4月3日(月)

特別編-Enroll University-




 4月3日、月曜日。

 今日は僕と栞が4年間通うことになる潮浜国立大学経済学部の入学式が執り行われる。天候も快晴で幸先のいい大学生活が待っていそうな気がする。


「いい天気になったね」

「そうだね」

「温かくなってきて良かったよね。つい2、3日前まで結構寒かったから」

「ようやく春がやってきた感じだね」


 今年の3月は結構寒く、東京で桜が開花したニュースがあった後でも、真冬並みの寒さになる日もあって春を迎えたという実感がなかなか持てなかった。

 ただ、4月になってようやく温かさがやってきて、入学式である今日は春らしい温かさとなっている。

 晴れている中で大学のキャンパスの前に立つと、こんなにも輝いて見えるのだろうか。受験のときは曇天だったから尚更だ。

 受験のときは私服だったけれど、今日は入学式なのでスーツを着ている。入学式のためであることはもちろん、今後のためにと春休み中に両親にスーツを買ってもらった。


「……栞もスーツなんだね。振り袖かと思ったよ」

「振り袖は卒業式だよ。その前に成人式があるけれど。振り袖なんて着ていたら絶対に目立っちゃうって」

「ああ、確かに……」


 周りを見てみると、振り袖を着ているような人は全然見当たらないな。

 今日は栞の振り袖姿を楽しみにしていたんだけれど、それを観ることができるのは早くても再来年にある成人式のときか。


「でも、スーツの栞も可愛いね。似合ってるよ」

「そうかな? ありがとう。悠介君もかっこいいよ。いつかは、こういう姿の悠介君を毎日見ることになるんだね」

「……いつかね」


 今日、大学の入学式なのに、栞の頭の中では既に大学を卒業した後の未来を想像してしまっているようだ。常に先のことを見据えて行動するのは大事だと思うけれど、随分と遠くにあることを見据えてしまっていないだろうか。高校の後輩である朝比奈さんの影響かな。彼女は氷室さんっていう社会人の婚約者と同棲しているから。

 ――ちゅっ。

 そんなことを考えていたら、栞がそっと口づけをしてきた。


「えへへっ」

「……こんなところで口づけをしたら恥ずかしいな」


 周りを見てみると……僕達のことを見ている新入生らしき人が何人かいる。それが分かった瞬間、顔が熱くなってきた。


「あれ、今日ってこんなに暑かったっけ」

「そんなことないよ。爽やかだよ。それに、熱いのは悠介君の顔だけだと思うよ」


 誰のせいでこうなったと思っているのか。まあ、栞から口づけされるのは好きなので許すけれども。

 もしかして、栞は僕が自分の彼氏であることを周りの人に示したかったのかな。


「まあいいや。これから充実した大学生活にしよう。もちろん、楽しみながら」

「うん! 悠介君と一緒にサークルとかバイトとかもやって」

「……勉強に支障が出ない程度にね」


 学生の本分は勉強だからな。

 でも、将来のことを考えるとサークルとかバイトもやっておくと、ためになるのかな。サークルの方は面白そうなところがあったら入るかどうかを考えればいいか。バイトの方はちょっとずつ。


「おっ、そろそろ行かないと」

「会場はこっちだって。行こう!」


 僕は栞に手を引かれる形で入学式の会場であるホールへと向かう。

 そういえば、栞と付き合ってから3年近くになるけれど、違う高校に通っていたからこうして一緒の学校に通うのは初めてなんだな。何だか不思議な感覚だ。

 温かな風が流れる中で、僕と栞の大学生活が始まるのであった。




特別編-Enroll University- おわり

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