3月14日(火)

特別編-The White day in 2017-




 3月もあっという間に半分が過ぎ去ろうとしている。

 卒業式を終えてから半月ほど経ち、この間に僕と栞は第一志望の国公立大学の試験を受けた。これで、僕も栞も受ける予定の試験を全て終えた。今は結果待ちの状況。合格にせよ、不合格にせよ、結果は出るまではのんびりしようということになった。


「やっぱり、こたつはあったかくていいよねぇ」

「そうだね」


 今日は僕の家に栞が遊びに来ている。僕が栞のことを呼んだんだけれど。リビングにあるこたつでゆっくりと過ごしている。

 平日なので父親は仕事に行っており、母親は僕と栞に気遣ってなのか、学生時代の友人と都心の方に遊びに行っている。今日も曇りで寒いというのにアクティブな母親だなと思う。


「今夜はどこと対戦するんだっけ?」

「キューバだよ。1次ラウンドで勝ったから勝てるんじゃないかな」

「オランダ戦での勢いそのままに行ってほしいよね」


 今は野球の世界大会であるワールドベースボールクラシック、通称WBCが開催されている。日本は1次ラウンドを順調に突破し、一昨日から2次ラウンドが始まった。初戦であるオランダ戦は延長11回、約5時間の死闘の末に勝利をした。

 一昨日は栞の家に泊まり、彼女の部屋で試合終了まで一緒に観戦していたけれど、栞の喜怒哀楽が結構凄かった。喜ぶときには大声で喜び、9回裏にオランダに同点に追いつかれたときには僕の手を物凄い力で掴んで悔しがり、試合終了のときには僕のことをぎゅっと抱きしめていた。栞はスポーツ観戦になると、普段とは違う雰囲気になるんだよなぁ。


「今日も一緒に観ようね」

「うん」


 栞、昨日は喉が痛いと言っていたので、今日は圧倒的な差を付けてスムーズに終わってほしいな。ただ、キューバも強いのでどうなるか。


「話は変わるけれど、3月になっても寒いよね」

「本当にがらっと話が変わったね。でも、寒いよなぁ」


 2月は寒い日こそあったけれど、南風が強くて暖かくなった日も何日かあった。でも、3月になってからはそういう日が全然ないなぁ。


「試験の日も寒かったよね」

「受験の日って寒い日が多かったよね。センター試験のときも寒かったし」

「そうだよね。だからさ、その分、4月からは悠介君と一緒に大学に通える温かな日を過ごしたいなって思ってる」

「きっと、一緒に通えるよ。試験も大丈夫だったんだろう?」

「……うん」


 僕も手応えがあったし、きっと栞と一緒に第一志望の大学に通うことができると思う。そうなると信じたい。


「そうだ、栞。ちょっとここで待ってて。栞に渡したいものがあるから」

「えっ、う、うん……」


 今日がどういう日なのか栞も分かっているからか、栞は頬を赤くしている。

 僕は自分の部屋へ、栞にプレゼントするために作ったクッキーを取りに行く。今日はホワイトデーだからね。


「はい、栞。バレンタインデーの時はありがとう」


 リビングに戻り、こたつで温まっている栞にお返しのクッキーを渡そうとする。

 すると、栞は急に正座になって、僕からクッキーを受け取った。


「ありがとう! 悠介君! さっそく食べてみてもいい?」

「うん、ぜひぜひ」


 僕も何回か試食して美味しいとは思っているけれど、栞の口に合うかどうか。

 栞はラッピングした袋のリボンを解いて、さっそくクッキーを1枚食べる。


「美味しい!」


 とびきりの笑顔をして、僕にそう言ってくれた。嬉しいと同時にほっとする。


「栞、今年はクッキーの他にもまだあるんだよ」

「えっ?」

「今は苺の季節だからさ、苺のムースを作ってみたんだ。それを栞と一緒に食べたいなと思って」

「そうなんだ! 楽しみだなぁ」


 栞は苺が大好きだからなぁ。受験勉強の合間にお菓子作りにはまったのを理由に、今年のホワイトデーにクッキーと苺のムースを作った次第である。


「冷蔵庫で冷やしてあるから持ってくるよ。コーヒーか紅茶を淹れようと思うんだけれど、栞はどっちがいい?」

「じゃあ、紅茶でお願いします」


 僕はキッチンに行き、栞と僕の分の紅茶を淹れる。そして、苺のムースと一緒にリビングで待っている栞のところに。


「うわあ、可愛いね」

「苺の酸味もあるけれど、やっぱり甘めがいいと思って。ハートっぽく見える苺がいくつかあったから、半分に切ってムースの上に乗っけてみたんだ。それがポイント」

「……悠介君、この1年で女子力が上がったよね」

「受験勉強の合間にどんなことをしようか考えて、家でできる楽しいことを探していたら……お菓子作りにはまっちゃったってだけだよ」


 僕にとっては受験勉強の合間のいい気分転換になった。お菓子が作れることって女子にとっては一つのステータスになっているのかな?


「ん~、おいしい! 今度、作り方教えて!」

「うん、いいよ」


 栞、苺のムースをこんなにも美味しそうに食べてくれるなんて。作った甲斐があったな。今度は苺のタルトにでも挑戦してみよう。

 栞はムースを食べ終わるまで一度も手を止めることはなかった。作った人間として嬉しい光景だ。


「悠介君、ありがとう。素敵なホワイトデーになったよ」

「いえいえ」


 ホワイトデーでなくても、栞といるだけで毎日が素敵になっているよ。僕にとっては。

 気付けば、僕はまだ苺のムースを一口も食べていなかった。栞がおかわりを要求してきたので、僕は栞と一緒に苺のムースを食べるのであった。



 後日、僕と栞は共に第一志望の国公立大学に合格した。4月から栞と一緒に大学生活を送ることになるのであった。




特別編-The White day in 2017- おわり

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