に胸ばかり見てるよね」
「ご、ごめん。3年以上経って、栞の新たな魅力を知ったなぁ……って」
「……悠介君も男の子なんだね」
栞、顔を真っ赤にして視線をちらつかせている。もしかしたら、旅行中に初めて一緒にお風呂に入ったことを思い出しているのかもしれない。部屋のお風呂、とても広かったから2人でもちょうど良かったけれど。
「ねえ、悠介君」
「うん?」
「……アルバイト代、まだ残ってる?」
「うん。こんなにもらっちゃっていいのかなって思うくらいにたくさんもらったから。まだ残ってるよ」
たくさんアルバイト代をもらった上、宿泊代が無料だったなんて。宿泊代を差し引いた値段だとしても、僕達がもらったアルバイト代はかなり多いと思う。
「じゃあさ、近いうちにプールに遊びに行こうよ。9月になったから、高校生までは学校が始まったと思うから平日に」
「それはいいね。9月になっても、そういうところに遊びに行けるなんて大学生らしい感じがする」
「うん。今日はとても涼しいけれど、また夏のような暑い日は来ると思うから」
「分かった。また栞の水着姿を見ることができると思うと嬉しいよ」
僕がそう言うと、栞は再び顔を赤くする。
「……そんなに見たいなら、今すぐにでも見せてもいいんだよ?」
はにかみながらそう言うけれど、恥ずかしいのか栞はベッドの上で横になり、ふとんの中に入ってしまった。
「ううっ、私、何てこと言っているんだろう……」
普段の栞なら口にしないような言葉だったから、僕も正直ドキッとした。
「……え、ええと。とりあえずその気持ちは受け取っておくね」
栞に何か返事をしなければと思ってそう言ったけれど、今のが果たして正解だったのかどうか。
「悠介君、ごめん……」
「……うん?」
な、何のことだろう? 僕……栞に何かされたっけ?
すると、栞は布団から顔だけを出して、僕のことを見る。
「そ、その……旅行中、夜に何度もいい雰囲気になったじゃない。同じベッドに寝て、何度も口づけをして」
「そうだったね。いつも以上に幸せな時間だった」
「……私も幸せな時間だったよ。そんな時間をもっと幸せにしたいと思って、その……口づけよりも先のことをしようかどうか実は何度も迷ってて。悠介君と付き合ってから3年以上も経っているし。朝比奈さんから、そんなときのためにって……悠介君につけてもらうものを10個くらいもらってて」
「そ、そうなの?」
朝比奈さん……結婚を前提に氷室さんと付き合っているからか、そういったものを持っているのか。ていうか、10個って……僕達、そんなにたくさんするカップルだと思われていたんだ。それとも、朝比奈さんがたくさんするのか。
「うん。でも、実際にそのときになると緊張もあって、恐さもあって……しようって一度も言えなかった」
「なるほどね。僕も……男だし、栞っていう恋人の女の子がいるから、そういうことも考えたりするし、旅行中もそういうこともあるのかもって思ってた。でも、栞のことを考えたら、緊張しちゃって。そういう経験がないだけかもしれないけど」
「私もないよ!」
「そ、そうなんだ。初めてのことをするって、どうしても緊張するし、怖さもきっとあるんだと思う。僕達の未来はまだまだこれからだから、焦らずにゆっくりと進んでいけばいいんじゃないかなって思ってるよ」
緊張もあって、怖さもあるのは仕方のないことだと思う。でも、無理矢理にすることだけはいけないことだと僕は想っている。
「……ありがとう、悠介君。いつになるかは分からないけれど、もし……そのときになったらよろしくお願いします」
「分かった」
「で、でも! それまで誰ともしないでね。私もしないから……」
「……栞としかするつもりはないよ」
「……う、うん。そうだよね、恋人同士だもんね。きっと、私……にやけているんだろうな」
うん、今、凄くにやけているよ。
「……悠介君。じゃあ、約束の……く、口づけをしてくださいっ!」
そこまでかしこまらなくても口づけはするし、口づけをしなくても僕は約束を守るつもりなんだけどな。
「分かったよ」
僕は栞に口づけをする。以前は口づけだけでとても緊張していたので、自然にできてすぐに温かい気持ちになるので、付き合いたてのときと比べたら何歩も前進していると思う。
「……幸せだね」
栞、その言葉通りとても幸せそうな表情をしながらそう言った。いずれは、口づけよりも先のことをしても、こういう表情を見せてくれると嬉しいな。
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